温泉旅館の勝手なイメージを言わせてもらえば、「浴衣」「卓球」、そしてレトロなアーケード筐体の置かれた「ゲームコーナー」だ。人がいない状態でも鳴り響くゲーム音楽に、薄暗い部屋で光るデモプレイ画面。そして、最新のタイトルがあまり設置されていないことも相まって、まるでその場所だけ時間が止まっているような“非日常さ”があり、そこに不思議な魅力を感じていたものだ。

そんな「旅館といえばアーケードゲーム」のイメージを、現代の形に刷新したイベントが2019年6月22日に行われた。イベントの名前は「福島ゲーミングDAY」。開催場所は福島県にある「磐梯熱海温泉 ホテル華の湯」だ。

福島ゲーミングDAYは、福島県の特産品や温泉を楽しめる“リゾート型ゲーミングイベント”。『ストリートファイターV AE』『GUILTY GEAR Xrd REV 2』『餓狼 MARK OF THE WOLVES』『ぷよぷよeスポーツ』の大会や、『PUBG MOBILE』の交流会、自由に持ち込んだゲームで遊べるゲーミングパーティが開催された。日帰り温泉もしくは宿泊にてホテル華の湯を利用した人であれば誰でも入場可能で、参加者は400人を超えたという。

「eスポーツイベントの会場」と聞くと、赤や青のLEDで彩られるサイバー感ある空間を思い浮かべる人が多いかもしれない。だが、福島ゲーミングDAYの会場は、ホテル華の湯のコンベンションホール。業界人の結婚披露宴が催されそうな広々としたスペースに、PlayStation 4やディスプレイがズラリと並べられた。

  • 福島ゲーミングDAYの様子

    福島ゲーミングDAYの様子

「eスポーツ」と「福島」のどちらも楽しめる空間に

そもそもなぜ、温泉旅館でeスポーツイベントを開催しようと考えたのか。仕掛け人である福島県eスポーツ協会の高橋卓也氏に経緯を聞いた。

「元々、何かしらの事業を通じて出身地である福島を盛り上げたいと考えていました。いろいろと地方創生のアイデアを練っていたところ、2018年のeスポーツの盛り上がりを見て、“これだ”と思ったんです。私自身がゲーム好きなこともあって、eスポーツによる地方創生に取り組もうと福島県eスポーツ協会の設立を決めました」

高橋氏はeスポーツ協会設立の経緯を説明する。

  • 福島県eスポーツ協会の高橋卓也氏

「ただし、設立といっても特別なことはしていません。eスポーツ協会を設立したとTwitterで宣言しただけの任意団体ですが、予想をはるかに上回る反響をいただきました」

高橋氏が「福島県eスポーツ協会を作る」と宣言したことに対して、SNSでは福島出身や在住のゲームファンやゲームコミュニティから多くのコメントが寄せられた。地元でeスポーツが活性化することを望んでいた人が多かったのだろう。それが後押しとなって、協会としての活動も本格化。福島ゲーミングDAYの開催に向けて準備が進められた。

「旅館でeスポーツイベントを開催した理由は、温泉や食事といった観光資源を、参加者に体験してほしかったためです。実際、イベント終了後には喜多方ラーメンを食べに行ったり、猪苗代湖を観光したりする様子がSNSでアップされていました。県外からお越しくださった人にも、“福島らしさ”をしっかり体験してもらえたと思います」

目的の1つは地方創生だ。県外からの参加者に向けて福島の魅力をアピールしなければならない。そこで、会場には温泉旅館をチョイス。温泉そのものが観光資源であるとともに、旅館のロビーには観光客向けのガイドマップやパンフレットなどが置かれていることも多く、「ちょっと周辺を散策してみたくなる」要素が満載なのだ。

また会場では、もろきゅうや喜多方ラーメンの販売ブースが用意されており、ご当地グルメを味わえるようになっていた。そこで興味を持った人が、実際にイベント終了後に店舗に喜多方ラーメンを食べに行ったのだろう。

