企業からこの講座に参加した社員は、誰もが「即座に仕事に繋がるわけではない」と口を揃える。レーザーカッターメーカーの担当者が「学校さんに納入していますが、一般的な高校に広く、というわけではない」と話せば、オリンパスの担当者も「私は技術開発部門で、特にこれをセールスするわけではない」と話す。一方で、「重要なのは、新しい価値に触れてもらって、自分たちで気づかなかった使い方とか、可能性を見出したい」(オリンパス担当者)という想いもあるようだ。

アドビシステムズ デジタルメディア ビジネス本部 教育市場営業部 担当部長の楠藤 倫太郎氏は、奈良県との包括契約を結んだ理由に立ち返って「ファブリケーションのような新しい時代の価値観を広げるのは、1校ずつ全国でこうした未来講座をやって回るのは難しい。教育委員会とお話して、この仕組みの話になったとき、機会が増えると感じた」と振り返る。

  • 生徒同士が語り合ってアイデアを出したものがレシピになるだけでなく、傍らで観察する先生たちもまた、意見を出し合うことで「よりよい授業」を導き出し、それを共有していく

アドビシステムズは外資だが、日本法人として出来ることをやってきた。「日本の子供は創造性が足りないと言われるが、それは(創造性に繋がるような)体験が足りないだけ。私たちが子供の教育のためにやってきたことは半分CSRでもあるが、何より体験できる機会を増やせば、自発的に考える生徒が出てくると信じている」(楠藤氏)。

中澤氏も、企業が教育に直接携わるメリットについて「生徒と社会の距離を縮める」「企業ネットワーク」の2点を上げる。社会は人と人、そして会社と会社の関係性で成り立っている。会社が商取引を通じて経済が回り、人々が生きているという実感を生徒がどこまで意識できるのか。

「高校生からすれば、『デジタルのモノづくり』と言われても遠く感じてしまう。でも、実際に目にしたことがある企業が自分たちに直接説明してくれたら、実感として一番残る。それは、高校生のみならず、先生でも同じことだ。大学としても、企業が入ってくれれば、企業が繋がっている教育の現場で新しい学びの在り方を模索できる」(中澤氏)