半導体市場調査会社である仏Yole Développementは12月10日に次世代不揮発性メモリの市場動向調査レポートを発行するのに先立ち、その概要を公開した。

モバイル、クラウド、IoT、ビッグデータ、そしてAIの進化により、大量のデータが次々と生成されるようになってきたが、これらの大量のデータを記憶しておくためにメモリ技術はこれまで以上の進歩が求められるようになってきた。

こうしたデータの主記録装置としてはNANDとDRAMが、まだ大容量化が可能であるため、今後もしばらくの間、活用されていくことが見込まれているが、現在、その間には大きな記録容量的な溝が介在するようになりつつあり、この溝を埋めない限り、システムの全体的な性能向上につながらないと考えられている。

SCMとして年平均成長率230%で伸びる3D XPoint

ストレージクラスメモリ(SCM)は、この溝を埋めることができるデバイスと期待される。そのさいたる存在がIntelとMicron Technologyが長年にわたって研究してきた相変化型(PCM)材料を用いた3D XPointメモリであろう。最初の製品となったOptane SSDとストレージアクセラレータはすでに市場を形成しており、2019年にはDIMM形状の3D XPoint製品「Optane DC」の提供も予定されている。

しかし、IntelとMicronの共同開発は2019年のはじめにも解散される見通しである。そのため、Micronは、一時は3D XPointに消極的で、同分野から撤退するのでは、とも囁かれていたが、現在は、Intelとの合弁会社(IM Flash Technologies:IMFT)のIntel分の持ち株すべてを引き取り、今後とも3D XPointに戦略的に関わっていく姿勢を見せており、2019年にはMicron独自の3D XPoint製品を発売する計画としている。

サーバCPUで圧倒的シェアを誇るIntelが積極的に市場の育成を進めてきたこともあり、3D XPointメモリの販売額は、今後3年間で1桁以上の増加が見込まれるという。中でもOptane DCは、最新世代のXeonプロセッサ(Cascade Lake)と組み合わせて販売されるほか、コンシューマ向けにもOPtaneメモリとCPUを組み合わせた「Intel Core i+」の展開が進むことも期待されるなど、SCMが次世代不揮発性メモリの主要な応用分野に位置づけられるようになってきており、2019年には次世代不揮発性メモリ市場における90%以上のシェアを占めるとYoleでは予測している。

次世代不揮発性メモリ(NVM)としては、相変化型メモリ (Phase Change Memopry:PCM)、磁気抵抗ランダムアクセスメモリ(Magnetoresistive Random Access Memory:MRAM)、スピントランスファトルクMRAM(Spin Transfer Torque MRAM:STT-MRAM)、抵抗変化型RAM(Resistive RAM:RRAM)といったものが代表格として知られているが、その多くが高集積化が難しく、コストもNANDの大容量化の方が早く、太刀打ちできて来なかった。しかし、SCMの登場により、次世代不揮発性メモリ市場は、2017年~2019年にかけて年平均成長率230%という勢いで伸びていくとYoleでは予想しており、そのけん引役となるのがエンタープライズ向けSCMだとしている。

  • 次世代不揮発性メモリ市場規模の推移

    次世代不揮発性メモリ市場規模の推移 (出所:Yole Développement)

5年後も3D XPointは主流のまま

こうした次世代不揮発性メモリは、かつてはDRAMやNANDの代替を目指して開発が進められていたが、現在ではスタンスを変え、SSDやDIMM、NVDIMMなどのメモリモジュールの内部でDRAMやNANDと組み合わせて活用しようという動きとなっている。こうした動きはしばらく継続する見込みであり、2023年になってもエンタープライズおよびクライアントSCMとして3D XPointの市場が拡大していくため、その主導的な立場は維持されるものと見られる。ただし、Samsung Electronicsと東芝メモリは、それぞれZ-NANDおよびXL-Flashという3D NANDベースのSCMを開発しており、同市場の攻略を狙っている。しかし、これらの技術はエンタープライズSSDに使われ、DDR4コンパチブルのOptane DCとは競合しないと思われることから、Yoleでは、Optane DCが3D XPointの販売額の5割以上を占めるようになるのでは、と見ている。

3D XPoint以外の次世代不揮発性メモリとしては、抵抗変化型RAM(RRAM)が、3D XPointと競合するものと期待されていたものの、技術的な課題解決にてこずり発売遅延を繰り返してきた。しかし、2020年以降になれば、そうした問題も解決されるであろうことから、RRAMはSCM向けメモリとして活用される可能性があり、NANDと大容量ストレージ分野で競争を始めるものとYoleでは見ている。

また、STT-MRAMは高速性と耐久性のおかげでエンタープライズ・ストレージSCMとして性能面では有望であるものの、製造コストが高く、製造が複雑で、高集積化が難しいため、スタンドアローンメモリとして成功する確率はPCMに比べて低いと言わざるを得ないが、組み込みメモリとしては期待でき、マイコンの組み込みフラッシュを中心に採用されることが期待されるという。

このほか、AI分野も応用分野として期待されており、最近Crossbarが、RRAMチップを用いて、顔認証はじめさまざまなAIアプリケーションを実演するなど、動きを見せており、YoleもこうしたRRAMベースのAIデバイスが2021年以降に市場に登場するとの見方を示している。

  • スタンドアロンおよび組み込みメモリ技術ごとの次世代不揮発性メモリ市場規模

    スタンドアロンおよび組み込みメモリ技術ごとの次世代不揮発性メモリ市場規模およびメモリ種類別市場シェアの2018年と2023年の比較 (出所:Yole Développement)

なお、次世代の不揮発性メモリのいずれもが、性能は良いが容量が少なく、価格が高い、という課題を有している。そのため、市場を拡大するためには、相応の戦略を取る必要があるとYoleでは指摘している。Intelが独自の立場を活用して、3D XPointをXeonプロセッサと組み合わせ、データセンター市場に導入を図る、いわば「トロイの木馬」ともいえる手法は理に適っていると言える。

また、STT-MRAMベンダは、比較的事業規模が小さい企業が多い(例えばEverspin、Avalanche、Spin Memory)ため、SMART Modular Technologiesのようなメモリモジュールサプライヤがエンタープライズストレージ市場に参入を図る際の有望なパートナーとなると見ている。こうしたモジュールサプライヤの多くが、初期段階から、ニッチなアプリケーションを開発するのが得意な企業だからであり、こうしたエコシステムの構築が、次世代の不揮発性メモリが今後、市場の拡大を図っていくうえでは重要な意味を持ってくることになるだろうとYoleでは説明している。

  • スタンドアロンおよび組込向け次世代不揮発性メモリ市場に参入している企業例

    スタンドアロンおよび組込向け次世代不揮発性メモリ市場に参入しているチップサプライヤ、IPベンダ、ファウンドリ、モジュールサプライヤ、システムサプライヤの例 (出所:Yole Développement)