オーディオプレーヤーにおいて、音色や再生可能なファイル形式の決め手になる核心的なパーツのひとつが、入力されたデジタルオーディオ信号をヘッドホンやイヤホンで聴くためのアナログ信号に変換する「DAC(D/A Converter)チップ」です。DACチップも最近では毎年、半導体メーカー各社がこぞって音のよい高性能な製品を発売しています。Astell&Kernの新製品もそれぞれに最新のDACチップを搭載しました。

A&futuraが採用したのは、ESSテクノロジー社のDACチップ「ES9038PRO」です。HiFiオーディオ機器やスタジオ向けのプロフェッショナルオーディオにも採用されるパワフルなチップが、ポータブルオーディオに初めて搭載されました。8チャンネル分の出力を持つチップを左右に4チャンネルずつ使いながら、アナログアンプ回路に信号を送り込む設計として、明瞭なステレオ感を再現。音のきめ細かさと強弱の再現力に富むプレーヤーに仕上げています。

  • Astell&Kern、ハイレゾ音楽プレーヤー「A&futura / SE100」「A&norma / SR15」

    A&シリーズは最新のDACチップを搭載しながらそれぞれの“音の違い”も明瞭に描き分けるコンセプトとしています

筆者も今回の発表に合わせてA&futuraのサウンドを試聴してみました。ボーカルや楽器の音が実に濃厚で伸びやかです。音楽の凹凸感がとても立体的で、活き活きと弾むような音が特長。筆者の好きなロックやポップス系、ダンスミュージックと相性がとてもよくマッチしました。クラシックピアノを聴いてみても音の輪郭がシャープでディティールの描き込みもクッキリと浮かび上がってきます。力強さと繊細さを兼ね備えたさすがのハイエンドプレーヤーです。

最新鋭のDACチップは多彩な形式の音楽ファイル再生にも対応しています。リニアPCM系(WAV・FLAC・AIFF・ALACなど)は最大384kHz/32bitまで、DSD系は11.2MHzまでの音源を、変換なしのネイティブ再生が可能です。世の中にあるハイレゾと呼ばれる音楽ファイルを含む、様々なファイル形式の音楽ソースをこの1台で、長く愛用しながら聴けます。

  • Astell&Kern、ハイレゾ音楽プレーヤー「A&futura / SE100」「A&norma / SR15」

    A&シリーズの3機種に、AK70 MkIIとKANNを加えた5機種の個性派がAstell&Kernの2018年のラインナップになります

バランス接続による立体的でノイズの少ない音を楽しもう

今回発表されたAstell&Kernの新しいプレーヤーは、よく見ると本体の上側にサイズが異なるイヤホン端子を2つ搭載しています。口径が大きいほうは、一般のオーディオプレーヤーやスマホに搭載されている3.5mm口径のステレオミニ端子。オーディオ的にいうと「アンバランス出力用」の端子です。

これに対して、内側にあるやや細めな2.5mm口径の端子が「バランス出力用」として設けられているものです。ヘッドホンの左右ドライバーユニットを合計4台のアンプ回路を使って動かすバランス駆動は、一般的なアンバランス接続に比べて一段と高い音質を楽しめるのが特徴です。

バランス接続時は、左右チャンネルの信号間で干渉ノイズが発生しにくいため、ステレオイメージの分離感も鮮明になります。この端子に、バランス接続に対応するAstell&Kernの「Michelle Limited」などのイヤホン・ヘッドホンをつなぐことで、音質に及ぼすプラスの効果を実感できると思います。

  • Astell&Kern、ハイレゾ音楽プレーヤー「A&futura / SE100」「A&norma / SR15」
  • Astell&Kern、ハイレゾ音楽プレーヤー「A&futura / SE100」「A&norma / SR15」

    SE100とSR15をAstell&Kernのイヤホン「Michelle」と組み合わせて聴いてみました

上述したA&futuraのリスニングは、Astell&Kernのイヤホン「Michelle」をバランス接続して確かめたものですが、同じイヤホンをA&normaのバランス接続用端子につないで聴いてみました。

こちらのプレーヤーはひとことで言えばとてもバランスがよく、どんなジャンルの音楽からもベストパフォーマンスを引き出せるオールラウンダーです。A&futuraの豊かなパワーに比べると、A&normaはボーカルや弦楽器の繊細なニュアンスをていねいに引き出すのが上手な技巧派。シンバルの余韻の滑らかな階調性、鋭くタイトな低音など音楽のリアリティを高める再現力が光ります。

A&normaは、シーラス・ロジック社の最上位シリーズのDACチップ「CS43198」を左右チャンネル用に1基ずつ採用。リニアPCM系は最大192kHz/24bitまで、DSD系は2.8MHzまでネイティブ再生に対応します。リニアPCM384kHz/32bitは192kHz/24bitへダウンコンバートで再生、DSD5.6MHzの音源もリニアPCM変換で再生ができるので、A&futuraと同じく、長く使い込みたいプレーヤーです。

  • Astell&Kern、ハイレゾ音楽プレーヤー「A&futura / SE100」「A&norma / SR15」

    本日アユートが開催した発表会ではSE100/SR15によるスピーカー試聴も披露

さらにワイヤレスもいい音、デザインも個性派

A&futuraは8基、A&normaは4基の高性能マルチコアCPUを搭載しているので、タッチパネル液晶によるメニュー操作が快適。画面の左右スワイプを交えながら、直感的に各メニューにアクセスできるユーザーインタフェースも、上位機であるA&ultima譲りの特徴です。

Bluetoothオーディオ再生は、ふたつのモデルともにaptX HDのコーデックに対応しています。同じくaptX HDに対応するヘッドホンやイヤホンをペアリングすれば、ハイレゾ品質に迫るワイヤレスリスニングが楽しめます。

デザインもそれぞれ個性的。A&futuraはフロントとリアパネルの間に傾斜を設けた“ひし形”のデザインとして、右サイドパネルのボリュームで細かく音量を調整できます。リアパネルのダイヤモンドパターンが、光を取り込む角度によって立体的な模様を浮かび上がらせます。アルミニウムの本体色はチタンシルバー。

A&futuraは、タッチ液晶を斜めにずらして配置したフロントパネルのルックスがインパクト大。ただ、実際に触ってみると、通常のプレーヤーとまったく変わらないほど快適な操作感でした。本体色はダークグレイ。

昨年(2017年)発売されたフラグシップの「A&ultima / SP1000」と、エントリークラスの「AK70 MkII」、パフォーマンスシリーズのアンプ一体型モデル「KANN」と合わせて、Astell&Kernの現行ハイレゾ対応ポータブルオーディオプレーヤーは全5モデル。それぞれの音の違いを聴き比べながら楽しむのもよさそうですね。