「信用経済」という概念が注目を集めている。

日本では、「VALU」や「タイムバンク」といった、個人の”信用”にフォーカスしたサービスが登場。中国では、個人の信用をスコア化する「芝麻信用(セサミクレジット)」の登場が社会にインパクトを与えた。

そうした状況の中で、社会に新たな評価指標を根付かせようとしている企業がある。信用ではなく、”感謝”を軸にした経済圏の創出を図るオウケイウェイヴだ。

本稿では、オウケイウェイヴ 代表取締役社長 松田元氏の話と、すかいらーくホールディングス 取締役常務執行役員CMO 和田千弘氏、VALU 代表取締役社長 小川晃平氏、経済評論家 森永卓郎氏などが登場した「感謝経済プラットフォームローンチ発表会」での様子を合わせ、オウケイウェイヴが仕掛ける新たな経済圏の正体を紐解いていく。

オウケイウェイヴ 代表取締役社長 松田元氏。早稲田大学在学中にアズ株式会社を創業。2012年にアズグループホールディングス株式会社(現アズホールディングス株式会社)設立、代表取締役就任。2016年に株式会社創藝社代表取締役に就任。2017年9月オウケイウェイヴ取締役就任、2018年7月より現職

※以下、すかいらーくホールディングスの取締役常務執行役員CMOの和田千弘氏、VALU 代表取締役社長の小川晃平氏、経済評論家の森永卓郎氏らのコメントは9月20日の感謝経済プラットフォームローンチ発表会時のもの

感謝される人が報われる社会へ

――「感謝経済プラットフォーム」とは?

オウケイウェイヴ 松田氏「感謝経済プラットフォームは、感謝される人が報われる社会を目指す、”感謝で回る経済圏”をつくるための枠組みです。9月20日より発足して、現時点では19社が参画しています」

同氏によると、”感謝で回る経済圏”の仕組みはこうだ。まず、オウケイウェイヴが発行する「OK-チップ」と呼ばれるトークンをユーザー間でやり取りしてもらう(OK-チップは主に、同社運営のQ&Aサイト「OKWAVE」でのユーザー間の感謝のやり取りとして用いられる) 。ユーザーは、集めたOK-チップを使うことで、プラットフォームへの参画企業が出す優待や特典をゲットすることができる。

つまり、ユーザーが誰かに感謝してもらうような行動をとり、お礼としてトークンをもらうことで、それを自分の資産として使用できる、という仕組み。例えば、貯めたトークンをヘッドフォンと交換したり、IT機器の修理代金の一部にあてたりできるそうだ。

オウケイウェイヴの特設サイトでは、同社の提案する「感謝経済」に賛同した企業による優待や特典が掲載されている。協力企業は徐々に増えていく予定だそう

すかいらーくが「感謝経済」に賛同するワケ

この取り組みには、ファミリーレストラン「ガスト」などを運営するすかいらーホールディングスも参画している。同社では、感謝経済の仕組みを「人事評価」に活用する考えだ。同社の取締役常務執行役員CMOの和田千弘氏は、この構想を聞いて「まさにこれだ」と思ったそう。

すかいらーくホールディングス 和田氏「『感謝されている人』が多い店舗と、売り上げが高い店舗には相関性があるというデータが出ていることから、当社では、『他の社員からどれだけ慕われ、感謝されているか、さらには人徳を持って働いているか』ということを、人事評価の指標にしています」

すかいらーくが導入するのは、オウケイウェイヴの提供する、”感謝”のやり取りを「見える化」することのできる人事評価ソリューション「OKWAVE GRATICA(グラティカ)」。これは、感謝の気持ちを伝えられるオンライン上のメッセージングサービスだ。メッセージカードを送る際に「OK-チップ」を添えることができる。

和田氏「従業員同士、さらには従業員とお客様間でOK-チップをやり取りしてもらい、その数値を人事評価を組み込むことで、従業員の育成、および売り上げの拡大につなげたいと考えています」

9月20日に行われたオウケイウェイヴによる感謝経済プラットフォームローンチ発表会の様子 (写真左から6番目がすかいらーくの和田氏)

――すかいらーくのほかにも、医療法人やマーケティング企業などもプラットフォームへの参画を発表しています。参画企業の選定基準はあるのでしょうか

松田氏「我々の理念を理解してくれるかどうか、が一番重要な選定基準です。当社では発表会以前より、感謝経済プラットフォームについての構想を発表していました。今回発表した19社はすべて、その構想に共感していただいた企業。私達から声を掛ける前に、『協力したい』と手を挙げていただいた企業も少なくありません」

