ソニーは「CES 2020」会場で、スポーティーなデザインの「VISION-S」プロトタイプ車両を発表した。CES 2020のソニーブースの中ではひときわ高い注目を集め、クルマを取り囲むように連日多くの人でにぎわっている。今回、試作車の中を特別に見学できたので、車内の様子を豊富な写真と共にお伝えする。
CES 2020開幕に先立つ1月6日、ソニーのプレスカンファレンスの中で発表された「VISION-S」。本格的な自動運転の到来を見据え、ソニーが持つイメージセンサーやセンシングの技術を生かして「新たなモビリティ(移動)の世界を切り拓く」ことを目指した取り組みだ。
CES 2020会場で披露されたプロトタイプ車両は、ソニーの車載向けCMOSイメージセンサーをはじめ、車体に張り巡らした計33個のセンサーと、センシング技術を活用して周囲の交通状況を把握。レベル2+相当の自動運転にも対応する。さらに、ソニーの360度オーディオ「360 Reality Audio」の楽曲再生を楽しめるなど、車内エンターテインメント機能も多数盛り込まれている。
ソニーとクルマ、といえば、同社がヤマハ発動機と共同で開発した「Sociable Cart(ソーシャブルカート):SC-1」を思い起こす人もいるかもしれない。だが説明員の話では、確かにどちらも車両の運転においてソニーのイメージセンサー技術を活用する、という考え方は似通っているが、「VISION-S」とSC-1のプロジェクトは基本的には関係無い、とのことだった。
「VISION-S」プロトタイプ車両は実証実験的な位置づけではあると思われるが、一般的なスポーツカー風の外観をしており、ソニーのオーディオやエンタテインメントの技術も投入されている。我々がクルマという言葉を聞いて思い浮かべるイメージとほぼ変わらない。「市販車として売れるのでは?」と思うくらい完成度が高く、実際に走行も可能とのことだ(CES会場で実車が走っているところは見られない)。
説明員によると、プロトタイプ車両のエクステリアやインテリア、ユーザーインターフェースはソニーがフルスクラッチで起こしたもので、フォルムやキャビンのデザインコンセプトは「OVAL(オーバル)」と名付けられている。
開発にあたっては、ボッシュ(BOSCH)やマグナ・インターナショナル、コンチネンタル、クアルコムやNVIDIAなど、多数の企業と協業。「ソニーがVISION-Sというクルマを開発した」わけではないことに注意したい。
今回、報道関係者など一部の来場者を対象に、プロトタイプ車両の内部を体験できる時間が設けられ、筆者も短時間だが後部座席に座って車内の様子を見ることができた。
運転席と助手席の前には、タッチ操作に対応した横長の画面(パノラミックスクリーン)がある。ここにクルマの運転に必要な情報が表示されるほか、ナビゲーション画面や、映画やドラマなどの視聴画面、音楽再生コントロール画面を表示できる。様々な操作をここから集中して行うことも可能だ。
画面表示は複数に分割され、画面中央と助手席側は表示をまるごと入れ替えられる。たとえば、助手席側で操作したナビ画面を、運転手にも見えるように中央に動かすといった使い方ができ、実際に表示を入れ替えるデモも行われた。
バックミラーやサイドミラーは「物理的な鏡」としては存在しない代わりに、クルマに埋め込まれたカメラで撮影した映像をディスプレイに映すことで「仮想的な鏡」として機能している。たとえばサイドミラーにあたる箇所のカメラ映像は運転席と助手席のサイド端に表示され、リアガラスのカメラ映像はバックミラーに相当する箇所に映す、といった具合だ。フロントガラスの一部にもカメラが用意され、走行中の様子を動画として記録するドライブレコーダー機能も備えている。
車内では「360 Reality Audio」などの音楽再生を楽しむこともできる。ただし、残念ながらCES会場のプロトタイプ車両は前方座席のみの対応で、後部座席にいた筆者は体験できなかった。
ドアのロック/解除には、専用アプリをインストールしたスマートフォンを使用。スマホからの操作でロックが解除されると、車体前方のVISION-Sロゴが発光し、ライトの点灯とともに車体に埋め込まれたドアノブが自動でせり上がってくるといったギミックも仕込まれている。スマホアプリが使えない場合に備えて、NFCを応用したカードキーも用意される。
「VISION-S」プロトタイプ車両の大きさは4,895×1,900×1,450mm(全長×全幅×全高)、重さは2,350kg。出力は200kW×2(Front/Rear)の4輪駆動で、最高速は240km。ホイールベースは3,000mmとなっている。
「VISION-S」のプロトタイプ車両は、この姿で製品化されたり、市販される予定はないという。とはいえ、ソニーが未来のクルマの姿をCES 2020会場で鮮明に描き出したことは非常に興味深く、今後の「VISION-S」の進展から目が離せない。