大容量化を可能とするQLC、そしてPLC

積層数の増加とともに記憶容量の増加に寄与するのが、1つのメモリセルに複数のビットを記憶する多値化技術(マルチレベルセル)である。現在は2ビット/セルのMLC、3ビット/セルのTLC、4ビット/セルのQLCが実用化段階に入ってきた。同社でもQLC品の製品化を進めているが、それとは別に5ビット/セルのPLCの開発も進められている。「QLCに若干のプロセスを追加することで、PLC化が可能であることを実証した」とするほか、そのままPLCとしての活用のほか、開発したしきい値制御技術を活用することで、TLCやQLCでの性能改善にも寄与できるとしている。

このほか、最新の研究成果となるのが、2019年12月に開催された電子素子に関する国際学会「IEDM」にて披露された半円型構造セル「Twin BiCS FLASH」である。

これは、従来の円型メモリセルのゲート電極を分断し、半円型にすることでセルサイズを半分にすることで、さらなる高密度化を図ることを可能とする技術。同社のニュースリリースではフローティングゲート方式を採用したと記載されているが、大島氏は「フローティングゲート方式、チャージトラップ方式のいずれも並行して開発を進めており、どちらが良いか、近々結論を出す予定だ」としている。

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    「Twin BiCS FLASH」の概要。メモリセルを従来の半分にすることで、さらなる高密度化を実現できるようになる

NANDをSCM分野で活用するための技術「VML」

また、低レイテンシを実現する技術として、同社では「VML(Virtual Multi LUN)-Read」技術をBiCS FLASH Gen4より導入している。これは、通常であれば前の処理が終わってから次の処理を行う必要がある4KBのページ単位の読み出しを、タイミングフリー、アドレスフリーで制限なく読めるようにしたもの。これにより4KBランダムリード性能はリニアに向上することが可能となり、結果として低レイテンシなSSD(Low Latency SSD:LLSSD)をNANDで実現できるようになる。

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    VMLの概要

このLLSSD、いわゆるSCM(ストレージクラスメモリ)分野への適用を目指したもので、3D XPointやSamsung ElectronicsのZ-NANDなどと同じ市場セグメントに位置づけられる。会場でもPoCでのデモが実施されるなど、開発が順調に進んでいることが披露されていた。

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  • LLSSDのコンセプトと、会場に展示されていたPoCを用いたデモ

SSDがホストCPUの処理を肩代わり

SSDの高速な読み書き性能を発揮するためにはインタフェース周りの性能向上も求められてくることとなる。その最たる例がPCI Express Gen4(PCIe Gen4)への対応で、同社でもすでにサーバSSD製品では対応済み。時間軸的には、サーバの次がクライアントSSDで主にワークステーションやゲーミングを中心に2021年ころより本格的に市場が立ち上がり、2022~2023年ころにストレージ市場での採用が徐々に進むとみている。

また、ネットワーク越しにSSDにリモートアクセスを可能とする「NVMe-oF(NVMe over Fabrics)」への対応も着々と進めている。例えば同社が「KumoScale」と名付けて提供しているストレージソフトウェアスイートは、単にSSDを外部に出す、という意味だけにとどまらないものとなっている。一般的なJBOF(Just a Bunch of Flash)では、NVMeストレージノードにアクセスするのに、ストレージ管理用ソフトウェアを別途、どこからか調達してくる必要があるが、意外に調達コストがかかるという課題がある。KumoScaleでは、それをアレイ側に持ってきて対応してしまおうというもので、これによりコンピュートノードのCPU負荷を低減させ、付加価値を生み出すアプリケーションの使い勝手や性能向上を図ることを可能にしたとする。

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  • KumoScaleの考え方。ホストCPUで処理していたストレージ管理ソフトなどの機能をストレージ側に搭載することで、ホストCPUの負荷を軽減させて、別の処理に回すことを可能とする

また、その先にはネイティブなイーサネットに対応したNVMe-oF SSDの開発も進められている。これは、SSD側にイーサネットポートを持たせて、ダイレクトにスイッチに接続させてしまうことで、システム全体のコスト低減と性能の両立を可能とするもの。同社のSSD技師長である柳茂知氏は、「プロセッサの世界はムーアの法則が終わったと言われているが、メモリの高性能化はまだまだ続いている。その結果、これからはCPU性能とメモリ性能のギャップが広がっていく。これは大きな課題となっていく」とし、そうしたギャップを埋めることができるさまざまな機能を搭載したSSDをスマートSSDとしてホストの処理の一部を肩代わりすることで、ホスト側のCPUの負荷を減らし、処理能力を高付加価値なアプリケーションにアロケートすることを可能とするといった、SSDがネットワークのボトルネックを軽減することができる未来を見据えているとした。

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  • ネイティブEthernet NVMe-oF SSDのシステム概要とそのメリット

こうした仕組みを「In Storage Computation」と同社では呼んでいるが、「コントローラSoCが差別化のカギ」と柳氏は説明する。SSDの出始めのころは、SSDを提供せずにコントローラだけを提供する半導体メーカが多々あり、「〇〇のコントローラを搭載したSSDが登場」などと煽り文句をつけて販売された時代もあったが、買収や撤退などが続き、現在はその多くがフラッシュメモリベンダ自身が開発したコントローラSoCとなってきた。

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  • SSDのコントローラは、かつてはSandForceやJMicron Technology、Marvell Technologyなど、さまざまな半導体メーカーが参入していたが、フラッシュメモリの技術革新が進み、セルの寿命予測などを把握して、長寿命化を実現する必要などから、ほぼメモリベンダ自身が開発する形となってきた

「基本構成は変わらないが、いろいろな技術を搭載してきた」(柳氏)とするが、In Storage Computationの時代には、さらに圧縮・復元だけではなく、HASH生成やRSパリティ生成、重複チェック、スナップショットなど、従来はホストCPUが行ってきたストレージ処理を肩代わりできるようになってくるとしており、今後のさらなる進化を目指すとする。

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    In Storage Computationの考え方は、いわゆる専用素子でのアクセラレーションといえる。決まりきった処理をハード化し、搭載することで、高速かつ低消費電力で当該処理を実行することで、ホストのCPU負荷を減らし、そこに新たな付加価値を付け加える余地を生み出そうというものとなる

なお、同社ではPCIe Gen6や50Ggpsイーサネット、IntelのCXLといったインタフェース技術へのアクセスも積極的に進めているとのことで、柳氏も「キオクシアと一緒に『ミライのカタチ』造りをリードしませんか?」と聴衆に向けたメッセージを発信していた。