米国航空宇宙局(NASA)は2017年8月1日、太陽系に最も近い恒星であるケンタウリ・プロキシマを回る系外惑星「プロキシマb」について、恒星からの強力な放射線により大気が剥ぎ取られてしまい、地球のような大気が維持できず、結果として水や生命も存在できない環境である可能性が高いという研究結果を発表した。論文は7月24日発行の「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された。

ケンタウリ・プロキシマは赤色矮星とよばれる種類の恒星で、私たちの住む天の川銀河(銀河系)に最も多く存在し、系外惑星の探査において一番のターゲットにもなっているが、他の赤色矮星でも同様のことが起こっているとすれば、プロキシマbだけでなく、赤色矮星にあるすべての系外惑星が、生命が存在できない環境である可能性もあるという。

プロキシマbの地表の想像図 (C) ESO/M. Kornmesser

プロキシマbの全体の想像図。右に小さく見えるのがケンタウリ・プロキシマ (C) ESO/M. Kornmesser

プロキシマbの大気はどうなっている?

「プロキシマb」(Proxima b)は2016年8月、ヨーロッパ南天天文台(ESO)などによって発見された太陽系外惑星(系外惑星)で、太陽系からわずか4.2光年しか離れていない、太陽系に最も近い系外惑星でもある。

さらに、恒星の「プロキシマ・ケンタウリ」(Proxima Centauri)から程よく離れた、生命が誕生するのに適した環境が整っている可能性のある「ハビタブル・ゾーン」(Habitable Zone)の中にあると考えられており、そのため一部メディアが「太陽系に最も近い恒星に地球に似た惑星が見つかった」などと報じるなど、大きな話題にもなった。

ケンタウリ・プロキシマとプロキシマbとの距離は約750万kmで、これは太陽と地球との距離に比べ12分の1しかなく、太陽系に置き換えると水星よりも恒星に近い。しかし、ケンタウリ・プロキシマは「赤色矮星」という小さな種類の恒星のひとつで、その質量は太陽のわずか8分の1ほどしかなく、放出しているエネルギーも少ない。そのため距離は近くとも、恒星から受ける熱の量はちょうど地球に近くなることから、プロキシマbのある場所がハビタブル・ゾーンになっている。

しかし、プロキシマbがハビタブル・ゾーンの中にあるからといって、それはすぐに、生命がいることを保証しているわけではなく、ましてや「地球に似た惑星」と言うこともできない。ハビタブル・ゾーンというのは、厳密には生命の誕生に必要不可欠と考えられている要素のひとつである「水」が、液体で存在する温度になっていると考えられる領域のことではあるものの、その中に惑星があるからといって、実際に水が液体で存在するかどうかはわからない。

また、水が液体で存在するために必要な、そして生命が誕生するための必要な要素のひとつでもある「大気」が存在するかどうかの保証もない。

プロキシマbのように恒星にきわめて近いところを回る惑星の場合、恒星から受ける熱はともかく、飛んでくる放射線の量は膨大なものとなり、地球が太陽から受ける量の、実に数百倍にもなると考えられている。そして、その強力な放射線が惑星にぶつかると、さまざまな作用によって大気が引き剥がされてしまうかもしれない。

もし地球がプロキシマbの場所にあったらどうなる?

はたして、プロキシマbの大気や地表はどのような環境になっているのだろうか。

それを知る最も手っ取り早い方法は、地球から見て、その惑星が恒星の前を横切るときを利用し、大気の状態や成分を分析するというものだが、プロキシマbは軌道の関係上、地球からケンタウリ・プロキシマの前を横切って見えることはない。

そこで、NASAのゴダード宇宙飛行センターの宇宙科学者キャサリン・ガルシア・セージ(Katherine Garcia-Sage)氏らの研究グループは、コンピュータを使ったシミュレーションを実施した。

このシミュレーションは、まずNASAのX線天文衛星「チャンドラ」(Chandra)の観測データをもとに、プロキシマ・ケンタウリから平均的にどれくらいの放射線が放出されているかを計算し、そしてもし私たちの住む地球がプロキシマbの位置にあったとしたら、その大気にどのようなことが起こりうるのか、という仮定で行われた。

その結果、プロキシマbの軌道に置かれた地球は、もともとの太陽系に置かれた場合よりも1万倍も速く大気が引き剥がされることが判明。そこから、実際のプロキシマbも、大気を維持することができない可能性があると結論づけられた。

その原因は、まさにプロキシマ・ケンタウリから飛んでくる高エネルギーの極端紫外線の放射線にある。高エネルギー極端紫外線は大気をイオン化し、その際に生じる高エネルギーの電子によって、大気を宇宙空間に放出させようとする力が働くのだという。そのエネルギーは、最も軽い分子である水素だけでなく、より重い酸素や窒素などの元素をも放出させるのに十分なほどだとされる。

