トロント大学、カナダの大型加速器実験施設カナディアンライトソース(CLS)、カリフォルニア大学バークレー校の研究チームは、二酸化炭素(CO2)を効率よくエチレンに変換する新触媒を開発したと発表した。
エチレンはポリエチレンの原料として利用できるため、今回の触媒を用いることで大気中のCO2を回収してプラスチック製品にリサイクルできると同時に、プラスチック製品の製造時に使用される化石燃料を減らすことにもつながると期待されている。研究論文は、Nature系列の触媒化学専門誌「Nature Catalysis」に掲載された。
CO2の変換にはさまざま金属触媒が用いられる。たとえば、金、銀、亜鉛はCO2を一酸化炭素(CO)に変換するために使われる。また、スズやパラジウムはCO2をギ酸塩に変換する。
このようなCO2変換触媒のなかで、ポリエチレンの主要構成要素であるエチレンへの変換ができる触媒としては、銅だけが知られている。銅にはエチレン以外にも、CO2変換によってメタンやエタノールなどさまざまな材料を生成する能力があるが、どの材料を選択的に生成させるかを制御するのは難しいと研究チームは指摘する。
今回の研究では、銅触媒のCO2変換作用を制御して、欲しい材料を選択的に生成させることを目指した。その結果、新触媒の設計に成功し、エチレンの生成を最大化し、同時にメタンの生成をほぼゼロまで最小化する理想的な条件を突き止めることができたとしている。
CO2還元反応中での銅触媒の形態および化学的環境をリアルタイムに観察するために、CLSの実験設備が利用された。軟X線吸収分光法と呼ばれる手法を用いて、CO2還元反応条件下での銅の酸化状態を時間分解能で追跡した。
論文によると、ゾルゲル材料によって銅の電気化学的反応がゆっくりになるため、ナノスケールでの形態制御とCu+イオンの負ポテンシャルでの安定化が可能になるとしている。この知見をもとに設計された銅触媒では、エチレンの部分電流密度が160mA/cm2を示し、エチレンとメタンの生成比が200:1になったと報告されている。