2019年5月23日、この時期の恒例となった1年ぶりのFileMakerファミリーのメジャーバージョンアップ、「FileMaker 18プラットフォーム」が発表され、同日に提供開始となった。

この新バージョンの登場にあたり、ファイルメーカー社社長のビル・エプリング氏、マーケティング部シニアマネージャーの荒地暁氏、North Asia Sales Directorの日比野暢氏、法人営業部セールスエンジニアの小林ひとみ氏に話を聞いた(発言順、以下敬称略)。

作成・共有・統合をさらに推進

-- 今回のメジャーバージョンアップの主眼は?

ファイルメーカー社社長のビル・エプリング

エプリング エンドユーザー、プロの開発者、組織のチームリーダーや管理者、そのいずれの方々にも役に立つ機能を盛り込んでいます。

荒地 ポイントは「作成」「共有」「統合」です。「作成」では、カスタム App(FileMakerプラットフォーム上で動作するソリューション)にデータを読み込む際のインポートのダイアログがわかりやすくなりました。「共有」では、FileMaker Serverの起動復元を特にご紹介したいと思います。これは万一のクラッシュ後にファイルを自動で復元できる機能です。また開発者や管理者に役立つ機能として、新しいセキュリティアクセス管理があります。完全アクセス権が付与されていないユーザーが、アカウントのアクセスを管理できるようになりました。「統合」は主にプロの開発者の方々に役立つ機能で、REST API、JSON、cURLなど外部とのデータ交換をこれまでも実装してきました。複雑なテクノロジーを誰もが使えるようにするために、IoT、AI、機械学習、マイクロサービス、IaaS、ブロックチェーンなど新しいテクノロジーとの連携に積極的に取り組んでいます。

先を見すえて仕事のやり方を変える

-- 2018年11月に、FileMakerは「ワークプレイス・イノベーション・プラットフォーム」であるという新しいカテゴリーが発表されました。これについて改めて説明してください。

エプリング 「ワークラット」(Work rut、型にはまった仕事のやり方)から脱するためのプラットフォームということです。ばらばらの情報を集めて仕事を効率化するということですね。特にモバイルユースは、企業の戦略に大きな影響を与えます。どのようにデータにアクセスするかが重要で、そのためにモバイルで仕事をすることを推奨しています。アイスホッケーの伝説的な名選手だったウェイン・グレツキーは「パックのあるところへ行くな、パックの行くところへ行け」と言っています。企業の戦略も同じだと思います。今はモバイルで仕事をしていなくても、明日はどうでしょうか。FileMakerプラットフォームは、パックの行く先を考えた取り組みになると思います。

-- とはいえ、「ワークプレイス・イノベーション・プラットフォーム」はモバイルに限ったことではありませんね?

エプリング もちろんそうです。FileMakerのユニークな点は、Mac、Windows、iOS、Webとすべてに対応したプラットフォームであるということです。あらゆるプラットフォーム、あらゆる場所から利用できるように、柔軟に展開できます。これは現在もそうですし、今後もそうです。

-- 「ユニークである」ということですが、競合の存在は意識していますか?

ファイルメーカー社 North Asia Sales Directorの日比野暢

エプリング 今でも紙ベースで仕事をしている人たち、自動化が進んでいない仕事が、我々のチャンスだと思っていますね。

日比野 アンケートや商談などから、紙やスプレッドシートがある意味、競合なのかなと思っています。FileMakerの導入後に紙やスプレッドシートに戻ってしまうお客様も皆無ではありません。しかしFileMaker Cloudを導入したお客様の解約は、きわめて少ないのです。いかに早く目的を達するか、また拡張性があるかという点で、クラウドは重要です。

問題解決が顧客満足につながる

-- ファイルメーカー社が公表している『ワークプレイス・イノベーションに関する調査報告書』には、顧客の満足にもつながるという記載があります。仕事が効率化されて社員のプラスになるのはイメージできますが、顧客の満足につながるとはどういうことでしょうか。

日比野 家具のインターネット通販事業を手がけるタンスのゲン株式会社様は、受注から発送までの対応にFileMakerを使い、2013年からの5年間で売上を4倍に伸ばしています。注文したお客様に丁寧に対応し、安く早くお届けすることで顧客満足度が上がり、結果として売上が伸びたのです。

