宇宙航空研究開発機構(JAXA)は9月2日、小惑星探査機「はやぶさ2」に関するオンライン記者説明会を開催し、10月から始まる最終誘導フェーズの運用について詳細を明らかにした。再突入カプセルの着地は、12月6日(日)の深夜2時~3時ころ(日本時間、以下同じ)。探査機本体のカメラを使い、再突入の宇宙からの撮影も狙うという。

12時間前にカプセルを分離する理由

はやぶさ2は現在、地球に向けて順調に飛行中だ。8月28日には、復路の第2期イオンエンジン運転がほぼ完了。今後、軌道を精密に測定してから、9月半ばに微修正(TCM-0)を行えば、往復のイオンエンジン運転は完遂となる。TCM-0後、はやぶさ2は、高度1,000km以下という、地球ギリギリを通過する軌道に乗る見込みだ。

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    第2期イオンエンジン運転によって、探査機の軌道は徐々に地球に接近 (C)JAXA

ここからの最終誘導フェーズについては、以前の記事で紹介しているが、今回、各イベントの大体の日程が公表された。注目のカプセル分離は、12月5日の14時~15時ころ。地球からの距離は約22万km(月軌道との中間よりやや遠い)で、着地の12時間前ということになる。

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    最終誘導フェーズにおける重要イベントの日時 (C)JAXA

はやぶさ2の再突入カプセルは元々、8~12時間前の分離を想定して設計されている。今回、その中でも最も長い方に設定されたわけだが、ここには、「精度良く着陸させるためには遅い方が良い」「探査機本体の退避のためには早い方が良い」というトレードオフがある。

カプセルを早く分離すれば、その分、退避運用(TCM-5)も早く実施することになるので、余裕を持って運用できるし、化学エンジンの推進剤も節約できるだろう。はやぶさ2は、地球帰還後に別の天体に向かう拡張ミッションを計画しており、そのためにもなるべく推進剤は残しておきたいところだ。

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    最終誘導では、化学エンジンにより、5回の軌道変更(TCM1~5)を行う (C)JAXA

一方、着陸精度の面ではデメリットとなるものの、初号機からの10年間で、軌道推定の精度は大幅に向上している(はやぶさ2で導入された「Delta-DOR」については、こちらの記事を参照)。JAXAの津田雄一プロジェクトマネージャによれば、「分離が12時間前でも初号機と同程度の着陸精度を実現できる」という。

ちなみに初号機では、カプセル分離は約3時間前に行われていた。はやぶさ2に比べるとかなりギリギリだが、これは、初号機には退避する能力がすでに無かったため、そのための時間を考慮する必要が無かったからだ。今回は退避する必要があるので、もっと早く分離しなければならないというわけだ。

動画で見る最終誘導フェーズ

最終誘導フェーズの運用については、同日JAXAから公開された動画を見ると理解しやすいだろう。

こちらがJAXAが公開したその動画。探査機の動きが非常に分かりやすい (提供:JAXA)

カプセルの分離は動画の0:50ころ。ここで注目したいのは分離する方向だ。イメージ的には、探査機の進行方向に分離すると思いそうなところなのだが、じつは姿勢を大きく変えてから、進行方向に対してほぼ直角に分離するのだという。

カプセルは姿勢を安定させるため、分離時にはコマのような回転を与えられる。この回転軸の向きは飛行中に変わらないため、このままだと横向きで再突入しそうだが、カプセルの軌道は地球の重力により大きく曲げられる。再突入のタイミングで、ちょうどカプセルの飛行方向と回転軸が重なるよう考え、この角度で分離するというわけだ。

動画の1:07からは、TCM-5が開始される。動画では、地球への再突入を避けるため、スラスタ4本を全力で噴射し、軌道を外側に動かしているのが分かる。ここでの噴射量は、はやぶさ2としては最大級となる。1回30秒の噴射を3回行う必要があり、各噴射の間は冷却のため、30分~1時間ほど空ける予定だという。

なお、カプセル分離からTCM-5までは1~2時間くらいしか時間が無く、最もクリティカルな運用となる。初号機の「ラストショット」のような地球の撮影は、時間的な余裕が無く、残念ながら今回は行わない。ただ、地球については、通過した後、離れていくときに撮影する予定ということだ。

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    あまりにも有名なはやぶさ初号機のラストショット。まさに奇跡のような1枚だった (C)JAXA

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    はやぶさ2は、5年前の地球スイングバイ後にも、同じように撮影を行っていた (C)JAXA

そして今回、最も注目したいのは、再突入するカプセルの撮影だ。探査機はカプセルの上空を並行する形となるので、再突入時の発光を観測できる可能性がある。撮影は探査機の側面にある広角カメラ「ONC-W2」を使うため、写ったとしても「点が見えるくらい」(津田プロマネ)とのことだが、結果が楽しみなところだ。

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    カプセルは再突入時、空力加熱により発光。宇宙から撮影できるか? (C)JAXA

動画の1:26あたり、探査機が日陰に入ったタイミングで、この撮影のために、かなり大胆に姿勢を変えていることが分かる。はやぶさ2は通常、太陽電池に日光が当たるような姿勢で飛行する。しかし地球通過時は、日陰で日光は当たらない。日光の向きを気にする必要が無いため、撮影に適した姿勢を自由に取ることができるというわけだ。

応援メッセージの募集も開始

一方、この地球帰還のタイミングは、地上から探査機を撮影する絶好のチャンスでもある。JAXAは今回、「おかえり観測キャンペーン」を実施。探査機の軌道情報を公開し、広く撮影に挑戦してもらう。ちなみに初号機では、ハワイにある日本のすばる望遠鏡が撮影に成功していた。

参考:すばる望遠鏡のWEBサイトでは はやぶさ初号機の撮影画像が公開されている

今回も探査機はかなり暗いと予想され、撮影は大型望遠鏡でなければ難しいだろうが、軌道的には、「再突入の前に日本から観測できそうな感触」(吉川真ミッションマネージャ)だという。

また地球帰還にあわせ、応援メッセージの募集も行う。メッセージの投稿は、WEBフォームまたはTwitterから。すでに開始しているので、詳細については、プロジェクトのWEBサイトを参照して欲しい。

参考:応援メッセージの募集について