日本半導体製造装置協会(SEAJ)は1月10日、半導体製造装置およびFPD製造装置の2018年度~2020年度までの需要予測を発表した。
それによると、2018年度の日本製半導体製造装置は前年度比11.1%増の2兆2696億円、FPD製造装置は同9.8%増の5400億円となる見通しで、両者の合算値は同10.8%増の2兆8096億円となるとしている。
また、2019年度は半導体製造装置において、上半期に投資のけん引役であったメモリへの投資が慎重になるとの見方が示されており同0.5%増の2兆2810億円にとどまるとするほか、FPD製造装置についても、2018年の反動や、第6世代(G6)基板の有機EL向け投資が進まないこともあり、同16.7%減の4500億円と予測。そして2020年度は、半導体、FPDともに投資が復活するとして、半導体製造装置が同7.0%増の2兆4407億円、FPD製造装置が同6.7%増の4800億円と予測している。
なお、これらの予測値は、同協会の半導体調査統計専門委員会およびFPD調査統計 専門委員会による需要予測とSEAJ理事・監事会社20社による市場規模動向調査結果を総合的に判断しSEAJの総意としてまとめたものである。ここで注意する必要があるのは、SEMI(国際半導体製造装置材料協会)や半導体市場調査会社の予測が暦年ベース(その年の1~12月)であるのに対して、SEAJでは、事業年度(4月~翌年3月)ベースであるということである。後述するように、SEAJは2020年初頭から半導体景気が回復すると見込んでいるため、2019暦年よりは好調な2020年1~3月期を含む2019年事業年度のほうが大きな需要が期待できる。また、日本市場では、年度末の1~3月期に駆け込み需要が期待できることから、暦年ベースの予測とはだいぶ異なる需要傾向を示すことがある点に注意を要する。
半導体産業はどう動いていくのか?
今回の市場予測の元となった半導体の市場動向だが、2018年10月のIMFの発表によると、2018~2019年の世界経済の成長率は7月時予測から0.2ポイント下方修正となる3.7%と予想されている。米中貿易摩擦により中国を中心に経済成長が鈍化するためである。
一方、半導体の消費を牽引するアプリケーションとしては、これまでのPCやスマートフォンに加え、データセンターなどの需要が加わる流れができてきており、2019年には5G通信が一部で商用化されるなど、さらにさまざまな分野での活用が期待できることから、手堅い成長が続くことが期待できるとする。
そのため、設備投資もメモリ関連の大型投資次第というところもあるが、比較的安定した動きを見せて行くものという期待が示されている。
日本製半導体製造装置の市場はどうなる?
2018年度の日本製半導体製造装置の販売高(海外拠点を含めた日系企業で製造された半導体製造装置の国内および海外での販売額の合計)は、3D NANDとDRAMを中心としたメモリメーカーが投資の牽引役となり、前述のとおり前年度比11.1%増の2兆2696億円となる見通しだ。2019年度は前半にメモリ向け設備投資が抑えられるが、年度後半、特に2020年1~3月期からの回復が見込まれており、2020年度に再び成長軌道に戻るとの予測となっている。
また、日本市場については(外資系企業の日本市場での販売高含む)、2018年度は、3D NANDやDRAM、イメージセンサ向けに高水準な投資が継続し、同19.8%増の9748億円と予測。2019年度は一部の設備投資の抑制もあり、横這いの9748億円としているが、2020年度は各社ともに積極的な投資姿勢を再開するとの期待から同7.0%増の1兆430億円という予想額となっており、実際に日本市場単独で1兆円を超えれば、2007年度以来、13年振りのこととなるという。
FPD産業はどう動いていくのか?
一方のFPD産業だが、韓国、台湾、日本の大手パネルメーカー各社は2017年第2四半期(4~6月)の平均10%をピークに、営業利益率を低下させてきたが、2018年第2四半期にようやく下げ止まりの兆しを見せた。
中小型パネル市場は、2018年の初頭からスマートフォンの有機EL化が一気に進むものと見られていたが、価格が高いこともあり、販売面で計画通りに進まず苦戦が続いており、有機ELパネルの供給に関しては、Samsungを中心とする韓国の既存工場の生産能力だけで相当部分をまかなえる状況にあるといえる。
また、大型パネル市場は、2018年より中国における第10.5世代(G10.5)ガラス基板向け設備投資が本格化しており、その規模やスケジュールの大きな変更も無く、2018年度前半は9月までの実績値として前年比約2割増となっているとのことで、日本製装置としても前回予測を上回る数字を達成したという。このため、2018年度の日本製FPD製造装置についても上方修正がなされ、2019年はその反動が大きく出る見通しだが、2020年度までの3年間の市場金額の合計値はこれまでの見通しよりも増額されているという。
このため、日本製FPD製造装置販売高(海外拠点を含めて日系企業の国内および海外市場でのFPD製造装置の販売額総額)に関しても、2018年度は韓国を中心としたG6有機EL向け投資の延期による売上高の減少があったものの、中国のG10.5液晶パネル投資がほぼ予定通り行われため、前述のとおり、同9.8%増の5400億円という予測となっている。
SEAJ短観から見る直近と1年後の景気感
SEAJは毎月、半導体・FPD製造装置メーカーの経営者による景気観調査(SEAJ短観)を実施しているが、その内容は通常、公にされることはない。しかし、今回、新年の記者会見において、SEAJの辻村学 会長がその一部を披露した。
それによると、直近の景気観に関しては、2018年4月ごろが好況感のピークで、その後徐々に悪化気味となってきているといるとのことで、2018年12月時点では、「良い」が「悪い」をわずかに上回る程度となっているという。
また、半年後の景気観については、直近よりもさらに悪化傾向にあり、2018年12月時点の調査で、半数を超える経営者が「景気はさらに悪くなる」とみている。しかし、同時点の1年後の景気観については、「景気は回復する」とみる経営者のほうが多くなっているとのことで、経営者が2019年末から2020年にかけての景気回復を期待感を込めて予測している点が注目される。
なお、SEAJ会長の辻村学氏は、「これまでパソコンや携帯電話(スマートフォン)によって半導体需要は増えてきたが、今後はIoT、クラウド、人工知能(AI)、自動車、第5世代通信(5G)が重層的な広がりを見せ、半導体需要を押し上げて行く」ということを強調。また、産業動向予測については、「半導体およびFPDを取り巻く情勢は目まぐるしく変化しており、1日で予測を書き換えなければならないような事柄の連続である。年末にはブラッククリスマスともいわれる株価暴落が生じ、年始にはアップルショックが起きている。このような状況下での将来予測は難しい。しかし、『未来は不確実』ということだけは確実である。無理に先を読もうとしないで、全体感で判断するようにしている」と述べ、「人間に欲望がある限り、半導体は永遠に不滅である。よって半導体製造に必須な装置も不滅である」との持論を披露し、今後も半導体産業、ならびに製造装置産業は成長を続けていくであろうとの見方を示した。