BASELWORLD 2017会場でカシオブースを取材中の我々の前に現れたのは、なんとG-SHOCKの生みの親である伊部菊雄氏! 何かネタがあるに違いないと伊部氏をつかまえ、ぐいぐいっと食い下がる。すると案内された密室で告げられたのは、衝撃と期待をはらんだ本邦初公開のニュースだった。そこで、伊部氏から聞くことができた情報を「あくまで現状では」という但し書き付きでお届けする。
「これがもし成功すれば、G-SHOCKの象徴的なモデルになる」
「G-SHOCKの原点は『非常識』にある」と伊部氏は語る。当時、落とせば壊れるのが当たり前だった時計を壊れないものにした。それはやはり画期的で、その魅力が知れ渡るに従って、G-SHOCKは多くの人々に認知される商品に成長した。
当初、G-SHOCKのターゲットは「働く人々」だったと伊部氏。
伊部氏「それがやがて、エクストリームスポーツやストリートカルチャーの文脈に乗って若者に広がったんですね。彼らはせっかくG-SHOCKを好きになってくれたのだから、ずっとG-SHOCKのファンでいてほしいと思ったんです。
そこで、より上の年齢層に受け入れてもらうにはどうしたらいいかを考えました。答えは、やはりフルメタルウオッチになることだろうと。ただそうなると、G-SHOCKの特徴だった樹脂のガードが使えなくなってしまいますので、まったく新しい構造を考えました」
こうして誕生したのが、現在も高い人気を誇る「MR-G」の祖ともいうべきフルメタルG-SHOCKだ。そして、次に伊部氏がチャレンジしたのは「究極VS究極のコラボ」というテーマだった。
伊部氏「タフネスウオッチの究極をG-SHOCKとするなら、メタルの究極は何か。それは金ですよね。G-SHOCKの金無垢モデルを作ったらどうか、と考えたのです」
この金無垢のG-SHOCKは2015年のBASELWORLDでメディア向けに公開され、大きな話題となった。その後の日本でも、この金無垢G-SHOCKは各地の時計店を行脚して展示されたので、実物をご覧になった方もいらっしゃるのではないだろうか。
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伊部氏「ただ、いざ金無垢で作ってみたものの、販売はできませんでした。もともと世界にひとつのコンセプトモデルでしたので、落下実験ができませんし(笑、編注:なにせ『金』ですもんね)、製造の費用もとんでもない額なんです。ところが、これを欲しいという方がものすごくいらっしゃって、実験なんかしなくていいから欲しいと。でも、それはカシオとしてはできないことですから。
この金無垢モデルのとき、『こういうぶっ飛んだことをやってほしい』という反応がものすごくあったことに驚きました。そこで、もう一度G-SHOCKの原点に戻ってみようかと考えたのです。
というわけで実は、現在、とんでもなく非常識なことにチャレンジしています。ただ、できる確率が10%~20%程度しかなくて……。大変申し訳ないのですが、まだ内容は言えません。そういうチャレンジをしていることを、期待をされている方々にお伝えしておきたいんです」
このチャレンジは、来年(2018年)に35周年を迎えるG-SHOCKの新たなスタートでもあると、伊部氏は言う。これがもし成功すれば、G-SHOCKの象徴的なモデルになる、とも。
伊部氏「え? こんなことをやっちゃったの!? と思われるレベルのものに仕上げたいですね。今年(2017年)の後半には、より具体的な内容についてお伝えできるのではないでしょうか。そして、来年(2018年)のバーゼルでお披露目できたらいいなぁと思っています」
BASELWORLDの会場にいながら、早くも来年のBASELWORLDへの期待に胸ふくらむ不思議な気分だ。それにしても、やはりわからない。もう少しだけ、具体的な内容を聞かせてもらえないかと頼んでみた。
伊部氏「これは相当な変人(笑)でないとやらないだろう、と思われるようなもの。私自身、よくもこんなことをやろうとしているなぁと自分で思います。もしかしたらできないかもしれない。
そんな無謀なチャレンジに対しても非常にオープンなスタンスは、カシオという会社の良いところ。普通に考えたら、こんな確度の低い状態でお話ししないでしょ(笑)」
しかし……、そんな状態で、よく会社がOKを出してくれたものだと思う。これもすごい。
伊部氏「そうですね。開発にはかなりの費用がかかりますし。でも、会社は『いいんじゃない?』と。実現可能性が低いんです、と話しても『いいんじゃない?』と言ってくれました(笑)」
伊部氏への全幅の信頼ゆえだろう。しかもこの話、伊部氏は社内でも一部にしか話していないという(それを記事としてお伝えできるのはメディア冥利に尽きる)。
伊部氏「また伊部が何かやっているな、程度にしか思われないので(笑)。ちなみに加工についても、金無垢以上に難しい、とんでもない加工を考えています。それもあって、一般販売ができる商品にはならないと思います。
こういうアイディアって、突然降りてくるんですよね。金無垢のときもそうだった。すると、心の底に使命感みたいなものが沸々と湧いてくるんです。これは自分がやるべきだと。苦労するのはわかっていても、突き動かされちゃうというか。エンジニアの性(さが)でしょうね」
「可能性が見えたら、必ずお話ししますので」
伊部氏はそう確約してくれた。さぁ、一体どんな「とんでもないG-SHOCK」が飛び出すのか。続報に期待せよ。
(2017年3月22日 BASELWORLD 2017会場にて収録)