「やはり、地元のことを知ってもらえるのはうれしいものですよね。華の湯さんも、『普段の客層とは違う若い人がたくさん来てくれてうれしい』と、喜んでくださいました」

  • 会場にはもろきゅう販売ブースも

eスポーツを知らない企業から協賛を得られたわけ

今回のイベントでは、福島県に初めて来たという参加者もいたそうだ。実際に足を運んで、直接福島の魅力を体験してもらえたのだから、地方創生として一定の効果があったといえる。しかし、たとえば「喜多方ラーメンのブースを出展する」といっても、実現までの道のりは決して平坦なものではないだろう。会場に福島の魅力を詰め込むために、高橋氏はどのような取り組みを行ったのか。

「できるだけ福島の良さを出したかったので、大会の賞品には福島県の特産品などを協賛していただきました。ただし、そのためには、地元企業の協力が必須です。そこは地道な交渉を続けましたね。基本的に私1人で動いていましたが、全部で100社くらい訪問したのではないでしょうか。さまざまな方とお話させていただきました」

  • 協賛獲得の営業を振り返る高橋氏

電話やメールだけだとなかなか話を聞いてもらえないこともあり、直接企業に打診へ向かった高橋氏。交渉の都度、知り合いを紹介してもらうなど、人脈を広げつつ協賛企業の獲得を進めた。

「人脈を広げられたという意味でも、多くの地元企業の方とお話しできたのはよかったと思います。ただ、やはりといいますか、eスポーツを知らない人がまだ多いので、イメージが湧かず、協力しにくかったところもあるでしょう。私としても初めての取り組みだったので、どのくらいの集客が見込めるかなど、はっきり伝えられなかったのは歯がゆかったですね」

eスポーツの認知度は高まってきているものの、まだまだ知らない人も多い。だからといって、海外や東京で開催されている大きなイベントの映像やデータを見せても、福島の企業にはピンとこないだろうし、過度にeスポーツに期待を持ちすぎる可能性がある。なぜなら、福島で開催されるeスポーツイベントとは特徴も規模も大きく異なるためだ。身近にeスポーツイベントの事例がないことが、企業への説明で大きなネックになっていた。

「そのため、今回の福島ゲーミングDAYは、実績づくりであり、資料づくりでもありました。まずは、福島でeスポーツのイベントを実際に開催して、存在を知ってもらうきっかけになればと。また、会場にドローンを飛ばして全体の様子を撮影したので、次回以降はその映像も見てもらいながら提案できればと考えています」

eスポーツを知らない人に対して、言葉だけで「こんなイベントを福島でやる。eスポーツとはこういうものだ」と説明しても、イメージしにくい。そこで、高橋氏は今回のイベントで集めた素材を元に動画を制作して、地元でのeスポーツ理解促進に役立てる予定だ。

「おそらく、今回協力してくださった企業の方々は、リターンを期待されていたわけではないと思います。eスポーツイベントに対してではなく、福島を盛り上げようと取り組んでいることに対して、ご協力いただけたのではないでしょうか」

高橋氏はeスポーツに対する熱意だけでなく、福島を盛り上げたいという気持ちを伝え続けた。その結果、「地元を盛り上げようとがんばっている」ことに共感した17社もの企業から協賛を獲得。さらに、地域活性化の事業に対して交付される福島県の「地域創生総合支援事業」としても認められ、県から補助金を受けることにも成功したという。

  • 今回の福島ゲーミングDAYに協賛した企業

「もちろん、協力してくださったのは企業だけではありません。初めてのことだらけで、最初は何が必要かすらわかりませんでしたが、協会のメンバーやイベント制作会社の方、福島県のゲームコミュニティ、出演者であるプロゲーマーや実況者、タレントのみなさん、そして参加プレイヤーなど、多くの協力を得られたことでイベントを成功に導けたと思います」

高橋氏が1人でスタートした取り組みは、いつしか多くの人を巻き込んでいた。

「特にぷよぷよのコミュニティのみなさんは、特にお願いしたわけでもないのに、SNSなどにも積極的に投稿していただいて、盛り上げていただきましたね。その楽しさが外部の人にも伝わったのではないでしょうか。たとえば『行きたいけど1人では……』と参加を悩んでいた人に対して『私も行くのでぜひ遊びましょう』と声をかけてくださって、大変助かりましたね」

