日本IBMは6月15日、オンラインによる記者説明会を開き、同19日に「IBM Cloud Pak for Data V3.0」の正式リリースを発表した。

IBM Cloud Pak for Dataは、すでに提供済みの企業・組織がデータから得た洞察を簡素化・自動化し、オープンで拡張可能なアーキテクチャを提供する。

冒頭、日本IBM クラウド&コグニティブ・ソフトウェア事業本部 Data and AI事業部 理事の正木大輔氏は「デジタルトランスフォーメーション(DX)に向けて、デジタルやAIの技術を本格的に事業・ビジネスに最初から組み込もうとしており、多くの企業が成長戦略として掲げている。新型コロナウイルスの影響もあることに加え、経営者は今後も新型コロナウイルスに値するような不確定要素が起こると考えている」と述べた。

  • 日本IBM クラウド&コグニティブ・ソフトウェア事業本部 Data and AI事業部 理事の正木大輔氏

    日本IBM クラウド&コグニティブ・ソフトウェア事業本部 Data and AI事業部 理事の正木大輔氏

このような環境下においても、企業の経営を成長させる準備が必要であり、「アプリケーションの継続デリバリー」「データとAIの継続的デリバリー」の両輪により、変化に迅速に対応できるITのサービス提供ができるという。アプリケーションの継続デリバリによるDevOps、データとAIの継続的デリバリーによるDataOps、MLOpsがそれぞれ必要になると、同氏は指摘する。

  • 「アプリケーションの継続デリバリー」「データとAIの継続的デリバリー」の両輪で変化に迅速に対応できるITのサービス提供ができるという

    「アプリケーションの継続デリバリー」「データとAIの継続的デリバリー」の両輪で変化に迅速に対応できるITのサービス提供ができるという

そこで、AIの実用を加速するためのアプローチとして同社では「AIのはしご(AI Ladder)」を提唱しており、Collect(データを簡単にアクセス可能に収集・接続)、Organeize(データを分析可能に整理・整備)、Analyze(AIモデルを構築、説明性を担保、洞察を発見)、Infuse(AIモデルをビジネスに活用)の4段階に分類している。

  • 「AIのはしご(AI Ladder)」の概要

    「AIのはしご(AI Ladder)」の概要

これを実現するものがIBM Cloud Pak for Dataというわけだ。同製品は企業内の情報アーキテクチャを確立し、データプラットフォームの構築を包括的に支援するクラウドネイティブソフトウェアとなっている。正木氏は「AI Ladderの4つの機能を提供し、シングルアプリケーションとして活用できる。また、クラウドネイティブのためパブリッククルドやオンプレミスなど多様な環境で利用が可能だ。そして、データ活用基盤としてだけでなく、ビジネスユーザーが活用するアプリケーションも提供している」と説明する。

  • 「IBM Cloud Pak for Data」の概要

    「IBM Cloud Pak for Data」の概要

日本IBM クラウド&コグニティブ・ソフトウェア事業本部 Data and AI事業部 テクニカルセールス部長の田中孝氏は、IBM Cloud Pak for Data主な特徴として「データモダナイゼーション、DataOpsの実現、AIライフサイクルの自動化の3点であり、ユースケースとしてはカスタマーケア、オペレーター支援、計画および予測、リスク管理となる」と話す。

  • 日本IBM クラウド&コグニティブ・ソフトウェア事業本部 Data and AI事業部 テクニカルセールス部長の田中孝氏

    日本IBM クラウド&コグニティブ・ソフトウェア事業本部 Data and AI事業部 テクニカルセールス部長の田中孝氏

最新版では、UXの一貫性向上、Planning Analyticsはじめとした新機能の追加、AutoAIなど既存機能の強化、サードパーティ機能追加に加え、Red Hat OpenShift 4.3の採用、IBM Power Systems上での稼働を新たにサポートし、より強固な基盤としている。

  • 最新版の概要

    最新版の概要

具体的には、Planning Analyticsではデータと連携することで、複数部門にわたり財務計画をリアルタイムに調整し、Excelを無駄にすることなく、スプレッドシートの制約を解消することに加え、AIを融合した計画でデータサイエンティストの支援を必要とすることなく洞察を導出するという。

  • Planning Analyticsの概要

    Planning Analyticsの概要

また、Watson Studio & Watson Machine LearningではAI開発の自動化ツールであるAutoAIを強化。これにより、プログラミングスキルがなくてもAIモデルを構築することを可能としたほか、構築したモデルに対してプログラミングスキルを持つ開発者がモデルのソースコードをダウンロードし、チューニングをかけて精度の高いモデルを提供していくことができる。

  • AutoAI強化の概要

    AutoAI強化の概要

さらに、Watson Knowledge Catalogの強化ではデータの意味、品質を確認する処理の一部をAIの技術を使いながら自動的に行うことで新たなデータを発見し、データ活用につなげていくための必要な工数を低減するとしている。

京セラでは、Cloud Pac for Dataを導入しており、5月から本番環境で運用を開始。各工場でシステムごとに蓄積されているデータを統合し、生成される膨大なデータをリアルタイムにAIで分析することで洞察を得ており、データサイエンティストの作業の大半を占めるデータ準備の負荷の低減を実現するとともに、同一プラットフォームでシームレスなデータ分析を可能にしているという。

  • 京セラの導入事例の概要

    京セラの導入事例の概要

今後、Cloud Pak for Dataのさらなる進化として、同社では2020年下期中に「Cloud Pack for Data as a Service」「Cloud Pak for Data Edge Analytics」「Federated Learning」の提供を予定している。Cloud Pack for Data as a Serviceは、ユーザーのインストールやアップグレード、管理などは不要でPayGoまたはサブスクリプションでの利用を想定している。

Cloud Pak for Data Edge Analyticsについては、データ収集からデータ準備、機械学習モデルの作成、モデル管理、エッジAIアプリ開発、エッジAIアプリ配布、推論実行までエッジアナリティクスにかかわるライフサイクルを単一のプラットフォームで実現するという。

  • Cloud Pak for Data Edge Analyticsの概要

    Cloud Pak for Data Edge Analyticsの概要

Federated Learningに関しては、エッジ側で学習した結果を組み合わせて機械学習のモデルを開発し、トレーニングに必要なデータは外部に持ち出されずにプライバシー保護とAIによるデータの利活用を両立。田中氏は「それぞれの拠点に分散するデータを集めるのではなく、そのデータを用いて構築したモデルを集めて統合的なモデルを構築する」と話す。

  • Federated Learningの概要

    Federated Learningの概要

これにより、外部に提供できないデータや企業間をまたぐデータの共有ができない場合などで、それぞれの知見を集約した統合モデルを構築し、活用することが可能になるという。