日本テキサス・インスツルメンツ(日本TI)は8月5日、オンラインの形で事業説明会を行い、同社の方向性と現状について説明を行った(Photo01)。
まず同社の現状だが、2019年の実績で言えばトータル143.8億ドル。うち102.2億ドルがアナログであり、あえて同社を分類すればアナログ半導体企業ということになる(もっとも同社はアナログだけでなくトータルソリューションを提供する会社だ、としている)。売上分野で言えば、産業機器と車載で大半を占めているとする(Photo02)。
ちなみに2020年で言えば、第2四半期の実績は売上高32億2900万ドルで、2019年第2四半期の36億6800万ドルからやや下がっているが、これは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響などがあるとの事。ただCOVID-19の影響で、例えば車載などは売り上げが落ちている半面、医療機器向けの売り上げはむしろ増えるなど、ある程度はポートフォリオによりカバーできているという話であった。
さて、Photo03はTIの製品ラインナップの幅広さを示す図であり、ここに挙げられているすべてのコンポーネントを自社で提供できる、つまりワンストップソリューションが実現できるのが強みだとしている。
具体的な例として、最近発表されたBQ25790/BQ25792とかTMCS1100/1101を例にとり、従来では難しかったアプリケーションを容易に実現できる様なソリューションを今後も提供してゆく、とした。
ちなみに日本のマーケットで言えば、先にも触れたように車載と産業分野の比重が高い訳で、ここに向けての具体的な取り組みの説明もあった(Photo05)。
その豊富なラインナップを支えるのが、グローバルな製造戦略である。世界中に製造拠点があり(Photo06)、災害時などでも供給の継続性(BCP)を保つことができる。
というか、現状がすでに準災害状態という感じであり、世間ではサプライチェーンなどに支障が出ている部分もあるのだが、世界各国に拠点を設ける事でこれをうまく回避できているという話であった。
余談であるが、同社のテキサスにあるRFABとDMOS6は、すでに300mmウェハを利用してのアナログ製品の量産を開始しているとする。アナログへの300mmウェハの対応は、例えば2019年にはON SemiconductorがGlobalfoundriesのFab 10を買収してアナログ製品向けにラインを転換するといった動きがあるが、TIも投資は300mmに集中しているようで、いよいよアナログ製品に関しても本格的に300mmへの移行が始まるのかもしれない。
供給の次がサポートということになる。ここでは日本での話になるが、基本顧客のそばに営業拠点を置くと共に、オンラインサービスを含めた様々なサポート体制を敷いているとする(Photo07)。
最後が今後への展開である。同社は自社Fabを保有しており、これを利用しての独自の新プロセスあるいは新パッケージが強みの1つであるとしており(Photo08)、今後も投資を継続してゆくとする(Photo09)。
説明はおおむね以上の通りであるが、なぜこの時期にこのような発表会が行われたか? という事を最後に記しておきたい。TIはここしばらく、あまり対外的な発表をしてこなかった。これは日本TIだけでなく、本国も含めてである。もちろん投資家向けの発表やアナリスト向けの説明などはきちんと行っているが、それ以上の発表をあまりしてこなかった。元々同社はそれほど饒舌に戦略を語るメーカーではないのだが、それでも1つ理由を挙げれば2018年7月に、就任後わずか6週間で「Personal behavior」を理由にCEO職を更迭。6月にCEOを退いて、一旦は会長職のみに退いたRich Templeton氏が再びCEOに復帰するといった騒ぎの後は、余計に戦略などについての説明が少なくなった気がする。この一連の騒ぎに関しては詳細はもちろん語られていないのだが、ただこうした事に触れられるのを嫌がったためだろうか? この後はめっきりプレスリリースなども減った感がある。ただもうそこから2年近く経過しているし、特にCOVID-19の環境下では「音沙汰のない企業≒状況が色々苦しくなっている」と取られがちなことを懸念して、「多少のインパクトはあるにせよ、基本的には健全な状態である」ことのアピールをする方向に切り替えたのかもしれない。
今後も煩雑に同社が、こうしたビジネス動向などを説明する機会を設けてくれるとありがたいと思わせてくれる会見であった。