「男子五十五にして初めてコミケにお店出す!」となった私が軽く破綻した進捗の修羅場を乗り越えて有明を目指すリアルタイムリポート。前回なんとか原稿を書き終えることができた私が次の挑むのが「レイアウト」と「画像編集」だ。
「いよいよとなったらコピー本」とは修羅場の渦中にある同人作家さんからよく聞くアドバイスだが、しかしそれはそれとして体裁が整った薄い本を作ってみたい(いやほれとりあえず末端とはいえ出版業界に身を置く私としては)。振り返れば昔々の20年前、とあるPC雑誌の編集者として働いていた当時は、「締め切りをずっと過ぎたタイミングで発注した文字量の3倍書いた原稿を送ってくる」ライターさんばかりで、しかも濃厚な情報量をぎゅうぎゅうに詰めてくるから編集で適正な文字量に圧縮するのも難しく、そうなると「図版の点数やサイズを犠牲にしても掲載できる文字数を増やす」ことになって、その結果「級数の小さいフォントが19文字50行三段組みでびっしり埋まったページが無限に続く」という、なんかもう「エディトリアルデザインて何?」というレイアウトになってしまう時期が長く続いた(それでも文字があふれてしまうある編集者は「フォントの級数を印刷技術の限界まで小さくして、付録をCD-ROMじゃなくてルーペにしましょう!」と“本気”で提案していた)。
しかし今は21世紀。同人誌だって「スタイリッシュで見やすい読みやすいレイアウト」が主流の世の中だ。私も紙の雑誌編集者だったころには“できなかった”時流に乗った「かっこええ!」レイアウトで本を作ってみたい。
インターネット上の情報を漁ってみると「イマドキのかっこええエディトリアルデザイン」がゴンゴンでてくる。こんなテイストの薄い本を作ってみるのが今回の目標だ
本のレイアウトに使う“道具”といえば、以前は「QuarkXPress」だった(今もそうなのかな? 紙の編集を離れてかなり経つので)。しかし、今個人で使える道具となるとアドビシステムズの「InDesign」が妥当だろう。さらに「かっこええ表紙や図版」を作ろうと思ったら「Illustrator」も用意しておきたい。なお最近では「Microsoft OfficeのWordやPowerPointで十分じゃんー」という声も少なくない。実際、個人向け小ロット印刷に対応したネット印刷サービスの中にもMicrosoft Officeの出力データに対応するところもある(ただ、その場合でもPDFに出力したファイルという制約があるケースが多い)。
実は私も(薄い本ではないがボードゲームの印刷で)ネット印刷を利用した最初は「Word」や「ペイント」(!)で入稿データを用意していた。しかし、いったんIllustratorやInDesignの使い方を知ると、同じ作業でもWordやPowerPointでとてつもなく面倒かつ失敗しやすい操作がIllustratorやInDesignなら少ない手数でストレスなくできてしまう。「いやそもそも使い方を覚えるのが大変で」という意見が出るのもよく分かる(私がアドビ製品を避けていたのもそれが理由の1つ。もう1つの理由は「価格が高い」だったが、これはサブスプリクション制になって解決した)が、インターネット上にはユーザーが分かりやすく解説したガイドコンテンツが膨大にある。それらを利用すれば「○○したいときの使い方」みたいな目的から逆引きして教えてくれるから、書いてあることをそのままなぞるだけで使い方を習得できる。
というわけで、進捗が破綻している修羅場でも、いや、修羅場だからこそInDesignとIllustratorを頼りにレイアウト作業を粛々と進める私であった。前回述べたように、本業の取材と原稿執筆と並行しながらすきま時間を探しての作業なので、移動中の使うノートPC「New XPS 13 2-in-1」を使うことになる。デスクトップPC、もしくは大画面ディスプレイを搭載するノートPCと比べて、モバイル利用を重視した13型級ディスプレイ搭載ノートPCでInDesignなりIllustratorを使うとき、問題になるのが解像度だ。作業を迅速に進める(それは快適な作業につながる)には、制作する台紙(アートボード)の他にレイヤーやカラーパレットなどなどのウインドウ、ツールバー、コントロールを表示しておきたい。ただし、これらを表示して肝心のアートボードが隠れてしまってはかえって作業しづらい。アートボードを隠すことなく使用頻度の高いウインドウを常時表示するには高い解像度が必要だ。
