現代世界には、アナログとデジタル両方の信号で構成された、膨大なデータが溢れています。アナログ値は、温度、光、音、圧力のような自然現象の特性ですが、エレクトロニクス技術は、デジタル信号の受信と処理、それに続く伝送によって成り立っています。

アナログ信号とデジタル信号の性質は大きく異なります。多くの場合、両方の信号が電子システム内で併存する必要があります。現実世界で発信された信号は、人間が認識し相互作用できる形で、現実世界に戻されなければなりません。そこにデータコンバータ(アナログ/デジタル・コンバータ(ADC)とデジタル/アナログ・コンバータ(DAC))の役割があります。データコンバータでは一般的に、次の段階に備えた信号処理が行われます。

アナログ波形は、時間の経過とともに周波数と振幅が連続的に変化し、事実上無限な値によって表されます。私たちの耳に聞こえる音や発声された言葉は、アナログです。画像やビデオも元はアナログですが、それが高度なアナログセンサである人の目によって、ビジョンに変換されているのです。たとえば心拍数の測定やモーショントラッキングは、どちらもアナログ信号の検出と処理によって行われます。

これに対してデジタル情報は、バイナリ形式のデジタルビットを使用した離散時間信号と量子振幅信号によって表されます。このデジタル言語によって、データの効率的な処理と長期保存が可能になります。そのためデジタル情報は、コンピューティングシステムと通信システムで広範に使用されています。

電子機器は、アナログからデジタルに、またはその逆に信号を変換するインタフェースを常に必要とします。そのためエンジニアは、ADCとDACを基本的なコンポーネントとして使用します。たとえば、車両のスマート温度調節システムの設計では、エンジニアリングチームは車内のさまざまなパッセンジャーゾーンで、複数のセンサのアナログ温度を読み取り、また外部センサのアナログ温度も読み取る必要があります。ADCは、これらのアナログ値を個別に2進表現に変換し、システム・マイクロ・コントローラ・ユニット(MCU:マイコン)で処理するために導入されるものです。

MCUはこのデータを、乗員がヒューマンマシンインタフェース(HMI)を通じて入力したコマンドおよび設定と組み合わせます。乗員と物理的なHMIコマンドから得られたアナログ温度値は、ADCによってデジタル信号に再度変換されます。そして蓄積されたデジタル信号データをMCUが利用することで、安定した環境が維持されます。DACは、デジタル信号をアナログ信号に再度変換し、HMIにフィードバックを送信するために使用できます。バイナリコードは、他の方法で乗員が認識することはできません。

データコンバータにおける技術上の進歩

データ変換における過去数十年にわたる漸進的なイノベーションによって、セルラー通信や医療用画像から、コンシューマ向けオーディオやビデオに至るまで、性能の向上が実現しました。そしてさらに、まったく新たな応用が可能になっています。ブロードバンド通信(有線/ワイヤレス)や、高性能のイメージングアプリケーション(医学/科学向けイメージングから工業検査まで)に対する需要の増大に加えて、AR/VR、顔認識などの登場によって、高速のデータ変換に注目が集まっています。

1GHzを超える信号帯域幅を処理できるコンバータICが、一般的になりつつあります。こうした最先端の速度を実現するために、それぞれ固有の運用上の利点を持つ、多様な信号アーキテクチャが並行して導入されてきました。処理技術を簡素化し、小型のトランジスタによって低電力で高速な切り替え実現し、処理能力とデータスループットが向上することで、変換処理は高速化されます。

その結果、高解像度のイメージコンテンツをより高速にレンダリングするために、多くの場合物理法則によるスペクトルの限界までブロードバンド信号の帯域幅が拡大し、イメージングシステムで処理されるピクセル数が増加しています。このように、非常に高度な処理能力を利用するためにシステムを再構築する流れの中で、マルチチャネルのデータコンバータ、さらにはソフトウェア定義型システムに対する需要が高まっています。

