【6】「ドコモ口座」で再び問われたセキュリティ

マイナポイント事業と同じく2020年9月に、スマートフォン決済にまつわる問題として注目を集めたのが、NTTドコモの「ドコモ口座」で発生した不正利用事件です。この不正はドコモ口座と銀行口座、双方に存在したセキュリティの隙を狙った非常に巧妙なものでした。

2019年の「PayPay」「セブンペイ」で発生した問題はその企業単独のセキュリティの甘さが問題につながっていましたが、今回は不正の対象が複数にまたがっていたため、その発覚や対応が遅れた感は否めないでしょう。

スマートフォン決済の普及を推し進める上でも、金融・決済事業者全体で連携し、セキュリティを向上させる取り組みが求められる所です。

  • 「ドコモ口座」を活用した不正利用は当初NTTドコモの責任が大きく問われたが、その後銀行側のセキュリティの低さも問題視されるようになった

【7】菅政権の発足で携帯3社に一層の値下げ圧力が

そして9月、ある意味で2020年最大のトピックといえる出来事となったのが、安倍晋三前首相が病気で退任したことを受け、前官房長官の菅義偉氏が首相に就任したことです。

菅氏は携帯料金値下げに非常に熱心なことで知られていますが、菅氏が首相となったことで携帯料金引き下げは政権公約となり、菅氏から「市場寡占だ」として批判されていたNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社は強い値下げ圧力を受けることとなりました。

そのことを象徴しているのがサブブランドを巡る騒動です。KDDIやソフトバンクは政府からの値下げ方針を受け、「高い」とされる通信量20GBの料金プランを従来より安くしたものを、サブブランドで10月に提供する計画を打ち出しました。

しかし菅氏から料金引き下げの使命を託された武田良太総務大臣が、ブランド変更時に多くの手数料がかかることを理由にこれを認めず、メインブランドでの料金引き下げを強く要求したのです。

  • 菅政権で総務大臣に就任した武田氏は、就任から早々に料金引き下げに向け積極的に動く一方、成果を急ぐためかやや強引さも目立っている

その圧力が後述する「ahamo」へとつながっていくワケですが、政治による圧力で料金を引き下げるという菅政権の姿勢は民間企業の自由を奪うもので、政治の力で値下げだけでなく値上げもできてしまうことになりかねません。今後を考えると非常に多くの問題を抱えた行為であることはもっと知られるべきではないでしょうか。

【8】NTTがNTTドコモを完全子会社化、ライバル他社は反発

同じく9月に業界に激震を与えたのが、日本電信電話(NTT)が最大手のNTTドコモを完全子会社化すると発表したニュースです。

株式公開買付に4兆3000億円もの巨額を費やすとしたことも驚きをもたらしましたが、やはり大きなインパクトだったのは、これまでNTTとはやや距離があったNTTドコモを、完全にNTTの傘下に収めてしまったことです。

  • NTTは9月にNTTドコモの完全子会社化を発表。業績が振るわないNTTドコモを強化するのが狙いとされているが、一方で分離・分割が進んだNTTグループが再集結する動きとしてライバル他社の警戒感は強い

NTTは完全子会社化の理由として、1つに研究力を強化し世界の通信市場をリードする技術を開発すること、そしてもう1つにNTTドコモの業績が最近低迷しており大手3社の中で最も利益が少ないことを挙げました。子会社化することで、NTTコミュニケーションズなどNTTグループが持つリソースを使って競争力を強化するといいます。

ですがNTTグループは前身が電信電話公社、要は国営企業であり、国の予算を投じて全国に整備した固定通信インフラを持っています。それを運営しているのはNTT子会社のNTT東日本・NTT西日本ですが、NTTドコモも同じ子会社となることでNTT東西との取引が有利になる可能性があることから、KDDIやソフトバンクなどライバル他社は総務大臣に意見申出書を提出するなど、強く反発する動きを見せています。

【9】全機種5Gで“ミニ”も追加、「iPhone 12」シリーズが登場

新型コロナウイルスの影響で例年より遅れていたアップルの新iPhone「iPhone 12」シリーズですが、無事10月に発表されて大きな注目を集めました。

その理由の1つは、全機種5Gに対応したこと。そしてもう1つは、新たに5.4インチディスプレイを搭載したコンパクトサイズの「iPhone 12 mini」が投入され、全4機種のラインアップとなったことです。

日本ではiPhone、そしてコンパクトサイズのスマートフォンの人気が高いことから、iPhone 12シリーズが停滞していた日本の5Gの普及を促すけん引役となっているようです。2021年も引き続き、iPhoneの新機種は注目されることになるのではないでしょうか。

  • 「iPhone 12」シリーズは全機種5Gに対応。「iPhone 12 mini」の追加で「iPhone 12」と「iPhone 12 Pro」シリーズのバランスが取れたことも評価を高めたポイントといえる

【10】2,980円で20GB、「ahamo」の登場で料金競争が激化

先に触れた菅政権の携帯料金引き下げやNTTによるNTTドコモの完全子会社化など、業界に激震を与えた事象が色濃く反映された出来事と言えるのが、2020年12月にNTTドコモが発表した「ahamo」です。

ahamoは複雑な割引が一切不要で月額2,980円、かつ20GBの大容量データ通信が可能というシンプルさとコストパフォーマンスの高さが注目されましたが、一方で低価格実現のため契約やサポートをオンラインに絞ったことも驚きをもたらしました。

当初NTTドコモはahamoをサブブランドとして提供しようとしていたようですが、先の武田大臣のメインブランドによる料金引き下げにこだわる姿勢を受け急遽料金プランとして提供したことで、今後ドコモショップでのサポートなどに混乱が起きる可能性がありそうです。

  • NTTドコモが12月に発表した「ahamo」は、複雑な割引が不要で月額2,980円、かつ20GBのデータ通信が利用できるなど、シンプルで安いことがSNSなどを積極利用する若い世代の心をつかみ、大きな話題となった

とはいえahamoは発表直後から大きな評判を呼んだのは確かで、その約1週間後にKDDI(au)が従来通り複雑な割引のあるプランを発表したところ、「不誠実だ」と評価されSNSで炎上が起きる騒ぎを呼んだことが、影響の大きさを物語っています。

既にソフトバンクがLINEモバイルを吸収して新たなブランド「Softbank on LINE」(仮)を立ち上げ、対抗プランを打ち出すなど大きな動きを見せていることから、2021年はahamoを軸とした携帯電話料金を巡る競争が話題となることに間違いないでしょう。