2019年5月23日、「FileMaker 18プラットフォーム」の発表・提供開始と同時に、設立3年以内などの条件を満たす企業のFileMaker導入を支援する「スタートアップ企業応援プログラム」も始まった。詳細はこちらの記事を参照されたい。

同プログラムでは年間ライセンスが50%オフになるなどの利点に加え、プロが作ったカスタム App(FileMakerプラットフォーム上で動作するソリューション)も入手できる。カスタム Appは、もちろんそのまま使ってもいいし、カスタマイズしたり、FileMakerを学ぶための教材にするにも最適だ。

この特典のカスタム Appは、FBA(ファイルメーカー社が認定した開発パートナー企業)の5社から、6種類が提供される。FBA各社は無償で自社開発のカスタム Appの提供に応じたという。その5社のうち3社の方々に、カスタム Appの内容や提供にあたっての考えなどを聞いた。またファイルメーカー社の方々にもこの支援策の背景などを聞いた(以下、記事中は敬称略)。

スタートアップにすぐ役立つカスタム Appで応援したい

-- 「スタートアップ企業応援プログラム」にカスタム Appの特典をつけた狙いは?

日比野 FileMaker Pro Advancedにスターターソリューションとして16種類のカスタム Appが付属しているのですが、日本のビジネスロジックにもっとフィットし、スタートアップにすぐに役立つものを提供したいと考えました。そこでパートナー各社に相談したのです。どういうカスタム Appを提供していただくかは、弊社からは指定しませんでした。プログラムの趣旨に合っていて各社でダブらないもの、またこれを受け取ったスタートアップがほかのカスタム Appと組み合わせて使う可能性があることを考慮して決めていただきました。

  • ファイルメーカー社 North Asia Sales Director 日比野暢氏

-- その話を聞いたときは、どのように感じましたか?

高岡 自分自身が24年前に起業したことを思い出しました。当時はこのような支援をしてくれるところはなく「何かあればよかったなぁ」と思います。そう考えるとスタートアップを応援したい気持ちです。

  • ジェネコム 代表取締役 高岡幸生氏

若林 スタートアップは急成長の可能性を秘めています。そのお手伝いができるなら喜んで、と思いました。お話を聞いてすぐに、我が社ならこれをすぐに提供できるというものも思い当たりました。

  • 寿商会 代表取締役社長 若林孝氏

交通費精算や日報など業務に密着したカスタム App

-- 皆さんの会社が提供したカスタム Appを紹介してください。

芳野 「交通費精算システム」です。Windowsパソコンでソニーの「PaSoRi」(パソリ)などのカードリーダーを使い、交通系ICカードの履歴を読み取ってカスタム Appに記録します。あとから交通費を調べる必要がなくなり、月に1回の交通費精算が2〜3分で済むと思います。従業員を対象としたシステムの整備は後回しになりがちなので、ぜひ活用してください。シンプルなカスタム Appで、カスタマイズすることで帳票や勤怠管理にもお使いいただけます。

  • イエスウィキャン システムマーケティング部 芳野由喜子氏

若林 一般には顧客管理、営業支援と言われるような「商談管理システム」です。顧客管理、見積、営業支援と、FileMakerに合う分野の用途であり、会社の中で培われるアイデアを形にするカスタム Appなのでスタートアップにぴったりだと思います。実はこれは10年前に弊社がFBAになって最初に販売したパッケージの後継版で、それを今回、無償で提供しました。

高岡 弊社は2種類提供しています。「プロジェクト管理システム」は、私自身が独立したときに困ったことを解決するために作ったのが始まりです。忙しくて、スケジュールや収支など仕事の管理ができなくなってしまったのです。そういった管理業務が本業を圧迫するほどでした。このシステムで仕事の抜けを防ぎ、時間を短縮できます。そしてプロジェクトごとの収支がわかるのは、ビジネスをする上で重要なことです。もうひとつの「日報管理システム」は今回新たに作ったものです。スタートアップが成長すると、チームで仕事をする段階が訪れます。チャットは流れてしまう、メールは管理しきれない、となりがちなので、チームで情報を共有できるカスタム Appを作りました。日報という日本の企業の文化にもともとあるものをベースにしているので使いやすいと思います。

