モバイルネットワークの活用の広げる上で、ある意味高速・大容量通信よりも注目されているのが、ネットワークの遅延が少ないこと、つまり「低遅延」だ。遠隔医療や自動運転など、新たな産業創出に有効とされるネットワークの低遅延だが、次世代のモバイル通信方式である「5G」では、どのようにしてそれを実現しようとしているのだろうか。
モバイルに低遅延が求められたのはLTEから
クラウドの利用が一般化し、インターネットの利活用が広まるに従って、注目されるようになった問題の1つに「遅延」がある。ネットワークの遅延とは、要するに送ったデータを受信するまでにかかる時間の遅さのこと。例えば無料通話アプリなどのIP電話サービスを用いて電話をかけた際、自分の声が相手にすぐ届かないという経験をしたことがある人もいるかと思うが、それはデータ通信速度の問題だけでなく、ネットワークの遅延による問題も大きく影響しているのだ。
ネットワークに遅延があると、先のIP電話のようにインターネットを経由したサービスを利用する際に反応が悪くなり、快適にサービスを利用できなくなるという問題を抱えてしまう。しかもネットワークの遅延は、サーバー間の距離やネットワーク機器の処理などによる部分もあるため、単にネットワークが高速・大容量になれば解決するという問題でもないのだ。
そうしたことから、現在ではネットワークの遅延を減らすための技術開発なども積極的になされているようだが、それは固定回線に限った話ではない。モバイル通信においても低遅延は非常に大きなテーマの1つとなっており、現在主流のLTEの仕様を決める時から、低遅延に向けた取り組みは進められているのだ。
LTE以前、つまり3Gまでのモバイル通信は、あくまで音声通話が主、データ通信が従という位置付けであったことから、ネットワーク遅延はあまり考慮されてこなかった。だがLTEではデータ通信を主体にするなどネットワーク設計の大幅なシフトを図ったのに加え、LTEネットワーク上で音声通話を実現する「VoLTE」を実現するには、遅延が少ないことが求められていた。それゆえ、LTEで初めて低遅延が求められるようになったのである。
現行のLTEでは、片道で5ms、往復で10ms以下の遅延を実現することが定められている。だが現在標準化に向けた作業が進められている次世代のモバイル通信方式「5G」では、LTEの10分の1以下となる、1ミリ秒以下の遅延を目指すとされているなど、一層の低遅延が要求されているようだ。