インターステラテクノロジズ(IST)は7月27日、北海道・大樹町の射場より観測ロケット「MOMO4号機」の打ち上げを実施した。ロケットは16時20分に点火。無事に離昇し、地上からは順調に飛行していたように見えたが、打ち上げから1分ほどでエンジンが自動停止、3号機からの連続成功とはならなかった。

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    打ち上げ直後の観測ロケット「MOMO4号機」 (提供:インターステラテクノロジズ)

MOMO4号機は、全高約10m、直径50cmの超小型ロケット。2分間のエンジン燃焼により、高度100kmの宇宙空間に到達する能力がある。4号機は、5月に初めて成功した3号機とほぼ同じ構成になっており、2機連続での宇宙到達を目指していた。

異常が発生したのは、打ち上げの64.3秒後。このときの高度は8kmくらいだったが、機体搭載のコンピュータ(OBC)が、通信系の一部であるコマンド系に異常を検知して、エンジンを自動停止させたという。燃焼時間が予定の半分ほどしかなかったため、最高高度は13.3kmに留まり、宇宙には届かなかった(数字はいずれも速報値)。

MOMO4号機の打ち上げダイジェスト

同社は、同日19時より記者会見を開催し、状況を説明。同社の稲川貴大社長によれば、「離昇後のエンジンや姿勢制御は正常だった。自動停止する直前まで、テレメトリも問題無く取れていた」という。

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    インターステラテクノロジズの稲川貴大社長(右)と堀江貴文取締役(左) (提供:NVS)

今回異常が発生したコマンド系は、ロケットに対し、地上側からコマンド(指令)を送る機能である。ロケットは基本的に自動で飛行しているが、コースを外れるなど何らかの異常が確認されたときに、地上からコマンドを送り、飛行を中止させることがある。ロケットの飛行安全のためには、非常に重要な機能だ。

もしロケットにコマンドが届かない状態だと、何か異常が見つかり、地上から指示を出しても、ロケットが気付かずに飛行を続けてしまう恐れがある。そのためMOMO4号機には、定期的なサイクルでロケットと地上で通信して、お互いに健全性を確認、通信できない状態が一定時間続くと異常と判断し、エンジンを止める安全機能が搭載されていた。

今回のケースはまさにこれで、エンジンを自動停止する数秒前から、正常にやりとりができなくなっていたという。原因についてはまだ明らかになっていないが、同社はデータを集めて、今後検証していくとのこと。

3号機と4号機の機体搭載カメラの映像を並べたもの。4号機は、自動停止とほぼ同じタイミングで映像が途切れた

MOMO初号機は、打ち上げの66秒後に通信が途絶していた。4号機の異常発生もタイミングとしては近いものの、低レートのテレメトリなどは、着水までデータが取れていたという。機体の姿勢やエンジンの圧力などのデータも確認できており、初号機のように、Max Q(動圧最大点)付近で機体が破損した可能性は低い模様だ。

4号機の機体搭載カメラの映像は、自動停止に近いタイミングで途切れている。その直前、雲に入ったのか急に視界が白くなっており、タイミング的には、この雲による影響があった可能性も考えられる。いずれにしても、同社による今後の検証作業の結果を待つ必要があるだろう。

機体の姿勢やエンジンの燃焼が正常であったのなら、もしそのまま飛行を続けていれば、宇宙に到達できていた可能性はある。だが、OBCが正常と自己判断していても、地上から異常を見つける可能性はあり、コマンド系のトラブルで飛行を即中断するのは正しい動作だ。安全対策がしっかりできていると評価して良いだろう。

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    MOMO4号機 (提供:インターステラテクノロジズ)

同社はMOMOの打ち上げと並行して、軌道投入用ロケット「ZERO」の開発も進めているところだが、同社の堀江貴文取締役は「ZEROの開発に特に遅延は生じない」と、影響を否定。「もしZEROで失敗すれば何億円もする機体を失うことになるが、MOMOのコストは1桁安い。MOMOで経験を積んで失敗を潰しておけば、ZEROに繋げられる」と、前向きに捉えた。

今回の4号機には、様々なペイロードを搭載。目標としていた宇宙には届かなかったものの、会見に臨んだ利用者からは、「参加できて感謝」「楽しかった」といった前向きなコメントが相次いだ。ただ、これは同社の宇宙への挑戦がまだ「夢」と捉えられているからだ。もし宅配便で頼んだ荷物が届かなかったのであれば、喜ぶお客さんはいない。

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    MOMO4号機に搭載されたペイロード (提供:インターステラテクノロジズ)

打ち上げの回数を重ねるごとに、宇宙は現実になっていく。企業や大学がツールとしてMOMOをどんどん利用するようになると、中にはシビアなミッションも出てくるだろう。コストが安いうちの失敗はダメージが小さいとは言え、同社にはなるべく早く信頼性を向上させ、コンスタントに成功を続けられるようにする必要がある。

少し気になったのは、今回も配管内のコンタミ(異物の混入)が原因による打ち上げ延期が起きたことだ。コンタミによる延期は、前回の3号機でも発生したばかり。天候理由の延期は仕方ないが、なるべくオンタイムで打ち上げるために、抜本的なコンタミ対策も求められるかもしれない。

4号機では、宇宙から紙飛行機を飛ばすミッションが注目されていた。最高高度のあたりで放出コマンドは送ったとのことだが、問題が起きたのがそのコマンド系であり、コマンドが届いて放出できたかどうかは不明。ただ、紙飛行機を開発した戸田拓夫氏は、「今後も続ける」と明言、「いずれは映像を見ながら操縦して、小学校のグラウンドに着陸させるようなことまでやりたい」と夢を語った。

戸田氏は、キャステムという精密鋳造部品メーカーの社長。MOMOの部品を見て、「重さは100kg軽くできるのでは」「コストは半額にできるのでは」と感じたそうで、「民間ロケットの可能性を広げられるよう力を貸していきたい」とコメント。堀江氏は「技術面でもコラボしていきたい。今度、宇宙葬もやろうと思っていて、カプセルの製作もお願いできれば」と期待していた。

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    搭載された紙飛行機。放出口が狭いため、形状を工夫した (提供:インターステラテクノロジズ)

次の5号機の打ち上げについては、現時点で未定。原因究明と対策が完了してからになるため、今回のように2カ月間隔というわけにはいかないだろうが、稲川社長は「なるべく早いサイクルで進めたい」とコメント。「社内の開発リソースはZEROに大きく割いているが、バランスを見ながら、最適になるよう配分を考える」とした。

なおZEROの開発には、MOMOとは桁が違う大きな費用が必要になる。その資金調達について、会見で堀江氏は「当面の間、ZEROの開発ができる、MOMOを継続できる状況まで持ってこられた」と言及。会見2日後の29日には、同社から、シリーズBラウンドで総額12.2億円の資金調達が完了したことが発表された

10億円規模の資金調達は、同社にとってこれが初めて。ロケットの開発にはとにかくお金がかかるが、MOMOの商業打ち上げが軌道に乗るまでは利益を得る手段が無く、事業の継続には大口の資金調達が不可欠だった。4号機で再び失敗してしまったとは言え、3号機の成功は資金面でも極めて大きかったと言えるだろう。