2019年11月2日、3日に東京・中野サンプラザで開催された、オーディオファン/イヤホン愛好家注目のイベント「秋のヘッドフォン祭 2019」(主催:フジヤエービック)。売れ筋/人気商品も気になるところですが、あえてマニア目線で“会場で見かけた気になるポータブルオーディオ製品”をピックアップして紹介します。

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    B&Wが、aptX Adaptiveコーデックをサポートしたヘッドホン「PX7」を参考出品していました

aptX Adaptive対応ヘッドホンが登場、ということは……

Bluetoothオーディオの長所は「場所を問わず音楽を楽しめる」ことですが、ラッシュアワーの駅ホーム、人混みの交差点など、BluetoothやWi-Fiが使う2.4GHz帯の電波が混雑している場所では音が途切れがちになることも。この問題はデータレートを低くすれば緩和できますが、その反面、音質低下という犠牲を伴います。

スマートフォン向けSoCなどで知られるクアルコムは、2018年秋に「aptX Adaptive(アプトエックス・アダプティブ)」というオーディオコーデックを発表しています。再生中にデータレートを279kbpsから420kbpsの範囲で臨機応変に上下させる仕組みで、通信環境に難がある場所ではビットレートを下げて音の途切れを回避し、良好な場所では最大48kHz/24bitまで上げて音質を追求するという特長で注目を集めてきましたが、なかなか搭載機が登場しませんでした。

そこに登場したB&Wのヘッドホン「PX7」と「PX5」。SBC/AAC/aptX/aptX HDにくわえaptX Adaptiveをサポート、aptX Adaptiveに対応するスマートフォン/DAPと組み合わせれば、音の途切れ回避と音質向上の両立を期待できます。残念ながらaptX Adaptiveをサポートする製品は、現状シャープのスマートフォン「AQUOS R3」などごく少数で、真の実力を発揮できる場は限られますが、トレンドを先取りした製品といえるでしょう。

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    オンイヤータイプの「PX5」(左)と、オーバーイヤータイプの「PX7」

あくまで参考出品ということで、採用されたチップの詳細までは教えてもらえませんでしたが、このPX7/PX5はアクティブノイズキャンセリングに対応していることにも注目です。aptX Adaptive対応かつノイキャン対応ということは、クアルコムの最新Bluetooth SoC「QCC5100」シリーズを搭載していると推測されるからです。

このaptX Adaptiveとノイキャンを1基でこなすQCC5100シリーズの採用が本格化すれば、Bluetoothヘッドホン/イヤホン市場に新たなフェーズが登場するはず。音が途切れにくいノイキャン対応の完全ワイヤレスイヤホンも、当たり前になるかもしれません。実際、デンマークLibratoneの完全ワイヤレスイヤホン「TRACK Air+」はQCC5100を搭載しており、後に続く製品は多そうです。

「ノイキャンワイヤレス」製品が続々登場!

B&Wの「PX7」と「PX5」然り、市場ではノイキャン(NC)機能を搭載したBluetoothヘッドホン/イヤホンが人気です。今回のヘッドフォン祭でも、Skullcandy初のアクティブNC対応ヘッドホン「Method ANC」や、ヘッドホン初参入でいきなりのNCモデルとなるDALI「iO-6」など、音質はもちろん“ノイキャンの効き”をアピールする製品を多く見かけました。

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    デンマークのスピーカーメーカー・DALIの初となるヘッドホン「iO-6」はNC機能を搭載。左は同じデザインで、NC非搭載の「iO-4」

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    Skullcandy初のNC対応ワイヤレスイヤホン「Method ANC」

NC対応のヘッドホン/イヤホンは、ノイズ低減効果もさることながら、価格も気になるところ。これまで数多のNCヘッドホンを見聞きしてきましたが、価格なりの効果というのが正直なところで、コストパフォーマンスのよさを感じさせる製品はそれほど多くありません。

