TrueDepthセンサのBOMコストは16.70ドル
iPhone Xで際立っている機能は「Face ID」という顔認識システム。これを利用してスマートフォンのロック解除や支払いの認証ができるようになっている。また、ポートレート・モードでのスタジオ品質レベルの照明や、ゲームやアプリでの拡張現実体験といった新機能も搭載されている。
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図8 IHSでMEMS/センサー担当シニアディレクターを務めるJeremie Bouchaud氏 (提供:IHS Markit) |
Face IDはTrueDepthセンシングシステムが実現するもので、スマートフォン本体上部の黒いノッチに内蔵されている。赤外線カメラが3万以上の目に見えないドットを投影・解析、人間の顔の正確な深さのマップを描き出すほか、外見の物理的変化に対応できるよう、マシンラーニングも採用している。
IHS MarkitでMEMS/センサー担当シニアディレクターを務めるJeremie Bouchaud(ジェレミー・ブショー)氏は「AppleのFace IDシステムは、投光イルミネータやドットプロジェクタ、赤外線カメラを使用していたMicrosoft Kinectのセンシングシステムと基本機能がよく似た多くのサプライヤが提供する部品を活用した複雑なアセンブリである」と説明している。
IHS Markitの分析によると、赤外線カメラはソニー/Foxconn、投光イルミネータはTexas Instruments(TI)の赤外線エミッタを採用し、それらをST Microelectronics製のASICとSPAD(シングルフォトン・アバランシェダイオード)検知器の上に組み込み、FinisarとPhilipsが製造しているという。IHS MarkitではTrueDepthセンサ・クラスタの部材コストは16.70ドルと推定している。
また、同氏は「TrueDepthシステムの組み立てやテスト、個々のコンポーネントはいずれも難しい課題をかかえており、生産が遅れる要因となりうる。例えば、TIやSTの投光イルミネータ用サブシステムの組み立てや検査は決して簡単ではなく、非常に多数のテスト装置を必要とする」とも述べている。
ついにiPhoneもエッジ・トゥ・エッジの有機ELディスプレイを採用
iPhone Xには5.85インチ、アスペクト比19.5:9の有機ELディスプレイが採用されており、偏光フィルムの下には感圧タッチセンサ「Force Touchセンサ」が組み込まれている。このアスペクト比はこれまで市場に出てきたどのスマートフォンよりも長いものとなっている。Appleはノッチを収容すると同時にアスペクト比18.5:9のスマートフォンに近い可視領域を提供できるよう、このデザインに決めたものと考えられるとIHSは推測している。
また解像度2436×1125ピクセルのSuper Retinaディスプレイは1インチあたり458ピクセルとコントラスト比(100万対1)を実現。このパネルのサプライヤはSamsung Displayで、IHS Markitの「AMOLED and Flexible Display Intelligence Service」という調査レポートでは、Samsung Displayは、2017年中にAppleに対し、この独自スペックのフレキシブル型有機ELを約6700万ユニット供給する見通しであるとしている。
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図9 IHSにてディスプレイ担当シニアディレクターを務める謝勤益(David Hsieh)氏 (提供:IHS Markit) |
IHS Markitでディスプレイ担当シニアディレクターを務める謝勤益(デヴィッド・シェ)氏は「iPhone Xは、流行のベゼルレス、フルスクリーンといった薄型軽量デザインを採用し、ボディ対画面の比率が高い。Galaxy S8/S8+もiPhone Xも、ほぼベゼルレスでボディ対画面の比率は80%以上であり、フルスクリーンのスマートフォンディスプレイは急速にスマートフォンの主流になってきている」と、今後、こうしたフルスクリーンディスプレイがスマートフォンにさらに普及していく可能性を言及している。
さらに同氏は、「Appleは今後、すべての旗艦モデルに対し、有機ELの採用を拡張していくと見られる。まずはディスプレイからノッチを排除、そしてスマートフォンとタブレットを組み合わせたような形状へと進んでいくだろう」と解説している。
IHS Markitでは、カバーガラス、有機ELパネル、Force Touchセンサを含むディスプレイモジュールのコストを110ドルと推定している。
Appleは2017年11月2日に行った第4四半期の収益見通し報告会で、同社が過去最高益を達成する見通しであると発表している。iPhone Xは革新的な新技術で未来のAppleのビジョンを体現しているといえよう。この発表を受けてIHSのモバイルデバイス/ネットワーク担当の主席アナリストであるLam氏は、「iPhone Xには多くのコンテンツと先進技術がまとめあげられており、Appleはそれによってもたらされる価値に併せた価格を決定している。これは、Appleが真にユニークなiPhoneで同社の戦略を実に素晴らしく実践していることを示すものとなる」とコメントしている。