17時にCore i9-10980XEの簡単なご紹介を出させていただいたが、「では性能はどう?」という話をご紹介したいと思う。というか、本日11月25日はちょっと珍しい事に、第3世代Ryzen ThreadripperとCascade Lake-X、すなわちAMDとIntelのハイエンドモデルがどちらも情報公開の解禁日であった。そんな訳で今回は、Core i9-10980XEとRyzen Threadripper 3970X、ついでにRyzen 9 3950Xも交えて、いよいよ性能比較をご紹介したい。

ちなみに「暫定」というのは、まだ全製品の比較が終わってないためである。今回は取り急ぎ、ハイエンド製品同士での比較をご紹介するが、実際に価格的な部分で言えばもう少し下のグレードの方が現実的、という話もある。ただ現実問題として、まだ下位グレードの製品が評価用に入手できていないといった事情もあり、今回はハイエンド同士の比較のみを「暫定的に」ご紹介する。

また、今回は先だって「速報レビュー」と銘打ってご紹介したRyzen 9 3950Xの結果と環境を揃えてあり(一部例外あり:後述)、こちらの結果を利用してのレポートとなる。

ただ、Ryzen 9 3900X/3950Xは通常のコンシューマ向けということでゲームベンチなどがメインであったが、Core i9-10980XERyzen Threadripper 3970Xはワークステーション向けという位置づけでもあり、ところがワークステーション向けワークロードに関しては評価を行っていない。今回の暫定レビューからはワークステーション向けワークロードの評価は除外しているが、こちらは後でお届けする予定だ。

◆スペック比較

さて、実際にベンチマーク結果をご紹介する前に、少しスペックそのものを比較してみたい。IntelはCascade Lake-XベースのCore-Xシリーズで大幅な値下げ(前世代製品のほぼ半額!)を行った事で、何と何を比較すべきか、が非常に難しいというか、混乱する結果になっている。

※2019年11月26日12時追記:記事初出時、Ryzen 9 3950Xの価格を749ドルとすべきところ、誤って1,199ドルと記載しておりました。該当箇所を修正するとともに、皆様に深くお詫び申し上げます。

まず価格面での比較を表1にまとめてみたが、御覧の通り新しいCore-Xシリーズは、Ryzen 3900X/3950Xより少し高価、ということになる。Ryzen 9 3950Xと価格的に競合するのはXeon W-3223だし、Ryzen ThreadripperはそれぞれXeon W-3235/Xeon W-3245との競合になる。これはおそらく意図的に価格をずらして、直接競合しないようにしたという事だろうが、問題は一番安いCore i9-10900XですらまだRyzen 9 3900Xより100ドル高い事で、このあたりIntelのマーケティング担当は相当苦労したのではないかと想像される。

■表1
AMD Intel
Xeon W-3275 $4,449
Xeon W-3265 $3,349
Ryzen Threadripper 3970X $1,999 Xeon W-3245 $1,999
Ryzen Threadripper 3960X $1,399 Xeon W-3235 $1,398
Xeon W-3225 $1,199
Core i9-10980XE $979
Corei 9-10940X $784
Ryzen 9 3950X $749 Xeon W-3223 $749
Core i9-10920X $689
Core i9-10900X $599
Ryzen 9 3900X $499

一方でコアの数とか動作周波数など比較すると、表2の様にRyzen 9 3950XはCore i9-10980XEとCore i9-10940Xの間の製品、ということになる。このグレード(Core i9-10960X?)を用意しなかったのはおそらく意図的だろう。

