今年のiPhoneのラインナップでどの機種がもっとも売れるか、予想するのは難しい。iPhone XRは廉価向けであり、iPhone XS/ XS Maxはスマートフォンとしては高い。廉価向けで我慢するか、それとも大枚をはたくか、悩みどころだから……ではない。そんなネガティブな理由ではなく、廉価向けiPhone XRの完成度がとても高いからだ。

価値観の問い、最後は「廉価向けスマートフォンの価値」だ。

iPhone XRはオールスクリーンであるのはiPhone XS/ XS Maxと同じだが、ディスプレイパネルがLCD (Liquid Retina)で、筐体フレームにアルミニウムを採用し、カラーバリエーションが豊富だ。そして価格が749ドルからと求めやすい。高級感のあるiPhone XS / XS Maxに対して、廉価向けという表現は当てはまる。ただ、これまでのフラッグシップに対する廉価版は、得てしてプロセッサが世代遅れだったり、本体の素材が悪かったりといったユーザーに我慢を強いるものだった。実際、私はiPhone XRの噂報道を読んだ時に「iPhone 5c」を思い出した。iPhone 5cは、低価格スマートフォンが注目された時期に「iPhone 5s」と共に登場したカラフルな廉価モデルだったが、期待に反して販売台数が伸びなかった。iPhone 5sより一世代前のプロセッサを搭載し、Touch IDも利用できなかったからだ。

iPhone XRは、そんな我慢を強いる廉価向けではない。iPhone Xs/ Xs Maxと同じA12 Bionicを搭載し、iPhone X世代のパフォーマンスと利用体験が凝縮されている。カメラはシングルカメラだが、ISPとNeural Engineの力でボケ効果を含むポートレートモードの撮影を可能にしている。Phil Schiller氏はiPhone XR投入の理由を「iPhone Xの技術と体験をより多くの人にもたらすため」と述べていた。その言葉通り、iPhone XRは廉価優先ではなく、全てがiPhone Xである。それどころかXSとXS Maxの間となる6.1インチというサイズ感、(PRODUCT)REDを含むカラーバリエーション、よりポップな感じなど、Xs/ Xs Maxにはない訴求点を持つ。

  • 登場時から(PRODUCT)REDが用意されるiPhone XR

  • シングルカメラだが、iPhone XSシリーズの広角カメラと同じカメラを搭載

  • 最新のISP、Neural Engineによって、シングルカメラで美しい背景ボケのポートレート撮影を実現

イメージとしては、従来のスマートフォンのフラッグシップと廉価版の関係よりも、Apple Watchに近い。Apple Watchも初代モデルが登場した時は、ステンレススチールモデルが「Apple Watch」だった。アルミニウムモデルは「Apple Watch Sport」という名前で、当初は廉価向けと見なされたが、機能・性能は全てApple Watchであり、やがてそのフィットネスに適した軽さが認められて、アルミニウムモデルがApple Watchの主流になっていった。

廉価向けを候補に入れずに、iPhone Xは去年と同じ「999ドルから」と見なしている人が少なくないが、昨年のiPhone 8 Plusよりも安い749ドルにiPhone X世代は下がってきた。さらにAppleはiPhone 7シリーズ (449ドルから)とiPhone 8シリーズ (599ドルから)も販売する。

  • 今年のiPhoneは「449ドルから」から「1,099ドルから」まで幅広い価格帯を揃え、そして従来のiPhoneユーザーをiPhone X世代に誘うラインナップとなっている

最後に、発表「ほぼ確実」と予想されていたワイヤレス充電マット「AirPower」にも触れておこう。キーノートに登場しなかったどころか、終了後に公式サイトからAirPowerに関する情報の多くが消えてしまったことが話題になっている。残念ではある。だが、Appleが昨年のように将来の製品について発売予告やスニークピークを連発したのが異例だったのだ。準備が整うまで沈黙を通し、そして突然それまでのワイヤレス充電器を旧いものにしてしまうようなサプライズを提供するのが本来のAppleの発表である。AirPowerの前にも「AirPods」や「HomePod」で予告した発売時期がズレ込むなど、Appleらしからぬミスを続けていた。今年はこれまでで最も多い国・地域で9月中にiPhone XSシリーズを発売する。将来の製品について語らず、そして発表した製品はしっかりと届けるAppleが戻ってきた……と期待して、AirPowerの発売を待ちたい。

  • iPhoneやiPad AirPodsを置いて1カ所で充電できる「AirPower」、2017年の9月イベントで公表された