宇宙航空研究開発機構(JAXA)は11月30日、小惑星探査機「はやぶさ2」に関するオンライン記者説明会を開催し、同月26日に実施した軌道制御「TCM-3」の結果について報告した。TCM-3は無事完了し、探査機の進路はオーストラリア・ウーメラへ変更。これでいよいよ、はやぶさ2の地球帰還は確実となった。

精度は「1km先のテントウムシ」

はやぶさ2は、最終誘導フェーズにおいて、5回の軌道制御(TCM)を実施する。TCM-3の前までは、安全のため、探査機は地球の高度290kmのところをギリギリ通過する軌道を飛行。今回、探査機の健全性を確認した上で、オーストラリア政府から再突入軌道へ投入する許可を取得、化学エンジン(RCS)を噴射して、進路を0.0085°だけ曲げた。

TCM-3の結果、大気圏再突入時の誤差が±10kmという軌道への投入に成功。このとき、探査機は地球から約360万kmも離れていたので、これは「1km先にいるテントウムシを狙う」ほどの精度だったという。

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    地球を通過する軌道から、地球に再突入する軌道へ。重要な制御だった (C)JAXA

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    仮想的な“的”で表示した図。TCM-3で、軌道を一気に地球側へ寄せた (C)JAXA

ただ、高度200kmの時点で誤差が±10kmだったとしても、さらに降下して高度10kmでパラシュートを開いてからは、着地までの約20分間、風に流され続けることになる。これは気象条件によって変わるため予測が難しく、着地点の予想エリアは、100km×230kmもの大きな楕円になってしまう。

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    TCM-3の軌道制御誤差(黄)。高度10kmから広がるのは、地上の風が原因 (C)JAXA

はやぶさ2では、カプセルの探索方法が強化されているものの、より確実にカプセルを回収できるよう、12月1日には「TCM-4」を実施。着地点を、回収班が待ち構えている方向へ、33kmほど移動させた。地球からの距離は、TCM-3時の約半分にまで近づいているので、結果として精度が上がり、着地予想範囲は100km×150kmまで狭まった。

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    TCM-4により、着地予想範囲を狭めると同時に、中心を南東へシフト (C)JAXA

カプセルの探索方法は、なんと万全の6段構え。強化された点については、以下の記事で詳しく紹介しているので、興味がある人はそちらを参照して欲しい。

参考:帰還したカプセルを見つけ出せ! はやぶさ2で強化された回収方法とは?

軌道がかなり正確に決まったことで、今後の予定については、分単位の詳細なスケジュールが明らかになった。注目のカプセル分離は、12月5日の14時30分。探査機を逃がす軌道制御「TCM-5」は、その1時間後の15時30分~18時00分に実施する予定だ。

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    今後のスケジュール (C)JAXA

カプセルの再突入は、日付が変わった6日の2時28分~29分頃になる見込み。探査機は、高度200~300kmあたりを飛行する予定だが、2時28分~30分には、再突入時に発光するカプセルの撮影にも挑戦する。おそらく「点」にしか見えないとのことだが、こちらの画像も楽しみなところだ。

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    探査機とカプセルの動き。上空からの火球の撮影にも注目だ (C)JAXA

その後、カプセルは2時47分~57分に着地すると見られている。深夜の遅い時間帯ではあるものの、宇宙ファンとしては興奮で眠れない一夜になりそうだ。

現地の回収班の作業も順調に進行中

また、ウーメラに派遣された回収班から、現在の状況についても報告があった。南半球のオーストラリアは、日本とは逆に今は夏。気温が40℃を超えることもあるそうで、そんな過酷な環境の中、熱中症の予防対策をとりながら、カプセルを探索するためのアンテナの設置を完了させたという。

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  • ウーメラでは、炎天下の屋外で作業。アンテナの設置を完了した (C)JAXA

カプセルを回収後、すぐ運び込んで必要な措置を行うQuick Look Facility(QLF)のクリーンブースの設営も完了した。はやぶさ初号機とは異なり、はやぶさ2では、このQLFにて、サンプルコンテナからガスの採取を行う。現地で簡易分析を行うので、ここでもしリュウグウ由来のガスと分かれば、内部にサンプルが入っている期待はさらに高まるだろう。

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    QLFに、簡易的なクリーンブースを設置。試運転が行われている (C)JAXA

はやぶさ2の地球帰還時、JAXAは相模原キャンパスにプレスルームを設け、記者会見を行う予定。マイナビニュース取材班も現地から情報をお届けする予定なので、楽しみにお待ち頂きたい。