フィフティ ファゾムス オートマティック(Ref. 5008-1130-B52A)

フィフティ ファゾムスもまた、ブランパンの歴史を語る上で欠かせないコレクションだ。1950年から1980年まで、30年にわたりブランパンのCEOを務め、スポーツダイビングのパイオニアでもあったジャン・ジャック・フィスターが陣頭指揮を執って開発。二重密閉構造のりゅうずシステムやケースバックの密閉システム、ベゼルが誤って回転してしまうのを防ぐロック機構といった、数々の特許を取得したヒストリーメーカーである。

ちなみに「ファゾム」は水深計測で使用される単位で、イギリスでは1.8288mを指す(国によって多少異なる)。つまり、フィフティ ファゾムスは、水深91.44mの防水性能を持つという意味になる。

フィフティ ファゾムスは、1953年のフランス海軍を皮切りに、世界各国の海軍で採用。1958年、米海軍でテストされたモデルは、6時位置に新機能である水密性確認ディスクを備えていた。これは、万が一時計の中に水が入り込むとディスク部分の白色が赤に変わって、異常を知らせる機能だ。MIL-SPEC1は、やがて「MIL-SPEC2」に進化。ブランパンは、これを水中爆破部隊や特殊部隊のエリート隊員向け供給する契約を米海軍と締結するに至る。ジャン・ジャック・フィスターが安全性を徹底的に重視して開発したダイバーズウオッチは、こうして米海軍の製造基準にまでなったのである。

2017年版のフィフティ ファゾムス オートマティック(Ref. 5008-1130-B52A)は、このMIL-SPECモデルへのオマージュであり、もちろん水密性確認ディスクも搭載している。自動巻ムーブメントにはシリコン製ひげゼンマイを採用。96時間(4日間)ものパワーリザーブを持つ。ケース素材はSSで、サイズは40.3mm。シースルーバック仕様で、風防はフロント、バックともサファイアクリスタル。30気圧防水。ストラップは、セイルキャンバス、NATOベルト、SS製ブレスレットの3種類をラインナップする。

フィフティ ファゾムス オートマティック

サファイアガラス風防のドーム型形状がよくわかる

グロッシーで美しいサファイアガラスベゼルは、逆回転防止機構付き

ジャン・ジャック・フィスターが初代フィフティ ファゾムスに自動巻ムーブメントを選んだ理由は、「手巻に比べ、りゅうずの摩耗を減らすことができるから」だった

価格はセイルキャンバスストラップモデルとNATOベルトモデルが139万円、SSブレスレットモデルが160万円。この3タイプ合計で500本の世界限定となる。今夏以降の発売を予定。

さて、便宜上「ブランパンは」と書いたが、実は1932年から1960年までの期間、同社は後継者不在によりマニュファクチュールを譲渡、社名も変更していた。当時の社名は「レイヴィル株式会社、ブランパン後継会社」。米軍に納品されたフィフティ ファゾムスも、ダイヤルには「Tornek-Rayville」(トルネク・レイヴィル)と刻まれていた。レイヴィル(Rayville)はヴィルレ(Villeret)のアナグラムである。そう、フィフティ ファゾムスもまた、ブランパンの源流である地名と精神に縁の深いモデルなのだ。

日本の時計ブランドが電波時計やGPSウオッチで究極の精度を実現し、スイスブランドにもスマートウオッチやコネクテッドウオッチをリリースするメーカーが現れている。そんな時代だからこそ、ブランパンは有名なスローガン「1735年(の創設)以来、ブランパンにはクォーツ時計はありません。これから先もクォーツとは無縁です」を今、あらためていわんとしているのではないか。かつて同社がクォーツショックから機械式時計の文化とスイス時計産業を立て直すリーダー役を担ったように、今再び機械式時計ならではの魅力を声高に発信していく、一見、定番で手堅い選択にも見える今年の新作の背景には、そんな決意が読み取れた。

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