無線局からの信号の識別、フィルタリング、増幅時に信号調節の大部分を(信号をデジタルに変換する前に)アナログで行う従来型のアプローチとは異なり、マルチ・キャリア・アーキテクチャ手法では、スペクトル全体をデジタル化した上で、デジタル処理によって信号を識別、選択、復元します。その場合は非常に高度な回路が必要ですが、利点も大きく、複数の無線局を同時に復元することが可能になります。実際に、広帯域のデジタイザと強力なプロセッサを組み合わせ、さらにデータコンバータを加えて速度と性能を向上させることで、あらゆる種類の信号を復元できるソフトウェア定義型無線が形成されます。これは仮想化と同等の信号処理になります。

アナログデバイセズ(ADI)はこのほど、4G/5Gマルチバンドワイヤレス通信基地局、マルチスタンダードの製造試験システムや防衛電子機器など、帯域幅が増大した用途向けに設計された、RFコンバータの新しい製品ラインを導入しました。28nm CMOSテクノロジーを基盤とするAD9213では、速度、帯域幅、ダイナミックレンジが強化されています。

パラメトリック性能が向上し、従来型のRF ADCよりも高いアナログ入力周波数でナイキスト帯域幅とRFサンプリング機能が拡張されているため、最大7GHzのRF信号のデジタル処理が可能になっています。

航空電子工学、計装、通信分野で次世代のソフトウェア定義型システムを実現できるように設計されているため、より高度なシステム統合と消費電力削減が促進されます。航空宇宙や防衛分野のエンジニアはAD9213によって、より広範な電子監視アプリケーションと、解像度の向上、レーダーシステムの長距離化が可能になります。

高密度のフェーズドアレイレーダーシステム、5G試験システム、衛生通信の分野では、いずれもデータスループットと帯域幅の向上、低電力が要求され、さらにPCBフットプリントの制約もあります。テキサス・インスツルメンツ(Texas Instruments)製のADC「ADC12DJ3200」は、12ビットの解像度で6.4GSPSが得られる、超高速のサンプリングレートを特徴としています。

アナログ入力周波数範囲に優れ、最大10GHzのダイレクトRFサンプリング(L、S、C帯域全体とX帯域の一部をカバー)により、システムアーキテクチャが簡素化され、周波数アジリティが強化されています。またフィルタの複雑性も軽減されたことで、基板面積が縮小し、コンポーネント数を減らすことが可能になっています。

  • 図1:ADC12DJ3200

    図1:Texas Instruments製ADC12DJ3200 ADC

マキシム・インテグレーテッド(Maxim Integrated)は、健康管理/フィットネス用ウェアラブルアプリケーション向けの連続監視ソリューションを設計するエンジニアのために、完全な心電図(ECG)および生体インピーダンス(BioZ)アナログフロントエンド(AFE)を提供しています。

心拍数、呼吸、不整脈を測定するためのMAX30001は、小型で電力効率に優れているため、バイオセンシング衣料に組み込むことができます。それにより、健康上の数値を24時間監視し、追跡できます。この臨床グレードの装置には高解像度のデータコンバータが搭載されており、有効数15.9ビットでECG測定のノイズが3.1μVPP(標準値)、有効数17ビットでBioZ測定のノイズが1.1μVPP(標準値)になります。

  • MaximのMAX30001 AFE

    図2:Maxim製MAX30001 AFE

シリコン・ラボ(Silicon Labs)は、メインラインモニタリング用に設計された、絶縁型10ビットADCを業界に先駆けて発表しました。Si890xファミリの製品では、CMOSをベースにした同社の特許取得済みデジタル絶縁技術が採用されています。またADCと絶縁機能の統合により、従来のトランスに比べて小型かつ薄型化を実現しています。各ADCの入力には3チャネルのアナログマルチプレクサが使用され、単一のSi890xで最大3つの異なる信号(一般にAC電源電圧、電流、予備チャネル)を監視できます。

  • Silicon LabsのSi890x ADC

    図3:Silicon Labs製Si890x ADC

著者プロフィール

マーク・パトリック(Mark Patrick)
マウザー・エレクトロニクス
EMEA担当テクニカル・マーケティング・マネージャ

2014年にマウザーに入社。同社入社以前は、RSコンポーネンツでマーケティング・マネージャを務め、それ以前はテキサス・インスツルメンツで8年間、技術営業としてアプリケーション・サポートを行なってきた。
英コヴェントリー大学から電子工学に関するファーストクラス優等学位を授与