「データの流れはビジネスの流れ」(高岡氏)

-- 今回提供されるカスタム Appは、完全アクセス権を公開し、設計を見たりカスタマイズしたりできるようになっているとのことですね。

高岡 カスタマイズにはぜひチャレンジしてもらいたいと思います。たとえばリレーションシップグラフを見ると、データの流れがビジネスの流れであることがわかります。またカスタマイズによってビジネスの成長に応じてシステムを変えられるということでもあります。自分では難しいとなったら、FBAにカスタマイズやトレーニングを依頼してください。

森本 バージョン18で、カスタム AppのスキーマをXMLで書き出し、エディタソフトなどで差分を比較できるようになりましたね。

  • ファイルメーカー社 法人営業部 セールスエンジニア マネージャー 森本和明氏

日比野 どこを触って動かなくなってしまったか、といったことをつきとめられます。

高岡 カスタマイズにしてもサポートにしても、ここにきて良い環境が整ったと思います。

-- 完全アクセス権を公開すると自社のノウハウが流出してしまうという懸念はありませんでしたか?

若林 正直に言うと、その点にはためらいがありました。しかしマイナスよりもプラスが大きいと判断しました。プロとして自社のスタンダードなスタイルで構築したものなので、メンテナンスやカスタマイズに耐えられる堅牢なカスタム Appのベースを提供できるからです。

芳野 弊社のシステムは、カードの読み取り部分だけは非公開とさせていただいていることをご了承ください。しかしそれ以外は公開しているので、カスタマイズやほかのカスタム Appとの組み合わせなど、いろいろな使い方をしていただけると思います。

高岡 カスタム Appを作る全体の労力、ノウハウ、時間の集大成なので、具体的なノウハウの流出とはあまり考えていません。

「FileMakerの可能性を知ってほしい」(芳野氏)

-- ユーザーにとっては、カスタム Appのお手本、教材にもなると思います。それぞれのカスタム Appのどこに注目してみてもらいたいですか?

若林 リレーションシップグラフには、各社の考えが現れますね。それと、1つのレイアウトで全プラットフォームで使えるようになっています。いろいろな仕掛けをしてあるので、探ってみてください。

芳野 FileMakerとPaSoRiを組み合わられるということをまず知っていただきたいと思います。APIなどを使うことで、さまざまな可能性が広がります。

高岡 初めてでも慣れているかのように直感的に使えるところを見てください。

小林 カスタム Appの無料サンプルを公開している「fmgo.jp」(https://fmgo.jp)でも、UIを検討した上でサイトで公開しています。何も見なくても明示的に操作がわかるような使いやすさですね。この点でも、パートナー各社様のカスタム Appは優れています。

  • ファイルメーカー社 法人営業部セールスエンジニア 小林ひとみ氏

日比野 今回提供するカスタム Appは、プロが作ったものをさらに弊社のSEチームが確認しています。スタートアップの皆さんには、安心して使っていただきたいと思います。

「データの管理を初めから企業の文化に」(若林氏)

-- これからFileMakerを導入するスタートアップへのメッセージをお願いします。

高岡 カスタム Appを活用することで、本来使うべきところに時間を使えるようになります。まずユーザーとして、使い勝手やフィット感を確かめてください。そしてビジネスの成長に伴って、さらに学んだり我々に相談したりしていただければと思います。

若林 会社が忙しくなれば、事務作業は増えます。カスタム Appを使って、データを管理できている状態からスタートしてください。問題が発生してからでは大変です。データの管理を初めから会社の文化として根付かせましょう。

芳野 世の中にはいろいろなソリューションやサービスがあります。起業したばかりで予算に限りがあると無料のサービスを使いたくなると思いますが、あちこちのパッケージを使うと連動させるのが難しくなります。せっかく50%オフで始められるチャンスですので、将来的に連携が可能なFileMakerプラットフォームから始めてはいかがでしょうか。

森本 アジャイル型で「小さく生んで大きく育てる」FileMakerプラットフォームは、ビジネスフローがまだ定まっていないスタートアップとの親和性が高いと思います。IT環境に縛られずに変更に対応できる強みもあります。会社とシステムをともに成長させていってください。