パナソニックの「Let'snote」シリーズは、何か新しいことをするためのマシンというより、今までやってきた作業を最適化することに特化したマシンといえる。これまでのシリーズ展開で、モバイルノートの最適解へ行き着いた感があるLet'snoteだが、1月12日にパナソニックが披露したのは、シリーズ初となる"着脱式"の2in1 PCだった。

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発表された「Let'snote XZ6」は、専用のキーボードベースと組み合わせる12.0型のタブレットモバイルPC。タブレット部のみで約550g、キーボードベースに装着した状態で約1.019kgと、12.0型Core iプロセッサ搭載の着脱式ノートPCとして世界最軽量を実現している。

今回、新機種の開発に至ったきかっけや開発中の裏話を、開発を担当したパナソニック AVCネットワーク社 ITプロダクツ事業部 モバイル開発部 ハード設計1課 主任技師の3名、西本泰昌氏、間木紀行氏、植田弘典氏に聞いた。

パナソニック AVCネットワーク社 ITプロダクツ事業部 モバイル開発部 ハード設計1課 主任技師の西本泰昌氏(左)、同主任技師の間木紀行氏(中央)、同主任技師の植田弘典氏(右)

発表会でお披露目されたLet'snote XZ6

――「Let'snote XZ6」はシリーズで初の着脱式ということが、少し意外でした。まずは新機種を開発するに至った経緯を聞かせてください。

西本氏: 今回発表した「Let'snote XZ6」は、12.5型の2in1 PC「Let'snote MX5」の後継機なんです。開発にあたっては、実際のお客様に困っている部分をヒアリングしました。

MXシリーズは360度回転式のモデルで、タブレットとしても使える形状に変形できますが、現場でタブレットの需要はあっても、実際にタブレットとして使っている方は少なかったのです。「タブレットとして使うにはどうしても重い」というのが理由でした。「タブレットとして使うには使い勝手が悪い」と言われたこともあります。

そこで、「ノートPCとしてしっかりした製品」かつ、「タブレットとしても十分業務に活かせる製品」を開発しようと。ここがスタートラインでした。

――着脱式にする、という構想は最初にあったのでしょうか。

西本氏: 「軽いタブレットを作る」ことをスタートにした時、タブレットとして持てる重さは"700g以下"が良いということを、ユーザーへのヒアリングから判断しました。

700g以下というのは一体型だと難しかったので、タブレット部分を取り外そうと。取り外しても、Let'snoteは当然堅牢性を求められるので、取り外した部分の堅牢性をどう担保していくかが、開発で苦労したところでした。

また、タブレットとして使う場合、画面サイズは3:2が良かったんです。過去機種は16:9で、書類を表示しようとすると、どうしてもスクロールすることになりました。

まずはノートPC、そこからタブレットを切り離す。タブレット部分のアスペクト比は3対2で、かつ軽量、というコンセプトに行き着きました。

Let'snote XZ6のタブレット部分を持ったところ、キーボードベースを着けて持ったところ

――製品の方向性が決定したあと、どこから最初に手を付けるのでしょうか。

西本氏: 「着脱式」の方針が決まった後は、どんな着脱式にするか議論になりました。タブレットをベースとして、薄型の簡易キーボードを付けた着脱式PCも世の中にはありますが、タブレットで750g以上あり、それにストロークの無い薄型キーボードを付けると1kgを超える。実際ビジネスのお客様にとっては、「トータルとして重さを感じる」のではという懸念がありました。

間木氏: 重量の部分は、画面サイズとの兼ね合いでしたね。「A4の資料をフルサイズで見たい」というニーズを考えると、12インチの画面サイズが必要でした。その中で、どこまで軽くできるかという挑戦でした。全体の機構としても薄型化設計で軽くしていますが、例えば液晶やタッチパネル、バッテリがどこまで軽くできるのかと。

――重量に対するターゲット値はありましたか。

西本氏: MXのドライブ非内蔵モデルが約1.1kgだったので、そこを切ることは目標でした。ただ、目標値を1.1kgにして実際に作ると、できあがったものは1.1kgを切れなくなってしまう。強度やバランスの調整で、どうしても完成品は目標値を超えてしまうものなんです。

