国立天文台は、国立天文台天文シミュレーションプロジェクト(Center for Computational Astrophysics:CfCA)において、天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイ」にかわる新たな大規模数値計算専用計算機として「Cray XC50 システム」(通称「アテルイII」)を導入し、6月1日より国立天文台水沢キャンパス(岩手県奥州市水沢)にて運用を開始すると発表。同日、記者会見を実施した。
アテルイIIは、2018年3月まで運用されてきた「アテルイ」と同様のスカラ型並列計算機と呼ばれるスーパーコンピュータだ。約4万のコア(Intel Skylake 20コア 2.4GHz)を搭載しており、理論演算性能は3.087PFlopsとなる。国立天文台 天文シミュレーションプロジェクト長の小久保英一郎氏は、「アテルイIIは、天文学専用のスパコンとしては世界最速のもの」と説明する。
理論演算性能が3.087PFlopsということはつまり、1秒間に3000兆回の浮動小数点計算を行うことを表す。これは2013年のアテルイ導入時の約6倍、2014年のアップグレード以降の3倍の性能を実現することを意味しており、小久保氏は「アテルイIIによって従来機(アテルイ)ではできなかったシミュレーションを行えるようになることで、理論天文学の望遠鏡として新しい宇宙の姿を描き出すことが期待される」と、アテルイIIによって研究の幅が広がることへの期待を語った。
「シミュレーション天文学」で新たな宇宙の姿を描く
アテルイIIは、シミュレーション天文学という研究領域で活用されることとなる。「私たちが取り組んでいるシミュレーション天文学とは、望遠鏡では見えない宇宙を計算によって描き出すことを目的とする学問」と小久保氏は説明する。
シミュレーション天文学で主に取り扱うのは、重力で引き合う多数の粒子のふるまいを調べる「多体計算」、ガスのふるまいを調べる「流体計算」、光(エネルギー)の伝わりかたを調べる「輻射輸送計算」などといったもの。惑星から宇宙全体に至るまでの計算を行うことで、望遠鏡では観測が出来ない、過去や未来の宇宙の状況を観測できることが特徴であるという。
さらに小久保氏は「すでにアテルイIIを用いたシミュレーションによって、これまでできなかった計算ができるようになってきている」と続ける。今回のプレス向け公開以前に行われた千葉大学の実験では、ダークマター粒子の重力を計算し、宇宙の大規模構造ができる様子を計算することに成功したという。
加えて、法政大学・プリンストン大学の研究グループでは、同機を用いて連星系の形成シミュレーションを作製。連星系が形成される過程で、ガスが星に落下する様子をシミュレーションすることに成功したとのこと。
実機公開の様子
会見ののちには、実際にスパコン室を見学しながらのアテルイIIの紹介がなされた。
スパコン室の温度は20℃程度。スパコンシステムを冷却するための送風音が室内に響き渡っていた。筐体デザインは、前システム・アテルイの筐体デザインも手掛けた、美術家の小阪淳氏が制作。「阿弖流為 弐」という文字がデザインされている。
なお、アテルイIIの運用期間は、2018年6月~2024年5月31日までの6年間を予定しているという。審査を経た全国の研究者が利用可能で、すでに2018年度は約150名の研究者の利用が予定されているとのことだ。