生命が誕生するためには、恒星からの適度なエネルギーと、生命の源になる有機物、そして液体の水が必要不可欠と考えられている。そして液体の水が存在するためには、何らかの形(氷や含水鉱物など)で水(H2O)と、適度な温度、そして大気が必要になる。その大気がないということは、液体の水も存在しない可能性があるということになる。

また、大気は恒星からの放射線を防ぐバリヤーにもなるが、それがないということは放射線が惑星の地表に直接降り注ぎ、生命が生きられない過酷な環境になっているとも考えられるという。

プロキシマ・ケンタウリのような赤色矮星からやってくるX線や極端紫外線により大気がイオン化し、宇宙空間に放出される様子の想像図 (C) NASA Goddard/Conceptual Image Lab/Michael Lentz

他の赤色矮星と、その系外惑星でも同じことが起こっている?

さらに研究の結果、条件によって最短で1億年、最長でも20億年で、地球全体の大気と同じだけの量の大気が、宇宙空間に逃げてしまうという結果が得られたという。プロキシマ・ケンタウリ系は今から40億年前にできたと考えられているため、最長の場合の条件にあてはまっていたとしても、すでにプロキシマbには大気がない可能性が高い。

今回の研究の共同研究者のひとりである、ハーバード・スミソニアン天体物理学センターの天体物理学者ジェレミー・ドレイク(Jeremy Drake)氏は、「系外惑星に大気圏があれば、とても興味深い、さまざまなことが起こりえますが、この研究が示すようにプロキシマbの大気損失率はとても高く、とても生命が生きられる環境ではないようです。これはプロキシマ・ケンタウリとプロキシマbにかぎらず、他の赤色矮星を回る他の系外惑星においても、同じことが起こっていると言えるかもしれません」と語る。

赤色矮星は、私たちの住む天の川銀河(銀河系)にある恒星の大部分を占めており、観測もしやすいことから、系外惑星の探査において格好の標的でもある。しかし赤色矮星のハビタブル・ゾーンにある系外惑星のすべてが、プロキシマbのように生命が存在するのに厳しい環境にあると考えられるということは、赤色矮星を回る系外惑星の中に、第二の地球のような惑星はないのかもしれない。

もちろん、逃げていく大気を補うように、大量の大気が生成されている可能性がないわけではない。たとえば大量の活発な火山活動があったり、頻繁に彗星が落下するような環境であれば、次々に大気が継ぎ足され、損失する分が相殺されている可能性はある。実際に、火山活動が起こっているかもしれないと考えられている系外惑星も見つかっている。

しかし、プロキシマbでそのような現象が起きているかどうかはわかっておらず、また活発な火山活動や頻繁な彗星の落下といった現象もまた、生命を存在しづらくするかもしれない。いずれにしても、赤色矮星のハビタブル・ゾーンにある系外惑星に生命がいる可能性は、これまで考えられていたよりも低いのかもしれない。

さらなる系外惑星と、もうひとつの地球を探す挑戦は続く

それでも、系外惑星と、もうひとつの地球を探す挑戦が終わるわけではない。

たとえばNASAは、2018年に系外惑星探索衛星「TESS」(Transiting Exoplanet Survey Satellite)の打ち上げを予定している。TESSはこれまで以上の精度で宇宙を広く観測し、数多くの系外惑星を発見することを目指している。

また、同じ2018年に打ち上げが予定されている「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」(James Webb Space Telescope)を使えば、プロキシマbを含む系外惑星の、とくに大気の詳細な観測ができると期待されている。

さらに、プロキシマbを発見したヨーロッパ南天天文台でも、南米チリに次世代の超大型望遠鏡「E-ETL」の建設を予定している。

1995年に初めて系外惑星が発見されて以来、これまでに4000個近い系外惑星が発見された。そしてこれから、さらに多くの系外惑星を発見でき、そしてただ見つけるだけでなく、それがどんな惑星なのかを詳しく調べることもできる時代が訪れようとしている。

NASAが2018年に打ち上げを予定している系外惑星探索衛星「TESS」 (C) NASA

TESSと同じ2018年に打ち上げが予定されている「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」 (C) NASA

参考

Exoplanet Exploration: Planets Beyond our Solar System: An Earth-like atmosphere may not survive Proxima b’s orbit
Exoplanet Atmos Proxima B_v8 - exoplanet_atmos_proxima_b_v8.pdf
In the Zone: How Scientists Search for Habitable Planets | NASA
Planet Found in Habitable Zone Around Nearest Star | ESO
ESO Discovers Earth-Size Planet in Habitable Zone of Nearest Star | NASA

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。

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