いよいよ8月23日に販売開始となったアップルのスマートスピーカー「HomePod」。前回の「独自チップでデジタルオーディオを再構築するHomePod」に続き、松村太郎氏に2台を同時に使った場合の使用感やメリットをレビューしてもらいました。
電源さえ確保できればどこにでも置けるHomePod
HomePodは、iPhoneを近づけるだけでセットアップが行われ、再生を始めればその部屋に最適化した音楽再生環境を整えてくれる。Appleによると、1曲目を再生している間にキャリブレーションが行われ、部屋のどこに置いても良い音が楽しめるという説明があった。実際にいろいろな場所で試し、最適な置き場所を見つけてみると面白い。
HomePodは、電源コンセントの近くであれば設置できる。音楽ソースはワイヤレスネットワークを通じてApple Musicのストリーミングのほか、iPhoneやiPadアプリ、あるいはMacのiTunes(秋にはMusicアプリに変わる)の音楽をAirPlayで飛ばせる。つまり、電源以外の配線は不要だ。
それを理解したうえで、設置場所について考えてみたい。
HomePodは壁の存在が鍵となる
Appleのデモでは、背後に壁がある場所に設置するパターンが多く見られた。これは前回の記事でも紹介したとおり、ツイーターから直接届く音と、後ろ側のスピーカーから発した音を壁に反射させて間接的に届ける音を活用して音像を作り出すことから、反射する壁にできるだけ近づけて設置していた。
しかし、ダイニングキッチンへの設置では、背後だけでなく右側にも壁がある角に設置していた。それでも、食卓も含め十分に迫力ある音楽が楽しめており、必ずしも背後に1枚の壁がある場所だけが設置場所としてふさわしいわけではなさそうだった。
その一方で、部屋の真ん中に置くと部屋全体を音で満たせるが、本来左右のチャンネルを意識するような場面で音の拡がりを感じることはできない。放射状に音が拡散しているような感覚で、どちらかというとパーティー会場のBGMのようなぼやけた雰囲気になってしまう。
コンセントを挿したままHomePodの位置を動かすと、モーションセンサーが位置の移動を検知して、キャリブレーションが行われる。いろいろ試行錯誤しながら、部屋に合わせた最適な設置場所を探してみると良いだろう。
ステレオペアリングの威力
HomePodはAirPlay 2を通じて、複数の部屋で同じ音楽を再生できる。もちろん、独立して設定すれば、同じ部屋であっても異なる音楽を再生することは可能だ。しかし、もし2台を1つの部屋に置くなら、絶対におすすめしたいのが「ステレオペアリング」だ。
HomePodは、2台を1組のスピーカーとしてペアリングできる。この作業も、すでにHomePodが1台設置されている部屋に別のHomePodを設定しようとすると、「ステレオペアリングをするかどうか」が尋ねられるので、すぐに1組のスピーカーとして扱えるようになる。
ステレオペアリングされた2台のHomePodが再生する音楽は、1台の時よりもボーカルや主旋律、ギターの音などの厚みが増した印象となる。音の拡がりや臨場感もぐっと引き出されてくる。比較的小さな音であっても、音楽に引き込まれるような感覚を覚える。
同じデバイスを2台つないだだけでここまで音が変わるのか、という驚きをもたらしてくれた。音を部屋で満たすという1台のHomePodの要素から、音楽を集中して聴く環境を構築するデバイスへと変化したのだ。
Wi-Fiを通じてペアリングできるスピーカーは、SONOSなどが先行して実現している。例えば「SONOS One」は、HomePodよりも1つあたり100ドルも安い価格で売られており、これを2つペアリングしてステレオ再生ができる環境を作り出せる。
しかし、HomePodのステレオペアリングは、単純に2つのスピーカーに左右のチャンネルを振り分けるだけではないという。右のチャンネルに入っている間接的な音を、左のスピーカーの間接波に含ませたり、その逆のことが起きたりといったことが、部屋の環境に合わせて起きうるというのだ。
もともと1台のHomePodでも、前方に音が出ていく通常のスピーカーとは異なる処理が施されていたが、2台になると更に複雑に連携が取られていく。その際にも内蔵マイクを使い、お互いのスピーカーの音を検知しながらコミュニケーションを取るのだそうだ。もちろん、そのことはユーザーには分からない。
サウンドバーのリプレイスは難しい?
HomePodは、ステレオペアリングで見違える存在となる。2台1組で7万円のスピーカーセットとして扱った方がよいのではないか、と思えるほど、1部屋に2台設置する効果は高い。では、リビングルームのスピーカーを完全に2台のHomePodに置き換えることができるか?と言われると、答えは現段階ではノーだ。
HomePodには外部入力端子が用意されておらず、Wi-Fi経由で音を再生する。そのため、HDMIや光デジタル端子でテレビなどから出力される音声をHomePodに取り込むことはできないのだ。
筆者は、テレビの下に設置するSONOSのバー型スピーカー「Play Bar」を使っているが、これをHomePodに置き換えて普段のケーブルテレビのチューナーの音声を鳴らすことはできない。
ただし、Apple TVからは、AirPlay 2でHomePodを出力先とする音声再生が可能となっており、現段階ではどれだけApple TV経由での視聴が多いかに依存することになる。
それでも更なる問題がある。Appleからは、HomePodが5.1chなどのマルチチャンネルサラウンドをサポートしているとの回答は得られなかった。Apple TVはDolby Atomsなどの再生に対応しているが、Appleが販売するスピーカーでは対応しない、という不整合性が存在しているのだ。
ただ、近い将来はそれが実現するかもしれない。Appleはデンマークで出願した特許で、4つのHomePodを使ったサラウンドシステムを明らかにしているからだ。
いずれにしても、HomePodはiOSで動作している。OSの進化で、同じハードウェアで機能や役割を増やしてきたのが、Appleの戦略だった。近い将来、HomePodはさらなるオーディオの世界にリーチする可能性を秘めている。
そうした期待を込めて、現状でも非常に満足感の高いサウンドが楽しめる2台のHomePodを、ステレオペアリングで使い始めてみてもよいだろう。
著者プロフィール
松村太郎
1980年生まれのジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。Twitterアカウントは「@taromatsumura」。