半導体製造装置および材料に関する業界団体である「国際半導体製造装置材料協会(SEMI)」は、2019年における半導体の前工程ファブにおける製造装置への投資額の予測値を、3月に予測した前年比14%減から、前年比19%減となる484億ドルへと下方修正したことを発表した。

また、併せて2020年の成長率も同27%増から、同20%の584億ドルへと下方修正している。これにより、2020年における前工程ファブにおける装置投資額は過去最高を記録した2018年に比べ20億ドルほど少ない値となる見込みだという。

背景には米中貿易戦争やハイテク企業の覇権争いの先行き不透明感が増してきていることが上げられる。SEMIに先行して、半導体調査会社各社や世界半導体市場統計(WSTS)による半導体市場に対する予測も下方修正が続いているだ、そうした市況の軟化から、製造装置の投資額も抑制する結果となり、製造装置市場も下方修正せざるを得ない状況になってきたというわけである。

  • SEMI

    半導体の前工程ファブにおけるデバイスカテゴリごとの製造装置投資額の半期ごとの変遷および予測 (出所:SEMI, 2019年6月)

中でもメモリ分野の設備投資額は、2019年前半は前半期比48%減と大きく落ち込むと見られている。内訳としては、3D NAND向けが同60%減、DRAM向けが同40%減と、NANDの投資額のほうが大きく落ちており、2019年通年でもメモリ関連の設備投資額は前年比45%減と大きく落ち込む見込みだという。2020年には市況の回復なども期待できるようになるとの見方から、メモリ分野の投資は前年から80億ドル以上上積みされるとしているが、メモリバブルに沸いた2017~2018年の投資水準と比べると、低い水準に留まるとSEMIでは見ている。

一方、ファウンドリの設備投資は2019年前半でも前半期比40%増と伸びることが見えているほか、プロセッサやマイコンが属するマイクロ分野もIntelの10nmプロセスへの投資などが主体となって同16%増、2019年後半も同9%増と安定してプラス成長が続いていくことが見込まれている。

SEMI、トランプ大統領に米中貿易戦争の解決を要請

半導体市況の悪化やそれに伴う設備投資の減速は、米中貿易戦争の影響が大きく、かつ両国間の摩擦がますます大きくなってきていることもあり、半導体市況の回復時期は後退していっていると言える。こうした状況を踏まえ、SEMIは6月13日(米国時間)、米国の660社におよぶ企業ならびに業界団体とともに、トランプ大統領に対し、新たな関税を課すことによる中国との貿易戦争の激化を避け、解決に向けた交渉の席に着くように書簡を送ったことを明らかにした。

この書簡についてSEMIは、翌週に開催される米通商代表部(USTR)の約3000億ドル相当の中国製品に対する最大25%の追加関税に関する検討に向けた公聴会に向けて準備されたものだと説明している。

  • SEMI

    SEMIをはじめとする米国の660社がトランプ大統領にあてた書簡の書き出し部分 (出所:SEMI)

SEMIのグローバル業界アドボカシー担当副社長であるMike Russo氏は、「知的財産権(IP)は、半導体産業にとって極めて重要あることから、国際貿易において直接必要とされる強力なIP保護政策に関し、私たちはトランプ政権を積極的に支持している。しかし、トランプ政権が最近実施し、さらに釣りあげようとしている関税が、将来の不確実性をもたらし、コストを増加させ、イノベーションを阻害させることにつながるほか、企業が報復関税の対象となることによって半導体サプライチェーンに属する企業にも損害が生ずるのではないかと懸念している。私たちは、同盟国と協力しながらグローバルに通用する解決策を見出すとともに、米国が交渉の席に戻ることを強く推奨している。貿易戦争はだれも勝者にはなれない」と述べてSEMIのスタンスを明らかにしている。

なお同氏は、6月18日(米国時間)に開催された米国通商代表部公聴会で証言を行い、トランプ政権が提案している関税引き上げに強く反対する意見を述べている。中国製品に対する関税引き上げは、SEMI会員に年間8億ドルの負担を強いる結果になるとの試算結果も開示した。SEMIは、米中貿易戦争が続く限り、トランプ政権に対してワシントンDCにおけるロビー活動を含め、米中貿易摩擦の解消に向けた要望を続けるとしている。