既報のように、インターステラテクノロジズ(IST)は12月21日、記者会見を開催し、人工衛星事業への参入や、観測ロケット「MOMO」の改良開発などについて説明した。また同社が北海道・大樹町で建設していた新社屋と新工場が完成し、同日、竣工式も開催された。本稿では、ISTの最新状況について詳しくレポートしよう。

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    会見はオンラインでも配信された。右は同社の稲川貴大・代表取締役社長、左は堀江貴文・ファウンダー

MOMOは初のメジャーアップデートへ

MOMOは、2019年5月に打ち上げた3号機が、初めて宇宙空間へ到達。しかしその後は、同年7月の4号機、2020年6月の5号機と、機体トラブルによる失敗が続き、さらに7号機は点火器の問題によって2回にわたって延期され、残念ながら、2年連続の宇宙到達とはならなかった。

この7号機で起きた問題についてであるが、同社は点火器の改良を実施。火力を強くすることで、従来は2台とも正常に点火する必要があったのに対し、今後はどちらか1台だけ点火すれば良くなるようにする。2台中の1台で良いのであれば、冗長構成となるため、信頼性は大幅に向上するだろう。

参考:ISTのMOMO7号機は再び点火器に問題が発生、打ち上げは一旦仕切り直しに

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    MOMO7号機は点火器の性能を強化してから再打ち上げに臨む (C)IST

同社はこれまでに、射場にて、6機のMOMOの打ち上げオペレーションを実施してきた(うち1機は延期中)。筆者もずっと取材してきて、気になっていたのは延期の多さだ。天候による延期は仕方ないにしても、様々な細かいトラブルが次々と起こり、そのたびに推進剤の充填からやり直し。量産して高頻度に打ち上げるには、信頼性に大きな課題があった。

同社が今回発表したのは、MOMOの改良開発についてだ。これまでの運用で、同社にはMOMOでの様々な知見が蓄積されつつある。同社の稲川貴大・代表取締役社長は、製造・性能のバラつきや当日の環境によって不具合が生じるデリケートさ、部品交換時などの保守性の悪さ、組み付けに高いスキルが必要な場合があること、などを課題として指摘する。

今後、ロケットの中心的な構成要素であるエンジンを改良するタイミングに合わせ、システム全体に様々な改善策を盛り込もう、というのが今回の計画である。これまで、MOMOは毎回細かい改良は行っていたが、メジャーアップデートと言えるものは今回が初めて。同社は従来のMOMOを「v0」、新型を「v1」と呼ぶ。

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    従来型「v0」から改良型「v1」へ。メジャーアップデートを行う (C)IST

v1では、これまで通り「低価格で量産可能」というコンセプトを踏襲しつつ、高信頼性化と高頻度化に取り組む。目指すのは、バラつきがあっても確実に打ち上げられ、作業者が運用・保守しやすいロケット。また同時に、衛星打ち上げロケット「ZERO」を見据えたコンポーネントの先行実証も行う予定だ。

今回、改善案として紹介されたのは以下の6点。実際にv1で採用するかどうかはまだ決まっておらず、今後実施する試験の結果を見ながら、一つひとつ判断していく。v1の初飛行がいつになるのかは、現時点で未定。今後、縦吹きのエンジン燃焼試験や、実機型燃焼試験(CFT)などを行ってから、打ち上げを実施する予定だ。

  1. フェアリングを長くし、ペイロードのスペースを拡大する。
  2. 配管やケーブルを変更。従来は、調整や動かすときに取り外していたが、これが不要になり、扱いやすくなる。
  3. ジンバルの姿勢制御能力を強化して、安定性を向上させる。
  4. エンジンを改良する。ノズルはこれまでグラファイト製だったが、SFRP(シリカ繊維強化プラスチック)の使用を検討中。
  5. アビオニクスの全体構成を変更する。ZEROのアーキテクチャに近くなるという。
  6. 地上設備を刷新し、省力化と高信頼性化を推進する。
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    MOMO v1での改善点。大きくこの6点が検討されている (C)IST

v1→v2ではなく、v0→v1とした点について、稲川社長は「これまでの実験的・試験的な機体から、商品としての意識を強く持つため」と、意図を説明する。様々な改良により、コストが増える可能性はあるが、設計変更による工数削減効果も期待できるため、「全体としてコスト増は最小限に抑えられる」(同)見込みだ。

そして同社の新たな拠点となるのが、このたび完成した新社屋と新工場だ。新工場は従来よりも広くなっており、MOMOの複数機同時製造が可能。今後MOMOを量産し、高頻度に打ち上げいくための体制が大きく整ったといえるだろう。またこの新工場は、ZEROの組み立ても見据えた広さになっているとのこと。

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    左が新社屋で右が新工場。新社屋の2Fは事務所となり、100人規模の収容が可能だという (C)IST

ZEROは、2023年の打ち上げ予定。竣工式に出席した同社ファウンダーの堀江貴文氏は、ZEROの開発状況について、「要素技術の研究は順調に進んでいる。予定通り皆さんの前にZEROというロケットを出現させることを約束する」とコメント。「ZEROが完成すれば、その後は必ず流れに乗れる」と意気込んだ。

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    新工場には、ZERO(これはバルーンの実物大模型)も格納できる。右はMOMO7号機だ (C)IST