そこに見かけた製品が、日本のユーザーにマッチした製品開発を掲げる新ブランドAIR by MPOW(エアー・バイ・エムパウ)の「X2.1J」。いわゆるネックバンド型Bluetoothイヤホンで、NC機能を搭載しながらも6,000円台という手ごろさです。肝心のNCの効きはしっかり、完成度はなかなかのもの。コーデックはSBC/AACをサポート、10mmドライバーによる伸びやかな中高域とよく沈むパワフルな低域も印象的でした。アップル「AirPods Pro」やソニー「WF-1000XM3」の大ヒットでNCのメリットに注目が集まる今、あえてコスパを追求するのもアリかもしれません。

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    AIR by MPOWのネックバンド型Bluetoothイヤホン「X2.1J」。NCの効きが良好なハイコスパ機です

異彩を放つ重量級DAP「DX220MAX」、電源にもこだわり

いまどきのポータブルオーディオといえば、ヘッドホン/イヤホンとデジタルオーディオプレイヤー(DAP)。ワイヤレスが支持を集める一方、きょう体やケーブルなど物量をものともしないユーザーが減る気配はありません。小さくワイヤレスに対応したDAPが人気ですが、大きくて重いけれど音質にこだわり抜いたDAPを待望するユーザもまた多いのです。

当然、ヘッドフォン祭には後者寄りのポータブルオーディオファンが多く来場しています。今回特に異彩を放っていたのが、iBasso AudioのAndroid搭載オーディオプレーヤー「DX220MAX」で、国内正規代理店のMUSINブースで注目を集めていました。iBasso最上位モデル「DX220」(5月発売)と型番は近いですが、本体のディスプレイ以外はほぼ別モノだそう。ESS製のDAC「ES9028PRO」をデュアルで搭載し、イヤホン端子は3.5mmシングルエンドと4.4mmバランスを装備。さらには4.4mmラインアウト端子と光/同軸端子も備えており、ポータブルというより据え置き型に近い雰囲気です。

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    iBasso Audioの超弩級DAP「DX220MAX」

個人的にツボだったのは、電源部の設計です。2本の充電ケーブル(DC電源とUSB Type-C)を接続している理由を訊ねたところ、USB-Cはディスプレイやシステム駆動用、DC電源はオーディオ用と、入力段階から完全に分離しているのだそう。内部のバッテリーも物理的に分離されているとのことで、徹底したこだわりに舌を巻きます。混雑のため5分程度しか試聴できませんでしたが、駆動力とSN感はかなりのレベルで、高インピーダンスのヘッドホンも余裕でドライブできそう。2019年中に発売できるとのことなので、楽しみですね。

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    DX220MAXの電源は、ディスプレイ・システム用とオーディオ用で完全に分離されています

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    DX220MAXの背面

Amazon Music HDを高音質のまま聞けるDAP「M6」

同じMUSINブースには、Shanlingの新しいAndroid搭載DAP「M6」が展示されていました。この製品の見どころは、先日サービスインした高音質ストリーミングサービス「Amazon Music HD」のビットパーフェクト再生に対応しているところ。多くのAndroid OSベースのDAPは、システムレベルに手を入れないかぎり(AOSPのソースコードを改変しないかぎり)、48kHzを超えるオーディオ信号をヘッドホンに出力しようとしてもダウンサンプリングされてしまいますが、M6ではこの問題を解決しているとのことです。

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    Shanlingの新DAP「M6」

実際にAmazon Music HDで96kHz/24bitの音源を再生しましたが、画面に「音質:24-bit / 96kHz」と表示されていました。日本でもようやくスタートした「ハイレゾストリーミング」、現在のところビットパーフェクト再生に対応したDAPはHiBy Musicの「HiBy R5」などごく一部ですから、狙い目かもしれません。

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    Shanling「M6」でAmazon Music HDのビットパーフェクト再生を試したところ