なので、目標値をさらに下回る数値を目標として掲げ、開発メンバーと「ここまで軽くする」という目標をそれぞれ立てました。各パーツごとに、この部品はこの重量でと割り振って。1gの重さ、1mmの厚さという限られたスペースを各パーツが取り合い、ミリ単位で細かい部分のカットを日々進めていましたね。各担当が頑張ってくれた結果が、今回のXZ6です。

タブレット部分に関しては、使い勝手として700gを切らないといけない。これを実現するために、さまざまな部品で「薄く、軽く」を突き詰めていきました。

たとえば今回、天板は従来の0.45mmより0.05mm薄い0.4mm厚の天板を採用しています。量産を踏まえ、メーカーと相談して決めました。「この薄さでは無理」など言われながら、量産できるギリギリの薄さで調整し、量産できないかもという厚さまで攻めました。本当にギリギリを狙えたと思います。

薄さは、MXベースの21mmですね。これを切りたいと思って開発してきましたが、ここはMXと同等になりました。

Let'snote XZ6で使われている0.4mm厚天板の表面と裏面

フロントシャーシは0.45mm厚となっている

――その軽量化のために工夫した部分はありますか。

間木氏: 一つに絞るのは難しいのですが、基板であれば、色々と試行錯誤して進めていきました。試作機も沢山作りました。沢山作って、沢山壊しましたね(笑)。

軽くしたいので、まず筐体を薄くする。そこで強度評価試験を行うと、強度が足りない部分に負荷がかかり、弱い部分が壊れてしまうんですね。その次の試作で、弱い部分だけ肉厚を上げるなど、改良を重ねていきます。

今回はシミュレーションの試験と、実際の物理的な試験を組み合わせて検証しました。まずは薄く作り、そこから足りてないところに追加していく、という方法で。最初に重たく作ってしまうと、軽く作れないんですよ。最初に軽くしないと、後から(落下や加圧など強度面での)再評価が必要になり、補強するなかで重くなってしまう。まずは軽く作って、壊れるところを明確にして、弱い部分に対して対策を打っていく。

試作機は、PC上のシミュレーション段階から、手作り試作、金型起こしまで、フェーズにもよりますが、設計分だけでいうと結局600台くらい作りました。それで、機構設計のメンバーがとにかく(強度評価試験で)壊しまくると。200台くらい壊しましたね(笑)。

――かなりの数を壊して、強化を重ねていったと(笑)。堅牢性を確保するには、どういった苦労がありましたか。

間木氏: Let'snoteシリーズでは100kgf加圧だったり、76cm(底面方向)や30cm(26方向)落下試験もやっていますが、モノがタブレットであれば、机の上から落としても大丈夫な強度が求められるなと。

ただそれは、従来のLet'snoteの構造では難しかった。Let'snoteには「世界最軽量」というイメージがあります。世界最軽量の製品を堅牢にするには、薄い部分を厚くしていくことになる。しかし厚くしていくと製品は重くなり、それはLet'snoteとしては許されない。大きなコンセプトの一つが"軽量"なので、軽量だけど頑丈にしようということに、ずっと苦労していました。

どうしたらいいかなと考えた時、横で"頑丈"がコンセプトのTOUGUHPADシリーズを作っているチームを見て、TOUGUHシリーズの一部で使われている3層構造をヒントにしました。天板とフロントシャーシ、タッチパネルそれぞれの間に、基板や液晶といった強度の低い部品を挟み込む構造ですね。

天板とフロントシャーシの間に基板を、フロントシャーシとタッチパネルの間に液晶を挟み込む3層構造を採用。天板にプレスラインを付け強度を確保するボンネット構造も採用されている

――TOUGHシリーズで採用されていた3層構造を、Let'snoteでも取り入れようと。

間木氏: 3次元設計の段階で、ですね。タブレットを着脱式にするとなった時、従来であれば、タッチパネル、液晶、基板が重なる構造になるのですが、液晶と基板が隣り合っていると、液晶に負荷がかかりやすいんです。すると、筐体をその部分だけ厚くしなければいけないので、どうやったら回避できるのかと考えていました。

