eスポーツを知らない企業から協賛を得られたわけ

今回のイベントでは、福島県に初めて来たという参加者もいたそうだ。実際に足を運んで、直接福島の魅力を体験してもらえたのだから、地方創生として一定の効果があったといえる。しかし、たとえば「喜多方ラーメンのブースを出展する」といっても、実現までの道のりは決して平坦なものではないだろう。会場に福島の魅力を詰め込むために、高橋氏はどのような取り組みを行ったのか。

「できるだけ福島の良さを出したかったので、大会の賞品には福島県の特産品などを協賛していただきました。ただし、そのためには、地元企業の協力が必須です。そこは地道な交渉を続けましたね。基本的に私1人で動いていましたが、全部で100社くらい訪問したのではないでしょうか。さまざまな方とお話させていただきました」

  • 協賛獲得の営業を振り返る高橋氏

電話やメールだけだとなかなか話を聞いてもらえないこともあり、直接企業に打診へ向かった高橋氏。交渉の都度、知り合いを紹介してもらうなど、人脈を広げつつ協賛企業の獲得を進めた。

「人脈を広げられたという意味でも、多くの地元企業の方とお話しできたのはよかったと思います。ただ、やはりといいますか、eスポーツを知らない人がまだ多いので、イメージが湧かず、協力しにくかったところもあるでしょう。私としても初めての取り組みだったので、どのくらいの集客が見込めるかなど、はっきり伝えられなかったのは歯がゆかったですね」

eスポーツの認知度は高まってきているものの、まだまだ知らない人も多い。だからといって、海外や東京で開催されている大きなイベントの映像やデータを見せても、福島の企業にはピンとこないだろうし、過度にeスポーツに期待を持ちすぎる可能性がある。なぜなら、福島で開催されるeスポーツイベントとは特徴も規模も大きく異なるためだ。身近にeスポーツイベントの事例がないことが、企業への説明で大きなネックになっていた。

「そのため、今回の福島ゲーミングDAYは、実績づくりであり、資料づくりでもありました。まずは、福島でeスポーツのイベントを実際に開催して、存在を知ってもらうきっかけになればと。また、会場にドローンを飛ばして全体の様子を撮影したので、次回以降はその映像も見てもらいながら提案できればと考えています」

eスポーツを知らない人に対して、言葉だけで「こんなイベントを福島でやる。eスポーツとはこういうものだ」と説明しても、イメージしにくい。そこで、高橋氏は今回のイベントで集めた素材を元に動画を制作して、地元でのeスポーツ理解促進に役立てる予定だ。

「おそらく、今回協力してくださった企業の方々は、リターンを期待されていたわけではないと思います。eスポーツイベントに対してではなく、福島を盛り上げようと取り組んでいることに対して、ご協力いただけたのではないでしょうか」

高橋氏はeスポーツに対する熱意だけでなく、福島を盛り上げたいという気持ちを伝え続けた。その結果、「地元を盛り上げようとがんばっている」ことに共感した17社もの企業から協賛を獲得。さらに、地域活性化の事業に対して交付される福島県の「地域創生総合支援事業」としても認められ、県から補助金を受けることにも成功したという。

  • 今回の福島ゲーミングDAYに協賛した企業

「もちろん、協力してくださったのは企業だけではありません。初めてのことだらけで、最初は何が必要かすらわかりませんでしたが、協会のメンバーやイベント制作会社の方、福島県のゲームコミュニティ、出演者であるプロゲーマーや実況者、タレントのみなさん、そして参加プレイヤーなど、多くの協力を得られたことでイベントを成功に導けたと思います」

高橋氏が1人でスタートした取り組みは、いつしか多くの人を巻き込んでいた。

「特にぷよぷよのコミュニティのみなさんは、特にお願いしたわけでもないのに、SNSなどにも積極的に投稿していただいて、盛り上げていただきましたね。その楽しさが外部の人にも伝わったのではないでしょうか。たとえば『行きたいけど1人では……』と参加を悩んでいた人に対して『私も行くのでぜひ遊びましょう』と声をかけてくださって、大変助かりましたね」

開催側だけでなく、参加者側も積極的にイベントを盛り上げようと動いたことで、ゲーム初心者でも気軽に参加できる雰囲気が醸成されたと、高橋氏は考える。イベント中は、ゲームシーンだけでなく食事や観光の様子なども「#福島ゲーミングDAY」のタグをつけられて、参加者のTwitterで発信された。現場には行っていなくとも、SNSで拡散された情報を見て、会場の熱気や福島の魅力を感じとった人もいたのではないだろうか。