2026年のサービスインを目指す

スカパーJSATはこのコンセプトの事業化と、設計・開発の統括を行う。福島氏は「デブリ除去の事業化は、安全性と経済性の、二律背反する要素を両立させる必要がある。スカパーJSATが長年、宇宙ビジネスで培ってきたバランス感覚を発揮したい」と語る。

同社はまた、理化学研究所(理研)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)、そして名古屋大学と九州大学とも連携し、産学官で計画を進める。

理研はスカパーJSATと「衛星姿勢軌道制御用レーザー開発研究チーム」を立ち上げ、衛星の主要なミッション機器であるレーザーアブレーションサブシステムの開発を行う。同研究所は長年、レーザーに関する基礎的、応用的な研究を行っており、多くの知見をもつことから、そのノウハウを活かすとしている。

JAXAとは共創型研究開発プログラム「宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)」の枠組みを通じて、衛星と地上システムについて検討を共同で実施する。デブリ除去衛星には、従来の衛星にはない技術的、運用上の新規性と難しさがあることから、JAXAがこれまで培ってきた、衛星のミッション初期検討のノウハウを活用するという。

名古屋大学は宇宙におけるレーザー推進の分野において長年の実績があり、今回のプロジェクトにおいてはスカパーJSATとレーザー照射方法の共同研究を実施。九州大学は宇宙環境の分野において長年の実績があり、移動するデブリの回転運動などについて共同研究する。

デブリ除去のサービス開始は2026年を計画しているとし、実現すれば、この方法でのデブリ除去は世界初となる。

サービスの顧客としては、「コンステレーション事業者」と「政府・宇宙機関」の大きく2つを想定しているという。

前述のように、コンステレーションとは数百機から数万機もの衛星を打ち上げて地球観測や宇宙インターネットなどを行う技術のことで、衛星の数が多い分、故障などでデブリになりやすい。また、コンステレーションはその特性上、同じ軌道に衛星を並べて配置することが多いため、そのうちの何機かがデブリ化した場合、正常な他の衛星に衝突する可能性もあり、また代替機を打ち上げる際には、デブリ化した衛星が邪魔になる。こうしたことから、デブリ化した自社衛星の除去などのニーズがあるのではと考えているという。

また同社では、道路のゴミを処理するのと同じように、デブリも将来的には各国の宇宙機関や国際機関がその除去に当たることになると想定しているとし、その際に、安全性と経済性の高さを売りに、その実施業者として選ばれることを目指すとしている。

  • スカパーJSAT

    このプロジェクトのリーダーを務める、スカパーJSATの福島忠徳氏 (C) スカパーJSAT

課題は法律面

ただ、デブリをレーザーで除去する技術は、衛星を攻撃できる兵器としても応用可能であるとして、他国からの懸念や反発も予想される。

この点について、スカパーJSATの福島氏は「デブリ除去に使うレーザーは非常に弱い力しかなく、それを非常に長い時間照射し、長い時間をかけてようやく移動させることができるというもの。そのため、衛星攻撃兵器には使えない」とした。

そして「国際社会に向けては、この点を積極的に説明することで透明性を確保したい」と語った。

また、デブリ除去をめぐっては、包括的な国際条約や法律の整備が不十分という課題もある。

たとえば、前述の宇宙兵器との関連では、宇宙条約における「平和利用の原則」では大量破壊兵器を軌道に乗せることは明確に禁止されているが、通常兵器は許されるのかどうかは解釈が分かれており、新しいルールやガイドライン作りの話が持ち上がっている。

デブリ除去をビジネスとして進める際のルールも不十分で、自由度が低いうえにリスクもある。たとえば誤って別の衛星にレーザーを当てて損害を与えてしまった場合や、デブリの軌道変更に失敗したり爆発させたりし、その結果他の衛星に損害を与えてしまった場合などのルールとしては、宇宙物体により引き起こされる損害についての国際責任に関する条約、通称「宇宙損害責任条約」が適用されると考えられるが、これは1972年に発効されたものであり、デブリ除去については想定されていない。

これについて福島氏は、「レーザーの出力は弱く、処分対象のデブリに対してレーザーを絞って照射する必要があるため、そこから少しでも外れるとレーザーがぼやけ、レーザーアブレーションを発生させることはできなくなる。そのため、誤って別の衛星に損害を与えるということは考えにくい」としたうえで、「その他の事柄も含め、法的な面で課題はあるのは事実であり、サービスインまでに、宇宙法の専門家と相談して検討を進めていきたい」と語った。

宇宙ごみをレーザーで除去する衛星

スカパーJSATによる宇宙デブリ除去プロジェクトの紹介動画 (C) スカパーJSAT

参考文献

世界初、宇宙ごみをレーザーで除去する衛星を設計・開発~宇宙のSDGs~ 持続可能な宇宙環境の維持をめざして | スカパーJSAT HD | スカパーJSATグループ
ESA - Space debris by the numbers
Orbital Debris Mitigation in Support of Space Situational Awareness and Space Traffic Management
2-2-2-2 宇宙物体により引き起こされる損害についての国際責任に関する条約(第26会期国際連合総会決議2277+C138号、1971年11月29日採択、1972年9月1日発効)
宇宙活動の安全確保|JAXA|研究開発部門