■表2
コア/
スレッド
定格/最大
動作
周波数
L3
Cache
容量
Memory Package TDP
Ryzen
Thread
ripper
3970X
32/
64
3.7GHz/
4.5GHz
128MB DDR4-
3200
×4
sTRX4 280
W
Ryzen
Thread
ripper
3960X
24/
48
3.8GHz/
4.5GHz
128MB DDR4-
3200
×4
sTRX4 280
W
Ryzen 9
3950X
16/
32
3.5GHz/
4.7GHz
64MB DDR4-
3200
×2
AM4 105
W
Ryzen 9
3900X
12/
24
3.8GHz/
4.6GHz
64MB DDR4-
3200
×2
AM4 105
W
Xeon
W-3275
28/
56
3.5GHz/
4.0GHz
38.5MB DDR4-
2933
×6
LGA
3647
205
W
Xeon
W-3265
24/
48
3.7GHz/
4.3GHz
33MB DDR4-
2933
×6
LGA
3647
205
W
Xeon
W-3245
16/
32
3.3GHz/
4.4GHz
22MB DDR4-
2933
×6
LGA
3647
205
W
Xeon
W-3235
12/
24
3.2GHz/
4.4GHz
19.25MB DDR4-
2933
×6
LGA
3647
180
W
Xeon
W-3225
8/
16
2.7GHz/
4.4GHz
16.5MB DDR4-
2666
×6
LGA
3647
160
W
Xeon
W-3223
8/
16
2.5GHz/
4.4GHz
16.5MB DDR4-
2666
×6
LGA
3647
160
W
Core i9-
10980XE
18/
36
3.0GHz/
4.6GHz
24.75MB DDR4-
2933
×4
LGA
2066
165
W
Core i9-
10940X
14/
28
3.3GHz/
4.6GHz
19.25MB DDR4-
2933
×4
LGA
2066
165
W
Core i9-
10920X
12/
24
3.5GHz/
4.6GHz
19.25MB DDR4-
2933
×4
LGA
2066
165
W
Core i9-
10900X
10/
20
3.7GHz/
4.5GHz
19.25MB DDR4-
2933
×4
LGA
2066
165
W

ただその一方でCore-Xシリーズはワークステーション用途にも色気を見せており、(資料そのものは今回公開できないが)Reviewer's Guideの中でAdobe Premier CC 2019とかSony Catalyst Edit、MathWorks MATLAB 2019bなどの明らかにワークステーション向けワークロードのベンチマーク方法を紹介している。なので、実際はRyzen Threadripperとの競合というシーンは出てくると考えられる。

勿論本格的なワークステーション用途はXeon Wシリーズが担うということになるだろうから、本気で比較する場合にはXeon Wプラットフォームを引っ張り出す必要があるが、ASRockのEPC621D4I-2Mの様な「変態」(誉め言葉)マザーボードですら6万円超え。ASUSのROG Dominus Extremeに至っては30万円オーバーで、なんかこう根底から評価軸を考え直す必要がある。そんな訳で、今回は掲載しない(まだデータが揃っていないためである)が、LGA2066ベースでも軽くワークステーションのワークロードを比較しておく事は有用だろう。

◆Ryzen Threadripper 3000シリーズ補足

ところでThreadripper 3000シリーズについて、事前説明会でいくつか新情報があったので、まとめてご紹介したい。性能に関しての説明はワークステーション向けのものばかりだったので今回は割愛、次回ご紹介する。

まずは内部構成。Photo01がThreadripper 3000シリーズの構成であるが、CPU Chipletそのものは当然Ryzen 3000シリーズとかEPYC Gen2と同一のものである。問題はI/O Chipletで、これはEPYCと共通のものか? と確認したところ、「基本的には同一だが、Threadripper用に若干のOptimizeが施してある」という話であった。要するに物理的なダイそのものは共通で、ファームウェアなどが若干異なるものと思われる。

  • Photo01: I/O Chipletが12nmで製造、としているのも興味深い(EPYCのI/O Chipletは当初14nmと発表されていた。まぁGlobalFoundriesの14nmも12nmも大きな違いはないのだが)。

一方のプラットフォーム。TRX40の構成そのものは以前レポートしたままである。そしてRyzen Threadripperについては第2世代までと第3世代以降で互換性が無くなる(Photo02)という話もご紹介した通りで、これが念を押された格好だ。ちなみにRyzen Threadripper 3000シリーズは、PCI Express Gen4には対応するが、残念ながらCCIXのサポートは無い。「そうしたワークロードは今のところニーズが無いから」(Senior Technical Marketing ManagerのRobert Hallock氏)という事だそうだ。製品発表時にはマザーボード4製品が用意される(Photo03)との事。

  • Photo02: チップセットとの帯域が4倍になった事もあって、互換性を保つのが難しいというか、どのみちごく限られたユーザー向けだから、互換性が無くても大きな問題にはならないと判断されたと思われる。

