新型コロナウイルスが猛威を振るった2020年。携帯電話業界では5Gによる明るい未来が待っているはずでしたが、コロナ禍の影響を少なからず受け、激震をもたらす出来事が相次いだ波乱の1年だったといえます。主なトピックを時系列で振り返っていきましょう。

【1】コロナ禍で「MWC 2020」が中止、5Gの今後に影

中国で猛威を振るった新型コロナウイルスに対する不安が国内でも急速に高まったのは、集団感染が発生したクルーズ船のダイヤモンド・プリンセス号が横浜に就航した2020年2月頃ではないでしょうか。その影響を大きく受けたのが、その2月下旬にスペインで開催予定だった世界最大の携帯電話の総合見本市イベント「MWC 2020」です。

MWCには多くの中国企業が参加する予定であったこともあり、感染の影響を恐れて開始直前に出展を見合わせる企業が急増した結果、MWC 2020の開催そのものが中止となってしまったのです。

MWCは携帯電話業界の1年を占うイベントでもあり、2020年はとりわけ5Gに関する技術の進展に大きな注目が集まると見られていただけに、その中止が5G、ひいては業界全体に与えた影響は小さくなかったといえます。

  • 新型コロナウイルスの影響で直前に中止となった「MWC 2020」のWebサイトより。NTTドコモの吉沢和弘前社長などが登壇する予定だった

【2】5Gの商用サービス開始もコロナ禍に普及を阻まれる

一方2020年、国内で大きなイベントとなる予定だったのは、新しいモバイル通信規格「5G」の商用サービス開始でした。

サービス開始前から大きな期待が持たれていた5Gは、携帯大手3社が予定通り3月にサービスを開始したのですが(ドコモauソフトバンクの関連記事)、その普及を阻んだのがやはり新型コロナウイルスです。

3月といえば新型コロナの影響が深刻になり始めた時期でもあり、各社は感染予防のため発表イベントを急遽オンラインに移行。さらにその後緊急事態宣言が発令されたことで、東京五輪をはじめとした5Gをアピールするイベントが軒並み中止や延期となってしまったのです。

  • 大手3社の先陣を切って3月5日に5Gの商用サービス開始を発表したソフトバンクだが、新型コロナウイルスの感染拡大により華やかなイベントはオンライン配信のみとなった

その結果、5Gは狭いエリアと100,000円は下らない5Gスマートフォンの高額ぶりだけが目立つ結果となり、関心が一気に落ちてしまったのです。2021年にはエリアや端末価格の問題が解消して急拡大が進むと見られていますが、2020年の躓きは、日本における5Gの取り組みが海外よりも一層遅れて見えてしまうことにもつながっただけに、非常に残念でなりません。

【3】楽天モバイルが本格サービス開始もトラブル相次ぐ

その緊急事態宣言中の4月に注目を集めたのが楽天モバイルです。同社は2019年にサービスを開始したものの、基地局整備の遅れなどで限定的な内容にとどまっていたことから、実質的には2020年が本格サービス開始の年になったといえるでしょう。

同社の料金プラン「Rakuten UN-LIMIT」は月額2,980円で、自社エリア内であればデータ通信し放題という安さが大きな注目を集め、300万人は1年間無料で利用できるキャンペーンの実施などにより、11月時点での累計申込数が160万に達するなど伸びを見せています。

ですがエリアは大手3社より狭く、オリジナル端末「Rakuten Mini」の対応周波数を途中で勝手に変えてしまうなどトラブルも少なからず起こしていることから、顧客の信頼を得るには至っていないようです。

  • 楽天モバイルが本格サービス開始にあたって打ち出した料金プラン「Rakuten UN-LIMIT」は、月額2,980円で自社エリア内では使い放題というインパクトがあった一方、エリアの狭さやトラブルの多さが課題となった

【4】待望の新「iPhone SE」が遂に登場

同じく4月に注目されたのが、アップル「iPhone SE」の第2世代モデルです。コンパクトなサイズ感と低価格で国内での人気が高かったiPhone SEの後継モデルが、4年の歳月を経て遂に登場したことは大きな関心を呼びました。

  • 4月に発売された「iPhone SE」の第2世代モデル。「iPhone 8」がベースとなり初代より大きくなったとはいえ最近のスマートフォンの中ではコンパクトで、性能が高く価格も安いことから人気となっている

こちらも携帯大手3社からの販売が5月にずれ込むなど、緊急事態宣言の影響を少なからず受けています。ですが早い段階で「UQ mobile」や「ワイモバイル」など携帯大手のサブブランドでも取り扱いを開始するなど、販路が急拡大したことからコンスタントな人気を獲得しているようです。

【5】盛り上がりに欠けた「マイナポイント事業」

2019年に大きな盛り上がりを見せたスマートフォン決済。その盛り上がりを高めた要素の1つとなったのが、経済産業省が2019年10月から2020年6月まで実施していた「キャッシュレス・ポイント還元事業」でした。

それに続く行政のキャッシュレス決済普及策として注目されたのが、総務省が2020年9月より実施している「マイナポイント事業」。こちらはマイナンバーカードがないとポイント還元が受けられないことから、開始前にはコロナ禍にもかかわらず多くの人がマイナンバーカード発行のため役所に訪れるなどの混乱も起きていました。

その結果、12月時点でマイナポイントの申し込みが1,000を超えるなど一定の成果を上げましたが、やはりカードの発行がハードルとなっており、ポイント付与上限の4000万人には遠く及ばないのが現状です。そのためマイナポイント事業は、2021年3月の終了予定を半年延長する可能性が高まっているようです。

  • 「マイナポイント事業」のWebサイト。開始前には盛り上がりを見せたマイナポイント事業だが、カード発行がハードルとなり利用は進んでいないのが現状だ