中型ロケットから大型ロケット、スペースプレーンまで

さらに2018年8月には、ペガサス以外にロックから発射することを目指した、新たなロケットを開発する計画も発表された。

ロケットは大きく3種類あり、1つ目は中型ロケットの「ミディアム・ローンチ・ヴィークル(MLV:Medium Launch Vehicle)」で、高度400km、軌道傾斜角28.5度の地球低軌道に3400kgの打ち上げ能力をもつ。

2つ目はそのMLVの機体を3基束ねたような「ミディアム・ローンチ・ヴィークル・ヘヴィ」で、同じ地球低軌道に6000kgの打ち上げ能力をもつ。

そして3つ目は翼をもったスペースプレーン「ブラック・アイス(Black Ice)」で、MLVとほぼ同じ打ち上げ能力をもちながら、再使用が可能で、また有人飛行にも使えるとされた。

発表時点で、MLVは2022年の初打ち上げを目指すとしていた。

  • ブラック・アイスの想像図

    ブラック・アイスの想像図 (C) Stratolaunch Systems

さらに、これらのロケットに装備するロケット・エンジン「PGA」の開発も進んでいた。ちなみにPGAとは、ポール・アレン氏のフルネームである「Paul Gardner Allen」の頭文字から取られている。

PGAは液体水素と液体酸素を推進剤とする二段燃焼サイクルのエンジンで、推力は889kN。比推力は不明だが、同社によると「世界で最も効率的な水素エンジン」とされていた。

液体水素エンジンは、地上からの打ち上げに使う場合には損失が大きいものの、空中発射においてはその問題が解消される。前述した空中発射の利点である「効率のいい設計のロケットを飛ばすことができる」というのがここで効いてくる。

また、プリバーナーと呼ばれる、ターボ・ポンプを駆動するガスを生み出すための小さな燃焼室の製造には、全面的に3Dプリンターが用いられている。

2018年11月2日には、プリバーナー単体での燃焼試験も行われ、無事に成功したことが発表されている。

  • プリバーナー単体での燃焼試験の様子

    PGAのプリバーナー単体での燃焼試験の様子 (C) Stratolaunch Systems

新型ロケットの開発中止もペガサスは継続

しかし、Aviation WeekやGeekWireなどのメディアは2019年1月18日、ストラトローンチがMLVやMLVヘヴィ、スペース・プレーン、そしてPGAエンジンの開発を中止すると報じた。公式発表はないものの、同社幹部が各メディアに対し、中止したことを認めている。また、それに伴うレイオフも実施するという。

ただ、ロックの開発や試験は継続するとし、またペガサスによる衛星打ち上げ計画も継続するという。ロックの初飛行、そしてペガサスの試験発射は、以前と変わらず2019年中に実施。そして2020年から運用を始めるとしている。

報道では、新型ロケットの開発中止は、これらの事業に集中するための業務の合理化だとされている。ただ、2018年10月に、同社の創業者にして、資金提供を続けていたアレン氏が亡くなったことが影響を与えたことは間違いないだろう。

アレン氏の企業であり、ストラトローンチの親会社でもあるヴァルカン(Vulcan)は、アレン氏の死後、ストラトローンチをはじめとする、同氏が手がけていた事業を継続するとしていたが、さまざまな困難があったであろうことは想像に難くない。また、今後もPGAやMLVなどの開発や試験が進めば進むほど、そのコストも増大することから、早い段階で打ち切るというのは理解できる話である。

しかし一方で、ペガサスだけで事業として成立するかどうかは未知数である。そもそも本家のノースロップ・グラマンが運用するペガサスも、運用コストの高さから、市場に十分受け入れられているとはいえず、打ち上げ数も少ない。

  • ペガサスの発射の様子

    ノースロップ・グラマンが運用する、ペガサスの発射の様子 (C) NASA

空中発射ロケットの利点は前述したとおりだが、一方で空中発射ならではの欠点もある。たとえば飛行機に搭載する関係上、あまり大きなロケットは打ち上げられない。また、いくら発射台は必要ないとはいえ、ロケットや衛星を整備するための施設は必要なうえに、飛行機の整備も必要になる。

また、ロケットは基本的に危険物なので、取り扱いが難しく、旅客機が往来している普通の空港では運用できない。さらに衛星には、発射直前まで電力や空調を供給する必要があるため、飛行機に地上の発射台と同じ機能をもたせるような手間もかかる。

つまり、空中発射は地上発射と比べ、一概に優れているというわけではなく、いかに空中発射の利点を活かして、そして欠点を小さくできるかにその成否がかかっている。ノースロップ・グラマンはそれが十分ではなく、結局はコストが高いままになってしまい、苦戦を強いられている。

では、ストラトローンチなら、それを改善できるのだろうか。しかし、巨大な飛行機は飛ばすだけで莫大なコストがかかるだろう。そのコストが地上発射より安くなる可能性はあり、またペガサスを3機同時に発射すれば1機あたりのコストは安くなるとはいえ、ペガサスそのもののコストの高さが、それを帳消しにする可能性もある。

そもそも、ペガサスを3機同時に発射する機会がどれだけあるのか、またノースロップ・グラマンの長年の努力でも実現しなかったペガサスの低コスト化を、世界最大の飛行機をもって、どのように達成するというのか、という疑問も残る

さらに、米国のロケット・ラボ(Rocket lab)の「エレクトロン(Electron)」、またストラトローンチよりも規模の小さな空中発射ロケットを開発しているヴァージン・オービット(Virgin Orbit)の「ローンチャーワン(LauncherOne)」など、小型衛星の打ち上げに特化した、新たなロケットが続々と誕生しつつある。これらはどれも低コスト化や、打ち上げの柔軟性、利便性を念頭に置いており、ストラトローンチにとっては大きな競合相手となりうる。

はたして、この世界最大の飛行機が大空へ飛び立ち、宇宙へロケットを送り出す日は来るのだろうか。

  • 高速タキシング試験の様子

    2019年1月11日に行われた高速タキシング試験の様子 (C) Stratolaunch Systems

出典

Stratolaunch space venture cuts back sharply on operations - GeekWire
Stratolaunch Terminates Rocket Engine, Launcher Programs | Space content from Aviation Week
Stratolaunch Announces New Launch Vehicles - Stratolaunch Stratolaunch
Stratolaunch abandons launch vehicle program - SpaceNews.com
Stratolaunch | Scaled Composites

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。

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