  • Photo03: 今後は各社、もう少し廉価モデルも用意してくるだろうが、当初は各社ハイエンドをまずは準備。

そして説明の最後に"One more thing"として紹介されたのが、Ryzen Threadripper 3990Xの存在である(Photo04)。今のところ詳細なスペックや価格などは全て未公開状態。2020年中の投入、とだけ予告されている。まぁIntelも2020年中に、14nm++プロセスで56コアが1 SocketになったXeonの投入を予告していたから、仮にこれをベースとしたXeon-WなりCore-Xなりが投入されたら、いい勝負になるのではないかと思う。

  • Photo04: やるんじゃないか、とは思った。

◆評価機材とテスト環境

では評価をご紹介したい。Core i9-10980XEの方は先の記事(https://news.mynavi.jp/article/20191125-928363/)でご紹介したのでこちらをご覧いただくとして、Ryzen Threadripperの方をご紹介する。

さて、Ryzen Threadripperといえば、初代第2世代ともに「無駄に大きなパッケージ」が特徴であったが、第3世代は現実的なサイズ(Photo05)になった。ただ内部は大分凝った作りになっている(Photo06,07)。CPUそのものの見かけは全く変わらず、OPNだけが唯一の違いとなる(Photo08)。実際裏面を確認すると、第2世代のThreadripperとピン配置・切り欠けの位置ともに全く同じで、なので機械的には第1~2世代と第3世代が混在して装着可能なのは、もう少しどうにかならなかったのだろうか? とは思う。CPU-Zでの表示はこんな具合(Photo10~12)。Windowsでもきちんと認識された(Photo13)。

  • Photo05: 寸法は172mm×116mm×195mm(実測値)。まぁまだ大きいと言えば大きいが、従来ンに比べると大分コンパクト。

  • Photo06: プラスチックのカバーの下の台にはデカールやトルクスドライバ、CPUマウント用の金具などが収められている。

  • Photo07: カバーを開封し、ロック(右下にある細いプラスチック部品)を外して横に引き抜く形。

  • Photo08: オレンジのガイドも全く一緒。

  • Photo09: 左はRyzen Threadripper 2990WX。右がRyzen Threadripper 3970X。

  • Photo10: コード名はStarship。

  • Photo11: L3が16MB×8、というのはなかなか狂暴である。

  • Photo12: CLが16なのは、OCメモリを利用した関係である(SPDにCL16で登録されている)。

  • Photo13: Task ManagerのCPU利用率は数字のみでグラフにならない。

さてこれと組み合わせるマザーボードであるが、今回ASUSのZenith II Extreme(Photo14~19)とMSIのCreator TRX40(Photo20~25)の2つが届いた。ただベンチマークはROG Zenith II Extremeの方を利用している。

  • Photo14: パッケージはROGシリーズに共通。こちらも結構ずっしり。

  • Photo15: Core i9-10980XEのプレビューに利用したROG Rampage VI Extreme Encoreと似た、フルカバードの構成。VRM部に2つの冷却ファンが見える。

  • Photo16: 裏面もフルカバード。寸法は310mm×275mm、重量は2486g(いずれも実測値)と、ROG Rampage VI Extreme Encoreを上回るヘビーな構成。どうでもいいが、この裏面にもM.2スロットが用意されているのだが、さすがにこれは交換などが不便すぎる気が。

  • Photo17: VRMは16way。ほかにDIMM用と思われるものが2way×2。

  • Photo18: バックパネルにはUSB Type-Cが2つで、うち一つはSuperSpeed 20Gとなっているのが判る。Ethernetは1G+10G。

  • Photo19: SATA×8、USBバックパネル×1、USB Type-A×2という構成はROG Rampage VI Extreme Encoreと同じ。

  • Photo20: ASUSと対照的に真っ白いパッケージ。

  • Photo21: 2つ目のM.2コネクタはDIMMスロットと電源コネクタの間に。

  • Photo22: 謎のコネクタは、今度はパターンのみあるだけでコネクタ部品そのものは実装されていない。

  • Photo23: VRMはこちらも16way+恐らくDIMM用に3way×2。

  • Photo24: USB Type-Cは1ポートのみだが、SuperSpeed 20G対応。こちらもEthernetは1G+10G。

  • Photo25: SATAは6ポート。ほかにバックパネルコネクタ×2とUSB Type-A×1。

ちなみにROG Zenith II Extremeも、Intel X299搭載のROG Rampage VI Extreme Encoreも、電源は24pin+8pin×2の構成だが、ROG Rampage VI Extreme Encoreは24pin+8pin×1だけの接続でも特に問題なく利用可能だった。ところがROG Rampage VI Extreme Encoreは8pin×2の接続にしないとブート時に警告メッセージが出て、しかも動作が不安定になった。Ryzen Threadripper 3000シリーズの利用を考慮する場合、電源はちゃんと8pinが2本出るものを選ぶ必要がある。

