カシオと海洋大、ときどきNHK

この「極限環境で使える方位計と深度計」の問題を解決したのが、カシオの牛山氏が企画を担当したG-SHOCKのFROGMAN(愛称:カエル)「GWF-D1000」だったのです(テーマにもそう書いてありますね!)。

そしてお話は、後藤先生と牛山氏の出会いへと進みます。ちなみに、後藤先生は小学生のころからの筋金入りのカシオファン。以前の記事でインタビューしたときも、カシオ製品を「引くほど持っている」と話していました。

閑話休題。時は2017年、上野国立科学博物館で開催された特別展「深海2017~最深研究でせまる“生命”と“地球”~」の企画打ち合わせのために、NHKのとあるプロデューサーが後藤先生(深海展の企画コーディネートを担当)の研究室を訪れました。


後藤先生:そのプロデューサーが僕の腕を見て、後藤さん、いつもPRO TREKを着けてますよね、っていうんですよ。そうなんです。PRO TREKはカシオのアウトドア時計(編注:主に登山を想定したモデルが多い)なんですが、これをいつもしていた。何しろ「引くほど」持ってますから(笑)。

そうしたら、『僕、カシオの技術者さんと知り合いなんですよ。今度遊びに行きませんか?』って。グッズとかもらえるかもしれないからって。おぉ、グッズもらえるのか、じゃあ行こう!ってなって(笑)、一週間後にカシオの羽村技術センターへ行くことになりました。

行きのタクシーで、何の話をするかNHKのプロデューサーと決めました。正直、何も用意してなかったので。深海探査艇をマリアナに持って行く話とかしたら面白いかもしれないですね、なんて。本当はグッズの話とか最後にできたらいいね、ぐらいに思ってたんですよ。

  • カシオに向かうタクシーの中での会話

後藤先生:牛山さんとしては、大学の先生とNHKが来る、何の話なんだろうって身構えられていたと思います。こっちも何も用意していないので……、これまでやってきた研究をまずご紹介させていただきましょうと。水中の映像を見てもらったり、こんな感じでROVを使って海中探査をして、今度はNHKさんがマリアナ海溝に行くんですよって。ただ、そのとき僕はずっと、PRO TREKの方位計がこういうところで使えたらいいなと思っていたんです。

僕が2014年に作ったROVの映像を見たとき、牛山さんがあることに気づきました。ROVのカメラが撮った映像の隅に、マグネット式のコンパスが常に映っていたんですね。これは何のために装着しているんですか、と。あぁ、ROVの方位を確認するためですと答えたところ、驚くべき言葉が返ってきました。ちょうど新作のG-SHOCKが発売前で、しかもそのG-SHOCKっていうのは、深度計と方位計を搭載したFROGMANのニューモデルだと。

  • カシオの牛山氏が目ざとく見つけたコンパスは、ここに映っていました

後藤先生:僕はPRO TREK派だったので、ROVのPRO TREKが使えたらいいなと思ったんですけど、G-SHOCKならそういうのがあるとここで知ったんです。この新しいFROGMAN(GWF-D1000)は2016年6月発売だったんですよね。G-SHOCK最高峰のMASTER OF G、G-SHOCKの中のG-SHOCKというモデルで、FROGMANとしては7年ぶりの完全新作です。

僕はここで思いました。方位計って数十秒で止まるじゃないですか。そうです、PRO TREKも計測を開始して60秒ぐらい経つと、方位計測が止まってしまう。すると牛山さんが、じゃあ中のファームウェアを書き換えればいいですね。たぶんできるので、やってみましょう、といってくださった。

でも、やれるとは断言しなかったんです。当然そうですよね。なので、やれるかどうか検討してみますね、というところで終わりました。すると、二週間ほどで「できました」と来た。じゃあ、もうそれを使って実験してみましょういうことで、富山で予定されてた別の実験にバンドリングで持って行きました。

実際に機材に取り付けてですね、200メートルの水深でちゃんと動くのか、中でも一番大切なのは、ちゃんと文字板が見えるのか。ここに表示されているこの小さな文字をカメラが読み取れるのか、を実験したんです。(編注:このお話は別記事『G-SHOCKの新FROGMAN、水中探査機とともに海へ潜る - 東京海洋大学「海の日の記念行事」で体験』でもご紹介していますので、ぜひご一読を)

  • 富山湾でのテスト映像。時計のガラスにライトや日光が反射してしまって見えない! ちなみに、たくさん漂っているのはクラゲです