開催側だけでなく、参加者側も積極的にイベントを盛り上げようと動いたことで、ゲーム初心者でも気軽に参加できる雰囲気が醸成されたと、高橋氏は考える。イベント中は、ゲームシーンだけでなく食事や観光の様子なども「#福島ゲーミングDAY」のタグをつけられて、参加者のTwitterで発信された。現場には行っていなくとも、SNSで拡散された情報を見て、会場の熱気や福島の魅力を感じとった人もいたのではないだろうか。

福島県代表のプロゲーマーも誕生、EVO 2019で初陣を飾る

2018年の「eスポーツ元年」の影響もあってか、福島ゲーミングDAYだけでなく、地方のeスポーツ協会の動きが活発化している。各都道府県のeスポーツ協会は、他県のeスポーツ協会のことをどう考えているのだろうか。

「さまざまな地域でeスポーツ協会が設立していることはうれしいですね。秋田県や岩手県、鳥取県、栃木県、茨城県のeスポーツ協会の人とは、連絡を取ることもありますよ」

おそらくどこも発足したばかりだろうが、すでに横のつながりはあるようだ。

「さまざまな県の人が集まるのは大変なので、まずはオンラインで一緒に何かできたらいいですねという話もしています。ゲームをやりながらサミットのようなことをしたり、協会対抗のゲーム大会をしたりと、さまざまな取り組みができればいいなと」

高橋氏の挑戦は、福島ゲーミングDAYで終わりではない。他協会と協力すれば、事業の幅も広がっていくだろう。福島県eスポーツ協会としては、特に今後力を入れていく取り組みはあるのだろうか。

「地方でeスポーツが発展していくためにはコミュニティの存在が不可欠です。なので、まずはコミュニティのサポートを考えたいと思います。次に、eスポーツやゲームに対する一般理解。あとは、福島県を世界にPRするために、国際交流として海外プレイヤーの誘致などもいいでしょう。ただ、協会としては、あまりイベントばかりやるつもりはありません。我々はサポートや環境づくりに力を入れたいので、イベントはコミュニティ主導で開催してもらい、ノウハウなどを積みあげていってほしいですね」

協会はイベントを開催するための組織ではないと話す高橋氏。それよりも、環境整備や仕組みづくりに力を入れていくつもりだという。

また、今回の福島ゲーミングDAYでは、福島県を代表するプロゲーマーが誕生した。鶏めし選手、ねこみこ選手の2人だ。彼らは高橋氏が代表を務めるIT企業CROが母体の「Creative Gaming」に所属。8月3日~5日(日本時間)にラスベガスで開催された格闘ゲームの世界大会「EVO 2019」では、鶏めし選手が『ストリートファイターV AE』部門、ねこみこ選手が『アンダーナイト インヴァース(UNI)』部門で福島代表としての初陣を飾った。

「スター選手の存在はeスポーツが盛り上がっていくために必要なことだと思っています。県を背負って戦うプロゲーマーという、明確に応援する対象がいれば、地元も盛り上がるのではないでしょうか。世界大会で活躍してもらえれば、福島県をPRすることにもつながりますしね」

福島ゲーミングDAYで鶏めし選手やねこみこ選手と拳を交えたプレイヤーたちも、「福島」と大きく書かれたユニフォームを身にまとって世界デビューを果たした2人を、福島から応援していただろう。

  • EVOに挑戦した鶏めし選手(左)とねこみこ選手(右)

eスポーツの地域密着チームはまだそこまで多くないが、Jリーグのように地域に密着したプロスポーツリーグが成功していることを考えれば、もしかすると近いうちに、ご当地プロゲーマーや地域密着型プロゲーミングチームが増えていくかもしれない。福島ゲーミングDAYのよう地域特化型のイベントも、ますます活発化していきそうだ。

  • EVO 2019でのワンシーン。鶏めし選手は、EVO 2017の覇者ときど選手とも対戦した

  • ねこみこ選手はUNIでEVO参戦