三菱重工業(MHI)は2018年7月23日、同社飛島工場(愛知県飛島村)において、製造中のH-IIBロケット7号機のコア機体を公開した。機体はこのあと種子島宇宙センターへ送られ、組み立てや試験を実施。宇宙ステーション補給機「こうのとり」7号機を載せ、9月11日に打ち上げられる予定となっている。

今号機では、大気圏再突入時にかかる空力加熱や圧力などのデータを取得するため、ロケットの第2段機体に「ロケット再突入データ取得システム」と呼ばれる、小さな再突入カプセルが搭載されている。

  • H-IIBロケットの第1段機体

    H-IIBロケットの第1段機体。2基のロケット・エンジンと、H-IIAよりも太くなっているのが特徴

H-IIBロケット

H-IIBロケットは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工が開発した大型ロケットで、宇宙ステーション補給機「こうのとり」など、重い衛星を打ち上げることを目的として造られた。

その最大の特徴は第1段機体で、日本の主力大型ロケットH-IIAの技術をベースに、H-IIAに1基装着されているLE-7Aエンジンを2基装着し、さらに推進剤の搭載量を増やすためタンク(機体)の大きくするなどし、大幅な性能向上を実現した。

全長は56.6m、打ち上げ時の質量は531トンで、「こうのとり」が打ち上げられる地球低軌道(高度約350~460km、軌道傾斜角51.6度)に、約16.5トンの打ち上げ能力をもつ。軌道などにもよるが、H-IIAと比べ、約1.3倍から2倍の性能向上を果たしている。

H-IIBは2009年に初めて打ち上げられ、現在までに6機すべてが打ち上げに成功。積み荷はすべて「こうのとり」で、国際宇宙ステーション(ISS)に補給物資を送り届けてきた。また4号機からは、打ち上げ業務が三菱重工に移管されており、同社の打ち上げ輸送サービスのラインナップのひとつ、すなわち商業ロケットとして運用されている。

今回の7号機のコア機体(第1段、第2段機体と段間部の総称)は、すでに飛島工場において機能試験を終了し、機体公開時点で出荷準備が進んでいる状態にあった。このあと、7月25日に同工場から出荷され、27日に種子島宇宙センターに搬入。打ち上げに向けた組み立て作業が始まることになっている。

なお、IHIエアロスペースが製造を手がけている固体ロケット・ブースター(SRB-A)はすでに宇宙センターに搬入済み、川崎重工が製造する衛星フェアリングも同じく宇宙センターに届いているという。

打ち上げは、2018年9月11日の7時32分ごろ(正確な時刻はISSの軌道によって決定)に予定されている。

  • 公開されたH-IIBロケット7号機のコア機体

    公開されたH-IIBロケット7号機のコア機体。中央にあるのが第1段機体で、その奥に見えるのが第2段機体と、両者ををつなぐ段間部

宇宙空間とロケットの未来に向けた「ロケット再突入データ取得システム」

今回のH-IIBロケット7号機で、最も目新しい点は、第2段機体に搭載された「ロケット再突入データ取得システム」である。

これはJAXAが開発した小さな再突入モジュール(カプセル)で、宇宙空間から大気圏に再突入したロケット機体が、どのような環境にさらされ、どのように溶けて壊れていくのかを調べる。得られたデータは将来的に、スペース・デブリ(宇宙ゴミ)を発生させないようなロケットの開発などに役立つという。

再突入モジュールは鈍頭形状をしており、温度センサ、歪みセンサなどを搭載し、機体表面にかかる圧力や、内部の圧力、温度などを測る。

この再突入モジュールは打ち上げ時、第2段の気蓄器の搭載箇所に装着されている。ちなみに第2段の気蓄器の搭載場所は4か所あり、今回のようなミッション時間の短い打ち上げでは2つの気蓄器、すなわち2か所しか使わないため、空きスペースができるのだという。

  • H-IIBロケットの第2段機体

    H-IIBロケットの第2段機体

また、第2段と再突入モジュールはただつながった状態で、ロケット側からは装置の起動信号を送るだけだという。分離装置もなく、第2段機体が再突入して熱や圧力で壊れていくのに伴い、自然に分離するようになっている。

H-IIBは「こうのとり」7号機を分離したのち、軌道を約1周し、そこで地上から機体の健全性を確認したのちコマンドを送信。それに受けて第2段はエンジンを再着火し、逆噴射して速度を落とし、大気圏に再突入し、処分される。これを「制御落下」と呼び、ISSに近い軌道にゴミである第2段機体を残さないための処置として、H-IIBでは2号機以降、毎回行われている。今回の再突入実験も、この制御落下の過程の中で行われる。

再突入モジュールはまず、第2段機体とつながった状態で大気圏に再突入し、ロケット機体の再突入時の溶融解析データを取得する。やがて第2段から分離した(外れた)のちは、単独で飛行(というより落下)を続け、再突入モジュールのデータも取得する。

その後、パラシュートを開いて降下し、海に着水。回収はせず、イリジウム衛星携帯電話を通じてデータを送信したのち、水没する。回収は行われない。

機体公開時には、すでに再突入モジュールはロケットに搭載されていたが、カバーに覆われていたため実物を見ることはできなかった。

  • 「ロケット再突入データ取得システム」の再突入モジュール

    中央に見える白い円筒形の部分が、「ロケット再突入データ取得システム」の再突入モジュール。白いのはカバーで、再突入モジュール本体は見えない

ちなみに、H-IIBロケット7号機が打ち上げる「こうのとり」7号機にも、これとは別に、ISSで生み出された成果物を持ち帰るための再突入カプセルが初めて搭載されている。つまり今回のミッションを通じて、異なる2つの再突入技術の実証が行われることになる。

とくに日本では、有人宇宙船を開発していないこと、再突入を必要とするミッションの衛星が少なかったことなどから、再突入に関する技術や実績がまだまだ少ない。

今回の貴重なデータや実績は、ゴミを宇宙に残さないロケットや衛星の実現や、それによる安全できれいな宇宙空間の実現はもちろん、さまざまな環境や条件さえ許せば、日本独自の有人宇宙船の実現へとつながる可能性ももっている。