これまでのiPhoneカメラの弱点は暗所だった。カメラの世界からすれば、iPhoneが備えるf1.8のレンズは十分明るい部類に入るが、センサーもレンズも小さく、レンズ交換式カメラのような結果を得ることはできなかった。また、iPhoneのカメラのシャッタースピードは手持ち撮影を前提にしていたのか、最長1秒までしか撮影できなかった。そのため、より長い秒数の露光が必要となる夜の風景や星空などの撮影は、iPhoneカメラには無縁の世界だった。

「iPhoneカメラは夜に弱い」――。これは、競合となるスマートフォンにとっては数少ないチャンスとなり、暗いレストランや夜景を美しく撮影できる点を、iPhoneより優れているポイントとしてこぞって前面にアピールした。しかし、iPhone 11はその弱点をカバーする「ナイトモード」を備えたのだ。

  • iPhone 11/11 Proのカメラは、新たにナイトモードとDeepFusionが加わったのが目玉だ

星も写せるナイトモード

写真の明るさを決定する要素をもっとも単純化すると、感度・絞り・シャッタースピードの3つがある。感度は、光に対してどれだけ明るく記録するか。絞りは、入ってくる光をどれだけ制限するか。そしてシャッタースピードは、入ってくる光をどれだけの時間フィルムやセンサーに当てるかを決定する。

感度が高ければより明るく写るし、絞りは数字が小さくなるほど明るくなる。シャッタースピードは長くなればよりたくさんの光を記録し、やはり明るくなる。しかし、感度を上げればノイズが乗りやすくなるし、絞りが小さくなればピントが合う距離が狭まり、シャッタースピードが長くなれば手ぶれや被写体の動きの影響を大きく受ける。そのため、暗いところでの撮影は、長いシャッタースピードでの撮影に耐えられるよう、三脚を用いることが多かった。

さて、iPhoneの話に戻ると、これまでiPhoneカメラのもっとも長いシャッタースピードは1秒だったとみられる。それはiPhone 11でも変わらないようだ。しかし、Appleは複数の写真を合成する「ナイトモード」を新たに取り入れた。ユーザーが切り替える必要がなく、iPhoneが必要だと思えばナイトモードに切り替わる。そのうえで、暗さや手持ちのiPhoneの揺れ具合を考慮して、黄色く秒数が表示される。状況がより暗く、iPhoneが安定していると秒数は長くなる。

  • 黄色い表示で秒数が表示されればナイトモードでの撮影となる

シャッターボタンを押すとき、しっかりとiPhoneを固定しておくことでうまく合成でき、暗い風景が明るく、被写体もはっきりとした写真に仕上がるわけだ。秒数は、その状況に合わせて任意で最大限に引き延ばすことができるほか、0秒、すなわちナイトモードを使わないようにもできる。いや、0秒でも1秒のシャッタースピードにはなり得るわけで、このあたりの表現は若干整理が必要だと思うが。

東京などの都市にいると、なかなか暗い環境を探すのも難しいが、筆者が試したナイトモードの最大時間は5秒だった。しかし、三脚で固定した真っ暗な場所では30秒の撮影を行い、星空や流れ星まで写るという。ナイトモードの威力が分かる例といえる。

単に明るく写るだけじゃなかった

iPhone 11のナイトモードは、ただ暗い場所が明るく写るだけではない。単にそれだけでは、他社のスマートフォンに鼻で笑われるほど、スマホカメラの競争は激しさを増しているのだ。Appleが後発で取り組むにあたり、品質についてはこれまで以上のものが求められることは、Appleをはじめ誰もが分かっていることだ。

iPhone 11やiPhone 11 Proのナイトモードを試していると、これまでのナイトモードや長時間露光の写真の弱点を極力回避しようと工夫を凝らしていることが分かる。

例えば、暗いレストランでの撮影は、皿や食材の色がどうしても照明の色に引っ張られたり、コントラストが足りずにぼんやりとした色再現になってしまっていた。しかし、iPhone 11では白い皿も赤い肉も、そして油が反射する弱い光が織りなすシズル感も、リアルに表現されていた。

照明がともる暗い公園や道路では、白い蛍光灯の街灯の光が、まだ夏の終わりに青々としている葉を通して地面に届き、全体として緑がかった写真になってしまっていた。しかし。iPhone 11のナイトモードは、そうしたエラーをしっかりつぶしたようだ。

ただし、これは長いシャッター時間の写真や高感度センサーと同様、道路などの黒く写るべき影の部分も、明るく光量が持ち上げられてしまい、暗い風景の色彩を引き締める黒がぼやけてしまう。そのため、引き締まった黒を活用したい写真の場合は、ナイトモードをオフにするか、長押ししてから下にスワイプして露出をアンダーに設定する必要がある。

DeepFusionは無意識のうちに

暗所はナイトモードによって大幅に強化されたiPhone 11のカメラ機能。もう一つの「DeepFusion」は、10月29日に公開されたiOS 13.2から実装されているが、実際にいつDeepFusionが適用されたかどうか、ユーザーからは分かりにくいのだ。

DeepFusionは、ピクセル単位で写真を処理し、写真のすべてのエリアで質感やノイズ、そしてディテールの描写の最適化を行うという。例えば、AppleはDeepFusionの例として、ニットを着ている人の写真を挙げている。ニットの編み目のような細かいパターンは、デジタルカメラにとって難しい描写となるが、DeepFusionによって編み目の1つ1つまでシャープな写真が得られるようになる。

Appleによると、9枚の写真をニューラルエンジンによって解析し、そこから1枚の写真を仕上げる合成技術を指している。iPhoneは、シャッターボタンを押す前から常に画像をセンシングしているが、ボタンを押す直前の8枚の短い露出の画像と、シャッターボタンを押したときの長い露出の写真を活用し、1秒で最適な写真を仕上げる仕組みだという。

不思議なのは、iPhone上ではDeepFusionが適用された写真なのかどうかを知る手段がないこと。ナイトモード時、あるいはバーストモード時に適用されないことは分かっているが、それ以外の写真がDeepFusionかどうか、撮影時のカメラアプリや、閲覧時の写真アプリで明示されることはない。600ルクスから10ルクスの明るさで適用されるとみられている。600ルクスは百貨店やオフィスの室内の明るさ、10ルクスはろうそくから20cm離れた明るさで、10ルクス以下がナイトモードの適用になる。

現時点で知る方法は、ファイルサイズを見ることぐらいかもしれない。DeepFusionが適用となった写真のHEICファイルの容量は2倍近くに達し、手元の写真では4MB前後の写真が多かった。ただし、必ずしも室内の写真のみに適用されているわけでもなかった。(続く)

著者プロフィール
松村太郎

松村太郎

1980年生まれのジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。Twitterアカウントは「@taromatsumura」。