ここで、"コアユーザー向け"のiPhoneについて考察する。すでにいろいろリーク情報が出回り始めているが、代表的なものは「(OLED搭載の)次期iPhoneは最低価格が1,000ドルからスタート」という話題だろう。例えばiPhone 7 PlusのSIMフリー版を米国で購入する場合、ストレージ容量が一番小さい32GBモデルで769ドル(税別)、256GBモデルで969ドル(税別)となっている。256GBモデルは税込みで実質1,000ドルオーバーとなるため、OLED搭載iPhoneはほぼこれに近い水準が最低価格に設定されるということになる。これはOLEDのモジュールコストが現行の液晶モデルに比べて倍になることが原因とのことで、BOMの大幅な上昇が価格に転嫁された結果だ。実際、筆者が複数の関係者の話を聞く限り、OLED採用でディスプレイパネルのコストが倍増するという話は本当のようだ。現状で40-60ドル程度といわれ、通常モデルのiPhoneで200ドル前後といわれるBOMの3割程度を占めるディスプレイだが、これが一気に倍増することで100ドル近くに上昇し、諸処の機能追加等によりBOMはおそらく300ドルオーバーの水準に達する可能性がある。価格に対するBOMの比率を3割程度と想定すれば、1,000ドルオーバーになる可能性はかなり高いと考えられる。

本来、OLEDは部品点数の削減で将来的なコストダウンが期待されているものではあるものの、現状では供給可能な事業者がSamsungのみに限定されていることから、価格交渉でも供給量の面でも限界がある。そのため、今年2017年後半からはLGがOLED供給事業者として参加を予定しているといわれており、中国系サプライヤもおそらく来年2018年以降のAppleへの供給を目指しているものと思われる。Apple自身はOLED採用にかなり本気になっているといわれ、今後OLED供給ができないメーカーをメインのサプライヤから外す計画さえあるという。一方で、前述のようにコストと供給面の問題から全面採用にはかなりのハードルが存在し、段階的な移行をせざるを得ないのが現状だ。サプライヤが1社しかない2017年シーズンは全体の1-2割、参加メーカーが増える2018年には3-4割、そのさらに翌年以降は5割超と、おそらく今後3-4年程度でディスプレイ技術におけるトレンドを大きく転換することになるだろう。現状でiPhoneの年間販売台数は2億2,000万台程度だが、報道によればAppleはSamsungに対して次期iPhone向けに1億6,000万枚のOLEDパネルを発注したと伝えられている。2億2,000万の年間販売台数が横ばいだとして、1億6000万という数字は7割程度に相当する。Samsung側の製造キャパを考慮してもこの数字は大きすぎると筆者は考えており、実際にはリスクや"(1,000ドルオーバーという)スーパープレミア"な製品のニーズを勘案すれば多くて3,000-4,000万程度ではないかと推測する。今後3年先を考慮すれば1億6,000万枚という数字は眉唾ではないと思うが、2億2,000万台のうちの15-20%程度がOLEDモデルの妥当な水準だろう。

OLED採用がiPhoneにもたらす変化とは。写真は今年2017年1月中旬に撮影した米ニューヨーク市内のApple Store Fifth Avenue

OLED採用はデザイン面でiPhoneに大きな変化をもたらす。次期iPhoneでは「曲面ディスプレイ」が採用されるという噂が広まっているが、これは最たるものだ。SamsungのGalaxyシリーズのEdgeモデルを想像してもらうとわかりやすいが、本体フチのギリギリまでディスプレイパネルを配置できるため、"ベゼルレス"なデザインを採用しやすい。もう1つ、次期iPhoneには「ホームボタン廃止」の噂があり、ちょうどiPhone登場10周年にあたる次期モデルではその象徴的なホームボタンを廃止することで、本体左右だけでなく"下部"までベゼルレスなデザインを展開できる。つまり作り方しだいでは、日本ではシャープのAquosなどが採用した狭額縁デザインをさらに上回る「(ほぼ)全面ディスプレイ」な製品にすることが可能だ。

このホームボタンを廃止したiPhoneのデザインについて、KGI SecuritiesアナリストのMing-Chi Kuo氏が予想スケッチを公開している。それによれば、現行の4.7モデルと同サイズの筐体ではベゼルレスなデザインの採用により「5.15インチ」のOLEDパネルを収容可能で、同様に5.5インチモデルでは噂の「5.8インチ」のOLEDパネルを収容できるという。つまり現状のサイズ感そのままにディスプレイサイズを拡大できる。スケッチではOLEDモデルの下部に「Function Area」という領域があるが、これはおそらくiPhone 5で従来の3.5インチから4インチへのディスプレイサイズを拡大したときと同じトリックで、ホームボタン廃止による操作面でのペナルティをカバーするUI上の仕掛けが次期iOSでは採用され、システム制御用の操作エリアとして独立するのかもしれない。また、Kuo氏は「OLEDモデルと並んで液晶モデルの4.7インチと5.5インチ版は併売される」と予測している。OLEDの供給量や価格問題で液晶モデル併売はやむを得ないが(むしろ2017年はこちらが本命)、今日の「一部コアユーザーが高価格帯の製品を積極的に購入している」というトレンドを考えれば、現行のiPhone 7 Plusを買うようなユーザーはそのままOLEDモデルへと流れる可能性が高く、在庫リスクにもなる5.5インチを残す可能性は低いのではないかとも筆者は予想している。