◆AMD CPU

  • Photo24: 「何か御用ですか?」ちょっと油断すると椅子を取られる。

14nmをどう使いまわすかで苦労を重ねているIntelとは対照的に、TSMCのN7に移行してプロセスそのものの苦労を大幅に減じたのがAMDである。Ryzen 9 3950Xこそ2か月ほど当初の予定から遅延したものの、後は概ねスケジュール通りに製品投入が行われている。

そのAMDであるが2020年の恐らく第1四半期にアナウンスがあると思われる(CESでどこまで言及されるかは現時点では不明)のがRenoir(ルノアール)ことRyzen 4000Gシリーズ。要するにGPU統合タイプである。

実はこのReniorの詳細が現時点でもはっきりしない。判っているのは

  • TSMCのN7で製造される(ただ、Ryzen 3000シリーズ風に、CPU ChipletとI/O Chipletが別々なのか、それとも一体なのかは不明)
  • Desktop向けには65Wと35W、Mobile向けには45Wと15WのSKUが用意される
  • 従来ラインナップはDesktop向けがRyzen 5とRyzen 3、Mobile向けがRyzen 7/5/3であったが、今回はDesktopがRyzen 7/5/3、Mobile向けがRyzen 9/7/5/3になる
  • CPUは最大で8core/16Threadの構成が可能
  • GPUは最大12 or 13CU構成。ベースとなるアーキテクチャはNaviではなくVega

といったあたりだろうか。

まずSKUについて。従来は4core/8Thread構成だったからDesktop向けはRyzen 5がハイエンドで、Mobile向けはBoost 4GHzのRyzen 7 3700UのみがRyzen 7扱いになっていた。これに対しRenoirは最大8core/16Threadが用意され、既存のRyzen 3000シリーズと同様に8coreがRyzen 7、4~6coreがRyzen 5、4coreがRyzen 3となり、Mobileの方は8coreがRyzen 9扱いになり、6コアがRyzen 7、4coreがRyzen 5という具合になる模様だ。

次いでGPU。残念ながらNaviではなくVegaのままである。理由はいくつか考えられるが、根本的な話として現状の構成だといくらGPUを強化してもメモリの側で帯域がLimitされるので、あまり重厚なコアを載せても意味が無いという話がある。Intelもそのあたりはわかっていて、Ice LakeではLPDDR4x-3773を、Tiger LakeではLPDDR4x-4266に加え、LPDDR5-5400までサポートする予定である。いくら高性能のGPUを積んでもメモリがボトルネックになっていたら意味が無いからだ。ただAMDはそこまで積極的にLPDDRをサポートするつもりはないようで、ただDDR4-3200が普通に利用できる様になったので、Renoirでサポートをしたというあたりだろう。現行のRyzen 7 3750HがDDR4-2400×2で10CUだから、DDR4-3200×2なら数字的には13CUでマッチする事になる。この程度であれば、無理にNaviに変える必要が無いだろう、というのが一つ。もう一つの理由だが、筆者はReniorは7nmのCPU Chiplet+12nmのGPU+I/O Chipletという2チップ構成になっているのではないかと考えている。AMDは今は景気がいいとは言え、財務的にはIntelに比べれば脆弱であり、コストのかかるN7ベースのデザインを複数走らせるほどのゆとりが無い(というか、そうしたゆとりはZen 3とかNAVIの次とかに突っ込んでいると思われる)。それであれば、使い慣れた12nmを使い倒してバリエーションを増やす方が賢明である。そして12nmを使うのであればNAVIではなくVegaを利用するのは必然でもある。

この方式だと、CPU ChipletはRyzen 3000シリーズとか第2世代EPYCと共通化できるから、コストも下げられる。NAVIに統合する必要があるのは、もう少しメモリ帯域が広がる、DDR5の普及以降でも十分、という判断がなされても不思議ではない。

このRenoirに続き投入されるのが、Zen3ベースの製品である。Ryzen Desktop向けがVermeer(フェルメール)、第3世代EPYC向けがMilanとして知られている製品である。この世代はまだ情報が一切ないのだが、少なくともMilanに関しては2020年に納入されるPerlmutterで採用されることが明らかになっており、ここから逆説的にDDR5の採用はありえず、DDR4ベースのままとなる。少なくともMilanはDDR4-3200での動作だろうが、現状のRyzen 3000シリーズですら異様なオーバークロックの許容度を持つので、VermeerはDDR4-3773あたりまで「定格で」サポートしても不思議ではない。I/Fに関してはPCIe Gen5のサポートはZen4世代まで見送りで、当面はPCIe Gen4どまりだろう。これでもCCIXの利用には問題は無いし、CXLの検証も一応可能だからだ。

登場時期も不明だが、既にTSMCのN7+は(Processの所で紹介した通り)量産に入っている訳で、既にZen3ベースのCPU Chipletの生産も開始している筈だ(Tapeoutそのものは2019年第2四半期中に完了している)。恐らくCESの基調講演ではZen3ベース製品のEngineering SampleをSu CEOが誇らしげに見せるシーンがあるのではないかと思う。大体そこから半年ほど量産準備が必要になるから、概ね2020年の7月とか8月あたりにVermeerがやはりRyzen 4000シリーズとして出荷開始されるというあたりではないだろうか? 第3世代EPYCも、投入はほぼ同時期と思われる。

ちなみにコア数そのものはおそらくZen2→Zen3では増えない。また動作周波数も大きく引きあがる事は考えにくい。ではあるが、TSMCのN7→N7+ではエリアサイズが最大18%ほど削減となっているから、同じダイサイズなら18%ほど回路規模を大きくできる事になる。これを生かしてIPCの向上の方向に振るのではないかと筆者は予測している。