米国の宇宙企業スペースXは2019年11月13日、開発中の有人宇宙船「クルー・ドラゴン」の、脱出用スラスター(小型ロケット・エンジン)の地上燃焼試験に成功した。このスラスターは、今年4月に爆発事故を起こしており、今回の試験は改良を施したうえで行われた。

この試験の成功により、飛行中のロケットから脱出する試験と、その後の有人試験飛行に向けて、ひとつのハードルを越えたことになる。

  • スペースX

    11月13日に行われた、クルー・ドラゴンのスラスターの地上燃焼試験の様子 (C) SpaceX

クルー・ドラゴン(Crew Dragon)は、スペースXが開発中の有人宇宙船で、最大7人の宇宙飛行士を乗せ、国際宇宙ステーション(ISS)などに輸送することを目的としている。

米国航空宇宙局(NASA)は2000年代初めごろから、ISSへの補給物資や宇宙飛行士の輸送を民間企業に委託する計画を進めており、スペースXはかねてよりこの計画に参画。NASAの支援の下、大型ロケット「ファルコン9」と、無人の補給船「ドラゴン」を開発し、2012年からISSへの物資補給を定期的に実施している。

そして、ドラゴンの技術や実績を下敷きに、宇宙飛行士を輸送する有人宇宙船として開発しているのがクルー・ドラゴンである。

クルー・ドラゴンは今年3月、無人での試験飛行を実施。ISSにドッキングしたのち、地球への帰還も無事に果たした。この当時、6月には飛行中のロケットから脱出する「飛行中脱出試験(in-flight abort test)」を、そして7月以降には有人の試験飛行も予定していた。

  • スペースX

    今年3月、無人での試験飛行を行ったクルー・ドラゴン。ISSへのランデブー、ドッキングや、地球への帰還に成功した (C) NASA

しかし4月20日(米国時間)、クルー・ドラゴンの試験中に爆発事故が発生。この試験は飛行中脱出試験に向けた準備として行っていたもので、3月に無人飛行した機体を使い、各種機能の確認をしていた最中だった。

その後の調査で、カプセルの側面に計8基装備している、「スーパードレイコー(SuperDraco/スーパードラコとも)」というスラスターに問題があったことが判明した。スーパードレイコーは、打ち上げ前やロケットの飛行中に異常が発生した際、即座に噴射し、宇宙船をロケットから脱出させる役割をもつ。

スーパードレイコーの推進剤は、モノメチルヒドラジンと四酸化二窒素で、両者は高圧のヘリウムで押され、タンクからスラスター本体へ送り込まれる。しかし事故当時、酸化剤である四酸化二窒素に漏れが生じ、高圧ヘリウムの配管に侵入。そしてスーパードレイコーの起動時、ヘリウムで加圧された四酸化二窒素が、高速でチタン製のヘリウムの逆止弁と触れ合い、弁に構造的な破壊が発生。その結果、弁が発火し、爆発をもたらしたとされる。

スペースXは、「チタンは何十年にもわたって、世界中で宇宙機の素材として使われていたが、高圧環境下で四酸化二窒素と反応することは想定していなかった」としている。

これを受け、スペースXでは、スーパードレイコーのガス加圧システム内に四酸化二窒素が入り込まないよう、逆止弁の代わりにバースト・ディスク(ラプチャー・ディスク)を使うなど、再設計を行い対策を実施。そして飛行再開に向けた試験が続けられていた。

  • スペースX

    スーパードレイコー。クルー・ドラゴンの側面部分に計8基装備(2基セットで4か所)されており、打ち上げ前やロケットの飛行中に異常が発生した際、即座に噴射し、宇宙船をロケットから脱出させる役割をもつ (C) SpaceX

今回の試験は、爆発事故が起きた試験のやり直しとなるもので、飛行中脱出試験の実施に向け、再設計したスラスターなどの機能性などを改めて確認することを目的としていた。

試験は、ファルコン9の1段目機体が着陸する場所でもある、ケープ・カナベラル空軍ステーションの第1着陸場(Landing Zone-1)の近くで行われた。まず、姿勢制御や軌道変更などに使う、小型の「ドレイコー(Draco/ドラコとも)」スラスターのうち2基を少し噴射したのち、8基(2基セットで4か所)あるスーパードレイコーを約9秒間噴射。そして燃焼終了後にもドレイコーを噴射するなど、ロケットから脱出や、その際の姿勢制御、またカプセルをパラシュートを展開するための姿勢に向けるなどの動作を模した試験が行われた。

試験は問題なく無事に完了し、今後スペースXとNASAで、データの分析や、スラスターなどのハードウェアの検査などを行ったのち、延期となっている飛行中脱出試験の正式な実施日を決めるとしている。

飛行中脱出試験が成功すれば、その後はいよいよ宇宙飛行士が乗った、有人の試験飛行の実施となる。ミッション名は「Demo-2」と呼ばれており、スペース・シャトルへの搭乗経験もある、NASAのロバート・ベンケン宇宙飛行士とダグラス・ハーレイ宇宙飛行士の2人が搭乗することになっている。

なお、スペースXでは、複数のクルー・ドラゴンの生産と試験を並行して進めており、各機体のミッションへの割り当てを変えるなどすることで、計画への遅れは最小限に抑えられるとしている。4月の事故前には、飛行中脱出試験には3月に無人飛行をした機体を使用し、有人の試験飛行(Demo-2)と有人の運用飛行(Crew-1)は、それぞれ新たに製造した機体を使う予定だったが、事故を受けて、飛行中脱出試験にはDemo-2用に製造していた機体を使い、Demo-2の機体は、Crew-1用に製造中だった機体の一部を流用して組み立てるという。

飛行中脱出試験の実施時期や結果によっても変わってくるが、現時点でDemo-2は、2020年の第1四半期に行われる予定となっている。

ただ、クルー・ドラゴンも、またボーイングが開発しているスターライナーも、NASAからの資金不足やトラブルなどで、開発スケジュールは当初の計画から大幅に遅れており、現在でもまだ、完成と運用開始の見通しははっきりしていない。そのためNASAでは、さらなる遅れに備え、ロシアからソユーズ宇宙船の座席を追加購入することを検討している。

  • スペースX

    クルー・ドラゴンの想像図 (C) SpaceX

出典

SpaceX Completes Crew Dragon Static Fire Tests - Commercial Crew Program
Dragon | SpaceX
SpaceX / Twitter

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。

Webサイトhttp://kosmograd.info/
Twitter: @Kosmograd_Info