小林 最近ですと、信州ハム株式会社様がIoTを導入した事例があります。以前から生産管理にFileMakerをお使いだったのですが、その後、品質保持のために社内のあちこちに温度センサーを設置してFileMakerで管理するようになりました。狭い場所などの温度もリモートで常に監視できます。今後はクリーンルームの与圧を監視する計画もあるそうです。これもお客様の安心や満足につながる使い方ですね。

荒地 ノートパソコンを工場に持ち込めなくてもiPadなら入れられる、といったことがあるわけです。このようにテクノロジーを誰でも、どこでも、どういった業種でも活用できるプラットフォームがFileMakerです。問題解決が顧客満足にもつながります。

  • ファイルメーカー社 法人営業部セールスエンジニアの小林ひとみ

  • ファイルメーカー社 マーケティング部シニアマネージャーの荒地暁

「スタートアップ企業応援プログラム」は日本だけの取り組み

-- 新バージョンのリリースと同時に「スタートアップ企業応援プログラム」が始まりましたね。

エプリング これは日本から出たアイデアで、日本独自のプログラムです。日本には登記簿のシステムがあり、適切に運用できます。また日本の組織ではマーケティング、SE、セールスなどの人々の関係が近く結束力が強い傾向があるので、そこに市場チャンスがあると考えています。FileMakerも親会社のAppleもグローバルなやり方を好みますが、このような特定のセグメントにフォーカスした取り組みを新しいエグゼクティブに相談した結果、実施できることになりました。

日比野 これから導入しようというお客様の中には、通常の45日の試用期間では短いと感じる方もいます。また新しいビジネスを始めたばかりの企業では多額の投資は難しいでしょう。そうした方々を応援しようと、50%オフでライセンスを提供します。日本では年間15万社が起業していますが、その方々が遠回りをしなくても済むようにお手伝いしたいと思っています。

エプリング 我々シリコンバレーの会社は、スタートアップのサポートをすることをハッピーに感じます。一方、長年FileMaker, Inc.のCFO(最高財務責任者)だった私の立場から言うと、企業の経営のためには新規顧客の獲得と既存顧客の維持の両方が必要です。既存顧客の維持に関しては、実は日本では途中で離れるお客様が世界的に見ても極端に少ないのです。既存のお客様をもちろん大切にしていますが、それだけでは十分ではありません。昨年、新規顧客の数が世界で最も多かったのも日本でした。良いアイデアを得てこれをさらに伸ばしたいと考えています。最初が肝心で、気に入ってもらえればずっと使っていただけるでしょう。

日比野 スタートアップの成功にはクラウドがベストな選択だと考えました。ハードウェアやセキュリティに煩わされませんし、ビジネスの拡大にスケーラブルに対応できます。そこで、クラウドのリモート構築サポートも利用できるようにしました。また、スタートアップ限定ではありませんが、5月23日からSSLサーバ証明書の割引と期間延長のキャンペーンも実施します。これを機に、FileMakerをますます活用していただきたいと思っています。

-- ところで先ほど「新しいエグゼクティブ」という話がありました。FileMaker, Inc.のCEOが交代したのですね。これによる変化などはありますか?

エプリング 基本的にはありません。前CEOのドミニク・グピールは20年以上当社を率いてきた素晴らしいリーダーでした。新CEOのブラッド・フライターグは当社に加わって6年で、新しいアイデアに対して「それはやってみたら?」と言ってくれるオープンな人物です。FileMakerの新しい章が始まることを楽しみにしています。

最後に……

FileMaker 18プラットフォームのリリースに関して筆者が気になったのは、バージョン17で「FileMaker Cloud」だったプロダクト名が、18で「FileMaker Cloud for AWS」に変更されたこと。その理由を質問したが、コメントは得られなかった。しかしエプリング氏から「クラウドの研究開発には積極的に投資している。モダンなクラウドの展開にFileMakerの未来が広がっている。Stay tuned!(お楽しみに)」という発言があったのをはじめ、インタビュー記事本編に記したとおり同社がクラウドを重視している旨の発言がたびたび聞かれた。これは今後、何らかの展開が期待されるのでは。楽しみに待ちたい。