さて今回、TOTOの小倉工場を訪れた最大の目的は、同地で開催されるある取り組みを取材するためだ。それは「衛陶技能選手権」というもの。これは、TOTOグループのものづくりのDNAを継承し、人材を育成していくというのが主なねらいだ。

中国、台湾、タイ、ベトナム、インド、アメリカ、メキシコ、インドネシア、日本にある計15拠点から、技能の優秀なスタッフを1~3名ずつ小倉に招聘。ここで、それぞれの技能を披露し、競い合うことになる。

まず、その国際色の豊かさに驚いた。TOTOは紛れもなく国内での優良企業だが、その知見と経験、そして技術を世界中に伝えようとしているのがわかる。海外の生産拠点からスタッフを集め、こうした選手権が行われるのは、今回で12回目だそうだ。ファクトリーオートメーションが当たり前となった産業とは異なり、いわゆる“職人”が世界中におり、そして技能を競い合うというのは大企業ではあまり聞いたことがない。

  • 左:選手権開会式の様子。福岡のRKBも取材に訪れていた。余談だが、この取材のあとに泊まったホテルで、夕方のニュースを観たところ、早速放映されていた。右:選手権参加者の国旗を集めたディスプレイ。中心にトロフィーがある

意外と難しい「施釉」作業

選手権の前に、施釉(せゆう)体験をする機会がメディアにもうけられた。施釉とは釉薬(ゆうやく)を便器や洗面台に塗布する作業。こうした衛生陶器は土から作られているが、多くの方がそうは感じないだろう。それは、施釉によって白くピカピカと輝き、ツルツルとした質感になるからだ。

この作業を体験させていただいたが、これがかなり難しい。タイル状の衛生陶器と同じ素材にスプレーガンで釉薬を塗布するのだが、噴射力がかなり高く、均一に塗布することができない。しかも、塗りの厚さは0.6mmとのことだ。筆者が塗布したタイルを割って、塗りの厚さを確認していただいたところ、0.3mmほどだった(苦笑)。

しかもスタッフは、釉薬の厚さを目視で確認できるようにならないといけない。選手権では、施釉されたタイル断面を見て、0.05mm単位で判定する競技も行われた。0.05mm単位を目視で判断するとはまさに職人技だ。

  • 左:施釉に使われるスプレーガン。右:施釉の練習に使われたタイル

メディアは塗布に失敗してもダメージのないタイルだったが、選手権参加者はタンクの塗りで競った。かなり重量があるはずなのに、女性でも自分で動かして塗布面をスプレーガンの方向に向けなくてはならない。しかも、前述したとおり高温・多湿だ。にも関わらず、選手の皆さんは涼しい顔で作業していたのが印象的だった。

  • 左:塗布量の異なる破片から0.6mm施釉されているサンプルを探す。すべて目視だ。右:面積の大きなタンクを施釉する競技参加者