”感謝”を人事評価に組み込む、優待・特典に換える、というのは、あまり聞いたことのない仕組みだ。その構想を聞き、価値観を共有できない企業は、プラットフォームへの参画に二の足を踏むことだろう。そこで、プラットフォームの土台を固めるためにも、まずはオウケイウェイヴの目指す世界観を理解してくれる企業に協力を仰いだ。

腕の立つラーメン屋が、1億円調達できる仕組み

これまで、「人からどれだけ感謝されているか」という考え方が経済に組み込まれる仕組みはなかった。新たな評価指標が受け入れられつつある背景には、VALUを代表するような「他人からの評価」を経済に組み込む仕組みをつくった新興サービスプロバイダーの貢献は大きい。

小川氏は、「信用経済」という概念が普及したのは、既存の評価軸で個人を評価することに限界があったためだと語る。

VALU 小川氏「これまで、『信用』というものは中央集権的でした。ことお金に関して考えてみると、流れの中心には中央銀行があり、そこからメガバンク、地方銀行へと移っていくイメージです。しかし、現代において信用は、大きな組織から受け渡されるものに加え、周囲の人から積み上げられるようになってきている」

VALU 代表取締役社長の小川晃平氏

小川氏「例えば、ラーメン屋の店主が銀行からお金を借りようとすると、せいぜい4,000万円~5,000万円が限界。ただその人は相当な腕があって、本来は数億円の融資を受けられるポテンシャルを持っているかもしれない。そう考えると、今の金融機関における評価軸は、必ずしも時代に合っているわけではないんです。個人のスキルが真っ当に評価される世界を実現させたい、その考えのもとに生まれたのがVALUというサービスでした」

「私はSNSでフォロワーが10万人いるんだ」「オンラインサロンに1,000人もの入会者がいるんだ」と銀行にいっても、それが大金を融資する上での判断材料になるか、というと難しいだろう。しかし、YouTuberやInstagramerなどのインフルエンサーは、多くのファンを持ち、利益を生み出しているのは確かだ。

SNSの登場などをキッカケに、ここ数年で経済のトレンドは大きく変化している。それゆえ、既存の軸のみで人を評価するということは難しくなってきている。

――小川さんが話されていた内容について、どのように捉えていますか?

松田氏「信用の築き方がここ数年で大幅に変化しているのは、私も感じていることです。この変化の一番の要因は『ブロックチェーン技術の発達』にあると捉えています。今や、人々の行動が、ブロックチェーンによって残るようになっています。そうすると、悪い行動をした人や企業は信用を失うことになる。仮想通貨やICOといった、ブロックチェーンを用いた仕組みが一般的なものになってきたことで、これまであったような”金融機関的な”評価軸だけでは足りなくなってきています」

人からどれだけ感謝されているのか、ということも、これまでの評価軸では測れないものであった。感謝経済プラットフォームの登場で、これまでは評価されなかった人にスポットライトが当てられる世界は魅力的だ。

「1% の悪人」より「99% の善人」に焦点を

森永氏も、ローンチ発表会では「感謝経済プラットフォーム」の構想には賛同の意を見せていた。

森永氏「インターネットを利用する99% はいい人。でも、1% の悪い人が目立ってしまうんです。私がメルカリで欲しいトミカを購入しようとしていたとき、説明欄に『箱のみ』と書いてあることに気づいたんです。危うく、中身が無い物を購入してしまうところでした……。ビジネスにおいて、このような1% の悪人にフォーカスすると、窮屈なサービスが生まれてしまいます。『感謝経済』の考え方が普及し、『善意が経済を動かす』世の中になっていくことに期待しています」

経済評論家 森永卓郎氏

小川氏も、感謝経済への期待を述べる。

小川氏「いつだって、誰かの課題解決が仕事の源泉。しかし、これまではお金にならなかったような小さな課題解決が評価され、それが資本化されるというのは非常に良い仕組みだと思います」

日本ならではの"粋な文化"を取り戻したい

――「感謝経済プラットフォーム」によって、今後、社会にどのような変化がもたらされるのでしょうか?

松田氏「感謝の気持ちを『見える化』することで、形骸化してしまった、日本本来の”粋な文化”を取り戻せるのではないかと考えています。『2時間食器洗いするから』といってお金のない学生がタダ飯を食べられたり、『子どもが熱を出した』といって隣人に助けてもらったり。このプラットフォームによって、感謝すること・されることの価値を再確認する人が増えれば、人と人とが、今まで以上に密接に関わり合るようになっていくのではないでしょうか」

――今後の展望について教えてください

松田氏「まずはプラットフォームを拡大させるために、参画企業を増やしていきたいと考えています。将来的には海外展開も視野に入れています。このプラットフォームが日本ならでは”粋な文化”を世界に広めていくキッカケになるようにしていきたいですね」

(田中省伍)