CPUクーラーとしては評価キットとして提供されたNEZTのKRAKEN X62を利用した(Photo26,27)。

  • Photo26: パッケージはかなり巨大。

  • Photo27: 内容物一覧。Threadripperへの取り付けは、ヘッド部の金具をCPUに付属するSocket TR4用のものに置き換えるだけでいいので容易。

ところで先ほどPhoto12でOCメモリを利用したと書いた。実は当初、Ryzen 9 3950Xレビューと同じく、CFD(メモリモジュールそのものはCrucial製)のW4U3200CM-16G(DDR4-3200 CL22 16GB)モジュールを利用したのだが、これを利用するとDDR4-2933までは動作するものの、どうやってもDDR4-3200動作が出来なかった。そこで評価キットに付属したCorsairのDominator Platinum RGB DDR4-3600 CL16 16GBモジュール×4を利用した(Photo28,29)ところ、ちゃんとDDR4-3200動作が可能になったので、これを利用した格好だ。ただこれ1.35V動作だし、明らかにCL値が小さい。それもあって、やや本来よりもLatencyが少なくなっている事に留意されたい。

  • Photo28: なぜかCorsairのMemoryページにはこの構成がない。

  • Photo29: CPU-ZでのSPD表示。恐らくはXMP-3596動作のまま、周波数だけ1600MHzに落として利用されていると思われる。

またCore i9-10980XEとRyzen Threadripper 3970XはどちらもDDR4が4ch構成となっており、なのでDIMMを4枚装着するのが筋である。この時点で、DIMM2枚構成でテストしたRyzen 9 3950Xとは前提が異なる(システムメモリが32GB→64GBになる)が、

  • GameとかOffice Applicationでは32GBも64GBも性能に違いはほぼない。強いて言えばWindowsがFile Cacheとして利用できる容量が増える分、若干64GBの方が高速化する可能性はあるが、32GBだってかなりの分量がFile Cacheに利用されている。
  • メモリ容量がシビアに影響しそうなWorkstaton Workloadは今回テストしない。

ということで、メモリ容量は異なるままとさせていただいた。

その他のテスト環境は表3に示す通りである。実はベンチマークをやっている最中に、MicrosoftがWindows 10 Build 1909の配信をスタートさせてしまったが、今回はBuild 1903のままで行っている。

■表3
Processor Ryzen 9 3900X
Ryzen 9 3950X
Ryzen Threadripper 3970X Core i9-10980XE
M/B ASUS ROG CROSSHAIR VIII HERO(Wi-Fi)
BIOS 7507
ROG ZENITH II EXTREME
BIOS 0601
ROG RAMPAGE VI EXTREME ENCORE
BIOS 0224
Memory CFD W4U3200CM-16G
(DDR4-3200 CL22 16GB×2)
Corsair Dominator Platinum RGB DDR4-3600 64GB
(DDR4-3200 CL16 16GB×4)
CFD W4U3200CM-16G
(DDR4-2933 CL21 16GB×4)
Video GeForce RTX 2080 SUPER Reference
GeForce Driver 441.12 DCH WHQL
Storage Intel SSD 660p 512GB(M.2/PCIe 3.0 x4) (Boot)
WD WD20EARS 2TB(SATA 3.0)(Data)
OS Windows 10 Pro 日本語版 Version 1903 Build 18362.449

なお、以下のグラフ中での表記は

Ryzen 9 3900X:R9 3900X
Ryzen 9 3950X:R9 3950X
Ryzen Threadripper 3970X:TR 3970X
Core i9-10980XE:i9-10980XE

である。また、原稿中の解像度の表記は

2K:1920×1080pixel(Full HD)
2.5K:2560×1440pixel(WQHD)
3K:3200×1800pixel
4K:3840×2160pixel

としている。