Appleの2019年第2四半期決算(2019年1~3月)では、ハードウェア部門全体の売上高の下落が9%だったと報告された。4.6%減にとどまったMacも含めて、iPadやウエアラブル・ホーム・アクセサリ部門がカバーしている。もちろん、iPhoneの売上高が大きいだけにマイナスをすべてカバーし切れたわけではないが、やはり目を見張るのがウエアラブル部門の成長継続だ。

  • iPhoneの販売で苦戦しているアップルだが、Apple Watchをはじめとするウエアラブル部門は成長が続いている

Apple Watch 4周年、ウエアラブル部門は継続成長

Appleが2019年度から名前を変えた「Wearable, Home and Accessories」のカテゴリは51億2900万ドルの売上高を上げた。これは、前年同期比で実に30%増。年間ベースでは100億ドルのペースに乗せており、Tim Cook CEOは「Fotune 200企業と同等の規模になった」と報告している。

なかでもウエアラブルデバイス、すなわちApple WatchとAirPods、Beats製品は50%の成長を継続している。特に、Apple Watchはホリデーシーズン以外で過去最高の売上高を記録したという。

初代が2015年4月に登場したApple Watchは、販売開始から早くも4年が過ぎたものの、依然としてスマートウォッチ市場ではトップのシェアを確保している。IDCによると、2018年の1年間にApple Watchは約4,620万台販売され、ウエアラブル市場全体でも26.8%を占めると集計している。

  • 大画面化やセンサーの一新を図って2018年秋に登場した最新のApple Watch Series 4

スマートウォッチとともにAppleがウエアラブルとカテゴライズしているAirPodsは、2019年3月に新しいH1チップを搭載し、ワイヤレス充電ケースを付属した新モデルが登場。Appleは、AirPodsについて「製造の遅れから売上高が抑制されている」と指摘した。言い換えれば、「作れば作っただけ売れる」状態が依然として続いている、ということだ。

  • ワイヤレス充電ケースが付属した新AirPods。いまだに半月待ちの状況が続く

ウエアラブル部門の明るい話題とは対照的に、同じカテゴリに収められているホームデバイスの話題は非常に乏しいままだ。ホーム部門には、セットトップボックスのApple TVと、スマートスピーカーのHomePodが用意されている。

  • アップル初のスマートスピーカーとして2017年に登場したHomePod。日本での販売は未定となっている

Apple TVは、Appleが3月25日に発表した映像サービス「Apple TV Channels」や「Apple TV+」をテレビで楽しむために必要な「唯一のデバイス」となるはずだった。

しかしAppleは、Samsung、LG、Sony、Vizioといった世界の主要スマートテレビメーカーと、Amazon FireTVやRokuといった米国で人気のあるセットトップボックス向けに、Apple TVアプリを提供することを明らかにしている。つまり、Apple TVがなくてもテレビサービスが楽しめるようになるのだ。

Apple TV 4Kは、4K HDRの映像としてDolby VisionとHDR10の双方の規格を満たす数少ないソリューションだったが、その優位性も今後薄れていくことになる。AppleとしてApple TVデバイスをどのように扱っていくのか、イマイチ不透明な状況となっているのが現状だ。

  • 4K画質に対応したApple TV 4K

サービス部門の成長は続く

最後に、サービス部門を見ていこう。サービス部門の売上高は114億5000万ドルで、前年同期比で16%増。前期比でも10.5%増を記録し、引き続き高成長を続けている。

Appleによると、サードパーディーアプリを含むApple経由でのサブスクリプションサービスの利用者は3億9800万人に達しており、2020年までに5億人を獲得したい考えだ。原動力となっているのはサードパーティーアプリで、40%の成長を見せる。もっとも多くの売上高を上げているサードパーティのサブスクリプションが、全体の売り上げの0.3%を占めているという。

アプリの名は明かされていないが、おそらくNetflixで間違いない。ご存じの通り、AppleはNetflixやSpotifyといったサブスクリプションサービスと対立しており、両者ともすでにApple経由での定額課金サービスの新規受付を取りやめている。両社は15~30%の手数料がAppleによって徴収されることを避けようとしているうえ、Appleが双方にとって競合となるサービスを立ち上げていることもあって、関係は悪化している。

Appleとしても、サービス企業としての成長を継続させる姿勢は崩しておらず、Appleのサブスクリプションサービスへの新規参入は今後も火種を作り続けそうだ。

サービス成長の方程式

これらサービスの成長の根拠となるのは、アクティブインストールベースだ。Appleによると、現在のアクティブインストールベースは前回発表の13億台から1億台増え、14億台となった。iPhoneの販売が低迷しているなかで1億台も増加しているのは、新規ユーザーの獲得レートが高いためと思われる。

Appleによると、iPhoneについては言及がなかったが、Mac、iPadともに販売台数の半数が新規購入ユーザーだったとしている。もちろん、ここにはiPhoneを使っていて新たにMacやiPadを購入した人も含まれるはずだが、iPhone、Mac、iPadが引き続き新規ユーザーの獲得に貢献していることが分かる。

インストールベースの増加1億台に対して、サブスクリプションサービスの増加は前期比3000万件、前年同期比1億2000万件。こちらも既存ユーザーが新たにサブスクリプションサービスを契約したことも考えられるが、新規獲得ユーザー比で30%前後のサブスクリプションサービス契約を獲得していることになる。

Appleがサブスクリプションユーザーを継続的に増加させるための戦略として、2つ考えられる。1つは、すでに3月25日に発表済みだが、個人や家族で楽しめるサービスの充実を図っていくことだ。

  • 3月末に本社で開催した「It's Show Time」イベントでは、映像配信の新しいサブスクリプションサービス「Apple TV+」を発表した

そしてもう1つは、法人ユーザーが利用したいと考えるサブスクリプションサービスを、Apple自身あるいはパートナー企業が用意することだ。しかも、パートナー企業はAppleの課金プラットホームでの料金収受を行ってもらう必要があり、Appleはエンタープライズ向けのサブスクリプションの仕組みを整えておく必要がある、と考える。

繰り返しになるが、米中貿易戦争の行方はより不透明さ、不安定さを増している。Appleの現在のビジネスモデルである米国での設計、中国での生産、世界での販売を維持する場合、中国での生産は米国向け製品にとっては既にリスクとなっており、価格の上昇やそもそも輸出が差し止められるといった大きな問題に直面する可能性が高まっている。

サービス部門の成長は急務で、先進国を中心にビジネスモデルの転換が進行しているが、前述のように製品の販売がサービス部門成長の起点となっているだけに、現在のリスクを回避することにはならない。

製品を世界や米国に届ける仕組みをそのままにするなら、米中の安定化は不可欠であり、そうでないなら製造をほかの場所に移転させるなどの対策がすぐにでも必要となるだろう。

著者プロフィール
松村太郎

松村太郎

1980年生まれのジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。Twitterアカウントは「@taromatsumura」。