幸いにして、New XPS 13 2-in-1には、ディスプレイ解像度「3840×2400ドット」モデルを用意している。ディスプレイサイズ13.4型でこの解像度は「高すぎる!」という声も少なくないが、このような「表示できるツールバーやコントロールやウインドウの数が作業効率に直結する」アプリを使用するときには威力を発揮する。ただし、初期設定ではフォントの視認性を考慮してWindows側で表示ズーム設定を「300%」にしている。これでは、高解像度のメリットは生かせない。とはいえ、フォントの視認性を考慮すると100%では実用的ではない。経験則になるが、200%にするとウインドウも常時使う分は開いたアートボードを隠すことなく、かつ、秀丸で書き溜めるテキスト原稿のフォントも視認可能だった。
実をいうとNew XPS 13 2-in-1のディスプレイには高解像度のほかにも、同人作家にとってありがたいスペックがある。それが「色の再現性」だ。もともとNew XPS 13 2-in-1はIPSパネルを採用しているので、視野角は170度を確保している。それに加えてXPS 13はディスプレイの角度が変わっても色味がほとんど変わらない。これはなにげに重宝する。
「えー、IPSパネルなら当たり前じゃーん」というかもしれないが、それが意外とそうでないケースが多い。長いことお世話になっていて大変申し訳ないのだが、ThinkPad X1 Carbon(しかも2012年登場の初代)は、ディスプレイの角度が変わると色味がどんどん白くなっていく。
しかし、XPS 13はディスプレイを視野角の限界近くから見ても色味がほとんど変わらない。これは移動中に色編集を伴う制作作業でとても助かる。街を移動しながら作業するときディスプレイ角度を一定に保つことは難しい。入稿データを作成しているときにはディスプレイの色表示は一定であってほしいが、ディスプレイ角度で色味が変わってしまうと、そのときそのときで色味の編集に変化が出てしまいがちだからだ(CMYKの値で絶対的な色味は指定可能だが、やはり直感的に「見た目の色」で作業できると効率はすこぶるいい)。
また、New XPS 13 2-in-1のアドバンテージとしてディスプレイの色再現性の高さを挙げることができる。ディスプレイが表示できる色域のスペックとしてデルは「90% DCI P3の色域」を訴求している。DCI-P3は米国映画制作会社で構成する団体「Digital Cinema Initiatives」が定めている。ディスプレイが表示できる色の範囲を示す規格として「sRGB」や「Adobe RGB」という名称を目にする機会は多い。「再現できる色が広い」という場合によく使うのがDTPなどで一般的なAdobe RGBで、「AdobeRGBカバー率95%」という表記で訴求することが多い。
New XPS 13 2-in-1はDCI-P3カバー率95%を訴求している。印刷会社が採用するのはほとんどがAdobeRGB色域で、DCIの色域はAdobeRGBと比べると赤方向に広く青と緑方向に狭いという違いがある。そのあたりは、デルが米国企業で米港映画業界を重視したスペックを採用するのはやむを得ないところではあるし、sRGBと比べてはるかに広い色域をカバーしているのには変わりはない。ただ、印刷会社向けの入稿データを作成するときはAdobeRGBとDCIが規定する色域がちょっと異なっていることは留意しておくといいかもしれない(そもそもディスプレイ表示はRGBで入稿データはCMYKと異なるのではあるが)。
さらにもう一つ、New XPS 13 2-in-1のディスプレイ周りで言及しておきたいところがある。New XPS 13 2-in-1のようにタブレットとして使うことを想定したデバイスのディスプレイパネルの多くは光沢タイプを採用することが多い。表示が鮮やかになって特に製品を陳列する店頭で見栄えがいいものの、実際に作業で使っていると、周囲の照明や景色が映りこんで作業に集中できないという欠点もある。ビジネス需要を重視したモデルでは非光沢パネルを採用することも多い。
New XPS 13では光沢タイプを採用するが表面に反射防止コーティングを施して周囲の映り込みを軽減している(デルの資料では反射率0.65%としている)。その効果は良好で、ディスプレイの輝度を10段階の下から5レベル目に落としていた状態でも周囲の光や光景が映りこんで邪魔になることはなかった。
というわけで、無事入稿データを印刷所に送信して、無事冬コミケを迎えることができた俺であった。冬コミC97三日目月曜30日は「南4フ30b」に来たれ! しかし……。オサレなエディトリアルデザインを目指していたのに……。なんで「前世紀のPC雑誌」既視感満載になっちゃうの……。