宇宙航空研究開発機構(JAXA)は10月29日、小惑星探査機「はやぶさ2」に関するオンライン記者説明会を開催し、カプセル回収に向けた準備状況について説明した。また同時期、リュウグウが地球に接近するのに合わせ、地上からの科学観測も予定しており、その内容についても説明が行われた。

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    カプセル回収隊のロゴマーク (C)JAXA

カプセル分離に向けた運用訓練

はやぶさ2は、12月6日に地球に帰還する予定。現在は、地球のすぐそばを通過する軌道を飛行しているが、今後、地球に衝突するコースに乗せて、再突入カプセルを分離。その後、再び軌道を変え、地球を通り過ぎ、新たな探査の旅へと向かう計画だ。

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    最終誘導フェーズでは、5回の軌道制御を実施する予定だ (C)JAXA

10月22日には、一連の軌道制御の第1回目となる「TCM-1」が実施された。この結果、地球への最接近高度は約400kmから約310kmに短縮。続いて11月12日に「TCM-2」を実施し、さらに11月25日~29日の「TCM-3」によって、いよいよ進路をウーメラに向けることになる。なお、現在の探査機の状態は正常だという。

このカプセル分離は、かなりクリティカルな運用となる。地球は刻一刻と接近しており、途中でトラブルが発生しても、「とりあえずアボートして後日やり直す」というわけにはいかない。そういう意味では、小惑星へのタッチダウンとは別の難しさがある。

どんな状況になっても適切な判断を下し、慌てず対応できるようにするためには、運用チームの訓練が必要だ。そこで、小惑星近傍運用と同様に、今回のカプセル分離運用でも実施したのが、地上設備の「はやぶさ2運用シミュレータ」(HIL)を用いたリアルタイム運用訓練である。

これは、9月26日に実施。カプセル分離から地球離脱の「TCM-5」までを範囲として、運用訓練を行った。JAXAの津田雄一プロジェクトマネージャによれば、分離直前にカプセルの内部データに異常が発生するなど、合計9ケースのトラブル対応を実施。その結果、何とか乗り切って「すべてで成功した」という。

さらに、11月4日には、探査機実機を使ったリハーサルも実施。もちろん、本当にカプセルを分離するわけではないものの、それ以外の部分、たとえば探査機を分離姿勢に向けるとか、カプセルに電源を入れてパラメータを書き込むようなことを行っている。

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    カプセル分離運用の訓練。シミュレータと探査機実機で実施 (C)JAXA

こういった訓練の効果は、はやぶさ2ではすでに実証されている。リュウグウに降下する際、トラブルで開始が遅くなったものの、事前に訓練で経験していたため、高速降下で遅れをリカバリーすることができた。こうしたしつこいほどの準備が、はやぶさ2のこれまでの順調さを下支えしてきたと言えるだろう。

目前に迫った地球帰還に対し、津田プロマネは、「いよいよだなと身が引き締まる思いの一方、ワクワクもしている。リュウグウで大成果を上げたし、お宝もきっと入っている」と心情をコメント。「NASAがベヌーへの着陸を成功させ、小惑星探査で猛追している。その中できちんと成功させ、星のかけらをぜひ見てみたい」と意気込んだ。

カプセル回収隊の準備状況は?

オーストラリアでのカプセル回収に向け、地上側の準備も着々と進んでいる。JAXAが同国に派遣するカプセル回収隊は、先発隊が14名、本隊が59名の計73名。先発隊は、11月1日に出国。アデレードにて2週間の隔離の後、ウーメラに向かう。本隊は8日遅れて11月9日に出国。その後のスケジュールは同様だ。

同国の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の状況は落ち着いているものの、まだ入国禁止の状態が続いているため、今回は特例として入国を認めてもらったという。ただ、州間の移動にも2週間の隔離が必要になる場合もあり、今回は南オーストラリア州のアデレードに直接チャーター便で向かうことになっている。

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    カプセル回収隊の準備状況。出国前には、自主的に1週間の隔離も (C)JAXA

リュウグウの地上観測も実施

リュウグウの地上観測については、京都大学大学院 理学研究科の黒田大介・特定助教から説明があった。

今回実施するのは偏光撮像観測である。リュウグウの地球接近は、大きい位相角(太陽-小惑星-地球の角度)で観測できるチャンスだという。リュウグウのような暗い小惑星は、位相角が90°~100°において、高い偏光度を示すことが予想されているが、観測例がほとんどない。ベヌーで観測された例はあるが、位相角は57°までだった。

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    偏光を観測する。今回は大きな位相角で観測できるチャンスだ (C)京都大学

太陽光が小惑星表面で反射したとき、偏光度が高くなるのだが、その増え方は小惑星によって様々。暗い(=反射率が低い)小惑星の場合、最大30%超になると予測されるものの、本当にこのような高い偏光度を示すかどうかは、実際に確認してみないと分からない。リュウグウが接近する10月~12月は、これを確認できる貴重な機会なのだ。

黒田氏らのグループの研究によれば、偏光度と表層粒子サイズには密接な関係があることが予想されているという。リュウグウはMASCOTなどの近接観測により、表層の状態が良く分かっている。もし偏光度が予測と違えば、近接画像では見えなかった微小粒子の存在が確認できる可能性がある。

黒田氏によれば、こうした観測により、「小惑星表層で生じる偏光のメカニズムが明らかにできるかもしれない」という。10月には、国内3大学の天文台で偏光データを取得。今後、さらに韓国の普賢山天文台も加えて12月まで観測を行い、最終的な結果は2020年末以降に判明する予定だ。

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    見えなかった微粒子の存在が分かる? (C)北海道大学、兵庫県立大学、広島大学