宇宙航空研究開発機構(JAXA)は7月9日、小惑星探査機「はやぶさ2」に関する記者説明会を開催し、直前に迫った第2回タッチダウン運用(PPTD)について、詳細なスケジュールを明らかにした。予定しているタッチダウンの日時は、7月11日の10:05~10:45(機上、日本時間)ころ。当日14時より開催される記者会見にて、成否が発表される予定だ。
これまで、2月の第1回タッチダウン(TD1)、4月の衝突装置(SCI)運用と、危険なミッションをすべて完璧に成功させてきたはやぶさ2。しかしリスキーなミッションも次が最後ということで、はやぶさ2プロジェクトの久保田孝氏は、「はやぶさ2にとっては正念場。一番大きな山場を迎えたと思っている」と述べ、気を引き締めた。
探査機は、7月10日の10:46より降下を開始。今までの運用とほぼ同じシーケンスで高度を下げて行き、高度30mには翌11日の9:40ころ到着する予定だ。
これ以降の低高度では、完全に探査機の自律制御になるため、時間は予定通りになるとは限らないものの、最も早くシーケンスが進んだ場合、9:51にターゲットマーカーを捕捉。そこから降下を再開し、9:57に高度8.5mに到着。ここで降下姿勢に切り替え、10:03に最終降下を開始、10:05にタッチダウンする見込みだ。
タッチダウン前の姿勢変更でハイゲインアンテナが地球を向かなくなるため、そこからはドップラーによる速度変化の確認しかできない。電波が地球まで届くのに13分ほどかかるので、最短ケースの場合だと、地上側で10:18ころにタッチダウンが分かる可能性がある。ただ自律制御の状況によっては、40分間くらい遅くなる可能性もあるとのこと。
なお、タッチダウンの詳細な結果については、ハイゲインアンテナとの通信が確立できる11:09(地上時刻)以降に届くデータを見る必要があるが、正常にタッチダウンしたときと異常を検知してアボートしたときでは上昇速度が異なるため、1回目のときと同様、今回もドップラーである程度判断できるかもしれない。
今回のタッチダウンで目指すのは、半径3.5mの円形の領域「C01-Cb」。1回目の「L08-E1」より少し広いとはいえ、そのときの付着物で光学系の受光量が半減したという問題も抱えていた。もう一度タッチダウンを行ってさらなる成果を目指すか、それともキャンセルして確実にサンプルを持ち帰ることを優先するべきか、難しい選択を迫られた。
今回の説明会では、JAXA宇宙科学研究所の國中均所長からのメッセージが公開。その中で國中所長は、定量的に精査し、合理的に判断したことを明らかにしている。安全性を担保した上で、タッチダウンに成功する可能性は高いとのことで、「この挑戦への成功が、今後の多くの宇宙科学・探査計画を推し進める契機になる」と期待した。
なお今回の運用シーケンスについて、1回目との違いなどについては前回の記事で説明したので詳しくはそちらを見て欲しいが、さらに細かい点が分かったのでここで補足しておきたい。
まずは、今回公開された以下のCGを見て欲しい。これは、高度8.5mに到達してからの探査機の動きを表した16倍速動画である(右上は真上から見た図、右下は探査機の視野)。同様のCGは1回目にも作成されていたのだが、探査機が実際にどう動くのか分かりやすく、理解するのに非常に便利だ。
Time=140sec付近まで、探査機はターゲットマーカーを視野の中心に捉えながら、姿勢変更と水平移動を同時に行っているが、この時点で、ヒップアップ姿勢への変更(10°ほど傾ける)まで完了していることが分かる。地表に対して水平にする動きと、ヒップアップの動きを合成して同時に行うことで、1回目よりも時間を短縮したわけだ。
ただ、これで短縮できる時間は1~2分程度だろう。新しい方法は新たなリスクにもなる。これだけのために、なぜ実績のあるシーケンスを変更したのか気になっていたのだが、これは「時間が長くなるとそれだけ誤差がたまりやすい。時間を短縮して精度を上げることを狙った」(久保田氏)のだという。
その後、Time=230secあたりにかけては、ターゲットマーカーを視野の中心から外して(オフセット)、C01-Cbの真上まで移動している。前の段階でヒップアップ姿勢を取ったことで、スタートの位置が中心寄りになっており、移動距離が少し短縮。わずかではあるが、これもシーケンスの短縮に貢献している。
そこで姿勢が安定するのを待ってから、最終降下を行う。今回は目標点がターゲットマーカーからわずか2.6mしか離れていないため、1回目のような斜め降下を行う必要がなく、垂直に降下するということは、前回も説明した通りだ。
久保田氏は、「技術というものは、1回うまくいったら確立できるというものではない。さらに進化させて、2回3回と続けることが重要だ」と述べる。今回は2回目であるものの、着陸の場所も探査機の状態も違う。その中で2回目に挑むことで、「技術が高まり、かつ獲得できる。それが自信と誇りになって次のミッションに繋がる」とした。
ところで、1回目のタッチダウンで採取したサンプルは格納容器のA室に入っており、その直後にB室に切り替えられていたのだが、6月24日の運用でさらにC室に切り替えたそうだ。吉川真ミッションマネージャによれば、これは「今回採取する地下物質は、ほかのものと混じらないほうが良い」という判断だという。
1回目の後、はやぶさ2は合計7回の降下運用を行っており、地表近くを漂っている微粒子がB室に入っている可能性がある。はやぶさ2は最大3回のタッチダウンを行えるよう計画されており、格納容器の部屋も3つ用意されているが、3回目は実施しないことがすでに確定している。せっかく空いているのなら新しい部屋を使おう、というわけだ。
はやぶさ初号機は微粒子しか持ち帰ることができなかったが、それでも大きな科学的成果を得られた。今回、1回目と2回目のサンプルと、降下運用で採取した微粒子をそれぞれ区別できるように得られれば、また新たな発見も期待できるかもしれない。