2018年のGordon Bell賞は、最高性能部門でWayne Joubert氏の率いるOak Ridge国立研究所のチーム、スケーラビリティと解を得るまでの時間の部門でThorsten Kurth氏の率いるLawrence Berkeley国立研究所とNVIDIAの混成チームが受賞した。
ORNLのチームは「Attacking the Opioid Epidemic: Determining the Epistatic and Pleiotropic Genetic Architectures for Chronic Pain and Opioid Addiction」という論文を発表した。一方のLBNL+NVIDIAのチームは、「Exascale Deep Learning for Climate Analytics」という論文を発表した。
Gordon Bell賞は、正式にはACM Gordon Bell Prizeであり、Association for Computing Machineryが大規模コンピューティングの進歩に顕著な貢献をした業績に対して授与する賞である。したがって、次の写真の左端にはACMのGordon Bell賞委員会のChairである理研R-CCSの松岡聡氏、右端にはACM PresidentのCherry Pancake氏が写っている。
オピオイドは麻薬のような鎮痛作用を持つ薬品の総称で、モルヒネ、ヘロインのようなケシ(Opium Poppy)からとれるものもあるし、フェンタニルのように合成で作られるものもある。米国では、毎日、115人がオピオイドの過剰摂取によって死亡しているという事態になっており、オピオイド危機と言われている。
ORNLの研究は、遺伝子アーキテクチャの観点から、スーパーコンピュータを使って、なぜ慢性的な痛みが起こり、オピオイドがどのように作用するのかを理解し、オピオイド危機に立ち向かうツールを開発しようというものである。この研究からオピオイドの誤用の新しい治療法が見つかると期待されるという。
ORNLのチームは、CoMetと呼ぶ遺伝子全体の類似性を比較するアプリケーションを開発した。そして、TitanスーパーコンピュータとSummitスーパーコンピュータで実行を行った。SummitではV100 GPUのTensorコアを使う混合精度の演算で2.3 ExaFlopsを超える性能を達成した。これは、Gordon Bell賞候補の論文としては最高性能である。
LBNL+NVIDIAのチームは高解像度の気象シミュレーション結果の中から、ディープラーニングを使って異常気象が発生しているところを見つけ出す方法を開発した。
LBNLのチームはスイスのPiz Daintスーパーコンピュータと米国のSummitスーパーコンピュータを使い、Piz DaintではTiramisニューラルネットワークの変形、SummitではDeepLabv3+ニューラルネットワークの変形を使って気象パターンを学習させた。
Tiramisネットワークは5300 P100 GPUまでスケールし、並列効率79%、スループットで21.0PFlopsを達成した。そして、DeepLabv3+ネットワークでは27360 GPUまでスケールし、並列効率90.7%、スループット325.8PFlopsを達成した。
この性能はFlops値では前述の論文には及ばないが、27360個のGPUまで性能をスケールさせたのは新記録である。
なお、東大の市村准教授のチームの地震解析の論文は、Gordon Bell賞の最終候補には残ったが、受賞はならなかった。