富士通研究所は8月2日、従来の生体認証システムと同等の認証精度・処理速度で、生体情報を暗号化したまま認証できる技術を開発したと発表した。今回、手のひら静脈認証を対象に、暗号化を適用する際に起こる照合精度の劣化を防ぎ、照合処理を高速化する技術を開発した。今後、開発技術の処理高速化をさらに進め、2019年度中の実用化を目指す方針だ。

  • 利用シーンのイメージ

    利用シーンのイメージ

オープンな環境で大規模かつより安全な生体認証を実現するためには、端末で暗号化された生体情報を認証サーバに送信して暗号化したまま照合する必要があり、生体情報を暗号化したまま照合する技術では、一般的に生体の画像データを単純なコード(数値列)に変換し、それに乱数をかけて暗号化を行う。

しかし、従来の技術では複雑な生体画像の特徴量を単純なコードに変換することによる照合精度の劣化と、コードが膨大になることで照合処理に時間がかかることが課題となり、実用化に向けてこれらの解決が必要だったという。

新技術の特徴として「認証精度の劣化を抑制」「処理時間を短縮」の2点を挙げている。認証精度の劣化の抑制については、生体認証ではあらかじめ登録している生体情報の特徴量)と、認証時に入力された生体情報の特徴量との類似度に基づいて照合を行う。

今回、照合結果への影響度に応じて、コード化する領域の大きさを動的に調整することで、コード化に伴う特徴量の類似度の変化を抑え、照合精度を劣化させないコード生成技術を開発した。

処理時間の短縮に関しては、従来のコード化技術では生体の画像データ全体からコードを生成していたため、照合処理に時間がかかっていたが、生体の画像データの中で照合精度への影響が大きい領域を自動的に選択してコード化する技術を開発。これにより、コードの増大を抑制し、コード化をしない生体認証技術と同等レベルの高速認証を実現するという。

  • 開発技術のイメージ

    開発技術のイメージ

手のひら静脈のデータ1万人分を使用して開発技術の認証精度を検証した結果、コード化しない方式と比較して、ほぼ同等の照合精度と処理時間となることを確認。

同研究所が2013年に発表した、1つの生体情報から複数の特徴コード(手のひら静脈画像の特徴部分を2048ビットの0と1で表現する独自の技術によるコード)を生成できる技術を加えることで、生体認証サービスごとに異なる特徴コードを活用することや、万が一のデータ漏えい対策にも有効だとしている。

これにより、従来は専用サーバや専用ネットワークを必要としていた生体認証システムを、安全にオープンな環境で使えるようになり、クラウド環境での安心・安全な生体認証システムを活用した手ぶらでの決済の実現にめどが得られたという。