グーグルは新しいフラッグシップ「Pixel 5」を10月15日に発売します。新モデルは5Gスマホながら「高嶺の花にしない」ための工夫が伝わる1台。この記事ではPixel 5の実機を約24時間がっつり試用したファーストインプレッションをお届けします。
Pixel 5が目指した「手が届く5Gスマホ」
Android陣営の盟主、グーグルが自ら企画開発するPixelシリーズは、Androidを代表するスマートフォンといえます。そのPixelシリーズで初の5G対応を果たすPixel 5では、ある“路線転換”がなされています。
第4世代「Pixel 4」までのPixelシリーズは、Android OSの特徴をいち早く取り入れつつも、グーグルの先進技術も取り込んだ新しいコンセプトを実現するスマホでした(例えばPixel 4のSoliレーダー)。言い換えると、“グーグルによる実験場”としての役割を担っていたといえます。
Pixel 5ではその路線がやや修正されました。グーグルがこのスマホで目指したのは「手が届く5Gスマホ」という方向性です。性能と価格を抑えつつ、より多くの人の求める機能を揃えています。
概要:「究極のスマホ」だが「最強のスマホ」ではない
Pixel 5は、紛れもなくPixelシリーズのフラッグシップです。Googleストアでうたわれる文句「Googleが作った究極のスマホ」からも、その位置付けは明らかです。
しかし、「究極」であっても、「最強」ではありません。スマホの中核部品となるチップセットは、Snapdragon 765Gという、最上位から一段落としたグレードの製品をあえて採用しています。
Snapdragon 765Gは、5Gの通信機能と3Dゲームも動かせるグラフィック性能を統合したチップセットで、コストパフォーマンス重視の5Gスマホで多くの採用例があります。スマホの高性能化が進む中で、最先端の技術を取り入れた上位製品には100,000円を超える高価なものが増えてきました。Pixel 5はその中で、性能と価格のバランスを取るため、あえて最上位のチップセットを採用しなかったのでしょう。
グーグルの強みは、洗練されたソフトウェア開発能力と、AI関連の技術の蓄積にあります。Pixel 5ではより先端的な技術の投入を控えつつ、より実用性を高める方向に進化の舵を切っています。
デザイン:軽めの4G LTEスマホと渡り合える軽さ
日本で5Gサービス開始とともに投入された5Gスマートフォンの多くは、大きく重いスマホでした。鮮やかな大画面、高性能なチップセットと高級感のある外装を備えたために、重さは犠牲になりがちでした。
それに対し、Pixel 5では重さに気を使った設計がなされています。画面は6.0インチと、5Gスマホの中では小さめですが、ボディはアルミ素材を用いて軽量化し、約151gを実現しました。前世代機のPixel 4よりも11g軽くなっており、第2世代iPhone SE(4.7インチ)と比べてもわずか3g重いだけ。5Gスマホとしてはかなり軽量です。
5Gスマホといえば“迫力ある大画面”という発想に慣れつつあった筆者にとって、この軽さは衝撃的でした。5Gスマホながら、軽めの4G LTEスマホと十分渡り合える軽さです。この軽さを超える超える5Gスマホは、現時点では10月14日に発表されたばかりの「iPhone 12 mini」(約133g)しかありません。
持ったときの感覚としてはPixel 3aに近く、側面の丸い縁取りが手に馴染む印象。100%リサイクルアルミを使用しつつ、コーティングによってケント紙のような温かみを醸し出しています。
デザイン面ではPixelシリーズの伝統を継承しつつ、それを更に洗練させた印象です。伝統とは、Pixelシリーズでは金属素材を用いつつ、あえて金属に見せない塗装を施すということ。これまでの仕上げはプラスチック風で、おもちゃ箱をひっくり返したようなポップなもの。グーグルらしいフレンドリーさとやんちゃさを濃く現れている一方、好みが分かれやすいデザインでした。
それに対し、Pixel 5では奇抜さは抑えられたものの、安っぽく感じることもなく、より多くの人が親しみやすいデザインへと昇華されています。
ディスプレイ:上下左右が狭額縁のパンチホール型
前世代モデルのPixel 4は、グーグルの技術と高機能なハードウェアを組み合わせて作ったエッジの効いたスマホでした。今回のPixel 5ではそれらの“先端的な機能”がバッサリ削減され、より実用性を重視した構成になっています。
Pixel 4では巨大なノッチに小型のレーダーを搭載し、ジェスチャー操作(手かざしで画面を操作)や高度な顔認証機能を提供していました。また、Pixelシリーズでは「握ってGoogle アシスタントを起動する」独自の機能を備えていました。これらはPixel 5にはありません。その代わり、扱いやすい狭額縁なディスプレイが据え付けられています。
まず、Pixel 4にあった上部枠の大きなノッチ(膨らみ)がなくなり、上下左右の画面枠が同じ幅になりました。“パンチホール型ディスプレイ”となり、インカメラは左上の小さな抜け部分に押し込められました。
スマホの大型化が進むなかで、Pixel 5の6インチという画面サイズ(アスペクト比19.5:9)は、もはや「大画面」とは思えないでしょう。一方でこのサイズは、持ち運びにもWebブラウジングにも動画視聴にも便利なサイズ感です。
さらに下フレームがほっそりとした形状は、Android 11の標準的なジェスチャー操作ともマッチしています。Google アシスタントの握って起動はできなくなりましたが、下辺の角から斜め上にスワイプしてGoogle アシスタントを表示できます。
Pixel 5のディスプレイの喜ばしい点は、90Hzの高速駆動が引き続き搭載されたことです。特にWebブラウジングやSNSを多用する人にとって、スクロールしたときの快適さはもはや説明するまでもないでしょう。もし未体験なら、ぜひ店頭などで一度触ってみてください。
機能:電池持ちがアップ。弱点はmicroSD非対応
先端的な機能での面白みは減りましたが、AI処理とソフトウェアで実現できる部分は残されています。たとえば周りでかかっている曲をスマホが認識して曲名を表示する「この曲なに?」機能もその1つ。また現時点では日本語には非対応ですが、音声レコーダーアプリでは自動で内容を書き起こし、検索できるようにする機能が実装されています。後述する高度なカメラもAI処理がふんだんに活用されています。
Pixel 5を一台のスマホとして見ると、必要とされる多くの機能を備えていることが分かります。たとえば防水・防じん性能を備えており、国内版はおサイフケータイ(FeliCa)も利用できます。顔認証は無くなったものの、マスク着用時も使える指紋認証が復活しました。
Pixelシリーズの弱点としてよく指摘されていた電池持ちの短さは、バッテリーが4,080mAhに拡充されて緩和されました。さらにバッテリーシェア機能を搭載し、他のスマホへワイヤレス給電して電力をおすそわけできるようになっています。
Snapdragon 765Gは最上位でこそないものの、準ハイエンドという位置づけで、メモリも8GBとフラッグシップとしては不足ありません。ストレージは128GBを内蔵します。
モバイル通信はSIMフリー版は国内の全ての携帯キャリアの5G網をサポート。eSIMにも対応し、物理SIMとの2回線の同時待受(DSDS)も利用できます。
手堅く機能を詰め込んできた印象ですが、Pixel 5に欠けているものもあります。たとえば、これまでのPixelシリーズと共通で、microSDスロットは非搭載です。また、3.5mmイヤホンジャックも装備していません(普及モデル「Pixel 4a (5G)」には乗っています)。eSIMで2回線の同時利用はできますが、その際は5G接続は利用できません。