その時、横にたまたまTOUGUHPADを開発しているメンバーがいて。液晶でこういう形(3層構造)を使えば、液晶や基板への負荷が低減できるのでは、という意見が出て、3層構造にたどり着きましたね。とはいえ、構想の段階だったので、実際にいけるかどうかは未知数でした。「いけて欲しい」という思いはありましたけども(笑)。

――本体では新しい機構として、薄型ファンやデュアル吸気/排気を採用していますね。この理由は何ですか。

西本氏: 薄型デュアル吸気・排気プラス薄型ファンのシステムは、Let'snoteでは初の採用ですね。今回、タブレット単体での厚みが9~9.5mmくらいなのですが、MXシリーズに内蔵していたファン自体が約9mmで、タブレット本体の厚みと、今まで搭載してきたファンの厚みがだいたい同じなんですよ。ファンだけを載せるわけではないので、タブレットの薄さ目標を考えると、過去の機構をそのまま持ってくることは無理でした。

じゃあ、どうやって排気させるか。スペースも限られているので、デュアルで排気し、一方で吸気も下2方向から吸い込むことで、エアフロー自体の改善を図りました。

植田氏: XZ6シリーズはタブレット利用がメインではなく、あくまでノートPCとして使い、何かあった時にタブレットとして持ち出せるという想定なので、ノートPCとして高いパフォーマンスが必要でした。第7世代Core iプロセッサは、MXシリーズの第6世代から更新しているわけですが、開発側から見ても消費電力が改善されていますね。

パフォーマンスも上がっていますが、細かい数値上の話なので、体感しにくいかもしれません。省電力という意味では、わかりやすく効いていると思います。

本体内部のデュアル吸気・排気構造

――高解像度ディスプレイやUSB Type-Cなど、流行の機能も取り入れていますね。ビジネス用途で使われるLet'snoteとしては、"らしく"ない気もしますが。

西本氏: Type-Cに関して言えば、世の中的にType-Cデバイスが増えつつある現状があります。これには、Let'snoteとしても対応していかないといけないなと。Type-Cの搭載はスムーズに決まりました。

ただ、周りを見わたしても、まだ従来のUSB(Type-A)対応機器も多い。そこで、キーボードベース側には、従来のUSBポートを載せました。電子会議をする、といった需要も多く、新しく専用ペンも用意しています。

タブレット部のインタフェース。DisplayPort対応のUSB 3.1 Type-C(Gen1)が搭載されている

キーボードベースのインタフェース。HDMIやD-Sub、USB Type-Aポートなど、需要の高い端子を揃えている

1,024段階の筆圧検知に対応したアクティブ静電結合方式ペン(オプション)

――今回の製品、「この市場を取り込みたい」という意味でライバル機はありますか。

西本氏: ライバルといいますか、あの薄い簡易キーボードを付けた12型着脱式PCを参考にはしました。実際自分が持ち上げてみた時に、タブレット部分も軽くないとしんどいなと。キーボードの打ち心地も含め、総合的にモバイルPCとして使った時に、よりいいものにしたいと考えていましたね。

――Surface Pro 4ですね(笑)。あちらは12.3型ですが。Let'snote XZ6を「よりいいもの」にするため、こだわった部分があれば教えてください。

軽さと、長時間駆動には特にこだわっています。タブレット単体でも、あくまで店頭モデルは550g・4.5時間駆動ですが、バッテリ内部に空間をもたせ、Webモデルではタブレット単体で9時間駆動するLバッテリ搭載モデルが選べるようになっています。若干重くなりますが、長時間駆動を優先するユーザーが9時間駆動するモデルも選択できるようにしました。

タブレット本体に内蔵するバッテリパック。バッテリパック内部にスペースを設け、容量を調節している

キーボードベースにもSバッテリ、Lバッテリの2種類を用意する

今、他社さんの薄型タブレットはいろいろあると思いますが、それでもタブレット内蔵バッテリが同じ筐体サイズのなかで、「Sバッテリ」「Lバッテリ」と2種類選べる仕組みになっているのは、ほかではほとんど無いと思うんです。その部分は意識しました。

あとは、装着できるキーボード。世間一般のデタッチャブルPCでは薄型キーボードが流行っていますが、実際に業務に役立つ機種は少ないと思うんですね。キーボードの使い勝手、という部分にもこだわりましたね。

――ありがとうございました。