Samsungの非メモリ事業の強化策を政府が支援

韓国半導体業界を代表するSamsung ElectronicsとSK Hynixの2019年第1四半期(1~3月期)の半導体事業の業績は、メモリ価格の急落および在庫水準上昇の影響から大幅に悪化する結果となった。

韓国勢のメモリ偏重経営は、メモリバブルの際には莫大な利益をもたらしたが、不況になったとたんに総崩れ状態になってしまった。そこで、韓国勢は、メモリビジネスで世界一を維持しつつも、将来に向けて非メモリビジネス強化することを目指し、巨額の投資をしようとしている。これは、韓国政府が掲げる非メモリ分野の強化方針に沿うものであり、今後、韓国では産官学が一体となってシステムLSIやファウンドリなどの非メモリビジネスを強化していくことが鮮明となってきた。

Samsungの半導体部門の営業利益は64%減

Samsung Electronicsが4月末に発表した2019年第1四半期(1~3月期)連結決算は、企業全体の営業利益が前年同期比で6割減となる6兆2300億ウォン(約6000億円)となった。

主力の半導体部門の売上高は同30%減の14兆4700億ウォン、営業利益も同64%減の4兆1700億ウォンと苦戦した。メモリの価格低下と在庫増加で同部門の減益は2四半期連続となった。第1四半期の半導体部門の利益額は、過去最高を記録した2018年第3四半期期の3分の1にまでまでアッという間に縮小したこととなる。顧客が抱える在庫の解消が遅れていることもあり、第2四半期も業績は好転しないとの見方が韓国国内では有力である。

また、同四半期のディスプレイ部門は、半導体部門以上に悲惨で、2016年第1四半期以来、3年ぶりの赤字に陥った。テレビ向けの液晶パネルやAppleのiPhoneをはじめとするスマートフォン向け有機ELパネルが不振で5600億ウォンの赤字となった。

SK Hynixは営業利益7割減、売上高も3割減

韓国第2の半導体メモリメーカーであるSK Hynixの2019年1~3月期の連結決算は、Samsung以上に悲惨である。営業利益は前年同期比68.7%減、前四半期比69.2%減の1兆3665億ウォン(約1330億円)となり、2016年7~9月期に記録した7260億ウォン以来の低水準となった。営業利益率も前四半期の44.6%の半分にも満たない20.1%にまで落ち込んだ。

SK Hynixは4~6月期からモバイル用とサーバ用のDRAM需要が改善し、NANDもSSDで採用が広がるなど需要が上向くとみているが、市場の一部からは、SK Hynixの業績は、Samsung同様に4~6月にさらに下振れするのではないかとの見方もあり、いつ反転上昇するかが注目されている。Samsung、SK Hynix両社とも当面メモリの生産調整を続けることで、在庫の調整を図っている。

Samsungが目指す脱メモリの取り組みに政府が呼応

韓国の半導体業界は、メモリビジネスが落ち込む中、非メモリ分野への傾斜を強めようとしている。

Samsungは4月24日、同社のシステムLSI(SoC)およびファウンドリビジネス(Samsung社内や韓国内で非メモリと呼ばれている事業)を強化するため、2030年までに133兆ウォン(約13兆円)の投資を行うとの長期計画「半導体ビジョン2030」を発表した

これに続いて文在寅(ムン・ジェイン)大統領は4月30日、2017年5月に大統領就任後はじめてソウル郊外のSamsung華城工場(京畿道華城市)を訪れ、同社の「非メモリ半導体(システムLSI)ビジョン宣言式」に出席、「政府も(ビジョン実現を)積極的に支援する」と述べた。

また文大統領は、Samsung経営陣や幹部社員に向かって「(韓国半導体業界は)半導体メモリ分野で世界1位を維持しながら、2030年までにシステムLSIのファウンドリ事業分野で世界1位、ファブレス分野で世界シェア10%を達成し、総合半導体強国に飛躍する」と宣言した。

大統領が訪問した、式典に出席し、10月竣工予定のEUV専用棟を見学した当日は、Samsungが前述の悲惨ともいえる業績を発表したタイミングでもある。財閥と距離をおいてきた文大統領が、このタイミングでSamsungを訪問し、社員を激励したのは、同社がメモリ偏重のままでは韓国経済に悪影響を与えることを心配し、非メモリへの構造変化を促すためとの見方が有力である。

また、Samsungの事実上のトップである李在鎔(イ・ジェヨン)副会長にとっても朴槿恵(パク・クネ)前大統領への贈賄容疑の被告人として最高裁の判断を待つ身として、恩赦の権限を持つ大統領に近づいておきたい事情があったと韓国マスコミは伝えている。

韓国産業通商資源部(日本の経済産業省に相当)は、文大統領のSamsung初訪問に合わせて「非メモリ半導体ビジョンと戦略」を発表した。その目標は, 以下のとおりである。

  • 2030年までにファウンドリ世界1位、ファブレスシェア10%を達成する。
  • 2万7000人の半導体人材雇用を追加創出する(半導体専門人材を3万3000人(2018年基準)から2030年に6万人に増やす)。
  • ファブレス需要創出、ファウンドリ支援、共生生態系の構築、人材育成、技術開発を重点的に支援する。
  • 中堅ファウンドリの設備投資金融支援をする「産業構造高度化支援プログラム」を実施する。
  • 2021年から韓国を代表する名門私立大学である延世大学と高麗大学に政府支援のシステム半導体契約学科を新設し、段階的に制度を拡大して行く(入学時に契約でSamsungなどの特定企業への就職を保障し、学費を企業や政府が援助する)。

Samsungが非メモリビジネス強化に掲げた13兆円規模の「(システム)半導体ビジョン2030」は、韓国政府の正式支援表明によりいよいよ本格化し始めようとしている。これまで、韓国政府の非メモリ分野強化策は、メモリ成功体験から抜け出せないSamsungやSK Hynixの関心をひかずにことごとく失敗してきたが、今度こそ成功するかどうかが注目される。ただし、韓国の中小半導体関連企業や大学教授の一部からは、「今回の政府の施策は、結局はSamsungに対する巨額法人税優遇を目的としたもの」との